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四之噺 北王子昴(きたおうじ・すばる)

夜空には、一つの巨大な円盤が浮いていた。


僕達の住んでいる街は、その巨大な円盤から放たれた、一体の巨大な怪獣に破壊されていた。

その怪獣はサメのような肌をもち、全身は金色であり、体の造形はゴジラに近い、典型的な怪獣であった。

頭部は二つに分かれており、その頭部だけ風呂場の風呂桶を逆さにしたような機械で出来ており、鋭いアンテナが一つずつついている。


「地球人よ、ただちに全面降伏せよ。ハイパー防衛隊の基地は壊滅した。我々ノルマンチブゴス星人に降伏すれば、月面都市に移住を約束し、全人類の生命を保証する。降伏しない場合は、70億の人類を抹殺する」


空に浮かぶ円盤からは、宇宙人の声が響く。

宇宙人の、史上最大の侵略が着々と進行されていた―――


早乙女姫也、つまり僕は、既に破壊されてしまった防衛隊の基地にいた。


防衛隊の基地は山中にあり、その近くには湖がある。

僕は、戦闘機が飛び立つための滑走路の砕け散った地面を踏みしめ、静かに立っていた。

因みに、今僕は自衛隊のものを改造したような、オレンジ色の戦闘服を着ている。

「あ、あの……話って、何ですか?こんな時に、早く戦わなきゃ!」

丸っこいヘルメットを被り、僕と同じ戦闘服を着た伊丹傷が燃え盛る街を見ながら、重そうな重火器を抱えて僕を叱責した。

勿論、彼女の顔面は見えない。

普段の彼女の静かな感じが全くしない、勇敢な態度であったが、僕は冷静に続けた。

ぺいん、大事な話なんだ。とっても、大事な話なんだ」

「……」

僕の真面目な顔を見た傷は、静かに重火器を下した。

僕は、夜空を見上げた。

燃え盛る街と反対方向の空には、沢山の星々が輝いていた。

ぺいん、君は僕に戦う意味を教えてくれたね……『絆』だって」

「そう、『絆』だから……」

伊丹はふくよかな胸を押さえながら、こくり、と頷いた。

この言葉は、前に怪獣を狙撃する任務についた時に、彼女から聞いた台詞であった。

その頃、僕は状況に流されて、嫌々戦っていた。

だが、今は違う……

「だから僕は戦う、でも、これが最後になるから……君には言っておきたいんだ」

僕が口にした不吉な言葉で、伊丹は明らかに動揺していた。

「さ、最後って…」

意を決して、僕は『真実』を口にした。


(ペイン)、僕はね、人間じゃないんだ!ネヴュラ遊星から来た、スペクトルセブンなんだ!」


背景の湖が光輝き、BGMでシューマンの曲がかかっていた……

早乙女姫也がそんな感じの夢を午前中の授業中に見た、晴れた日のことであった。


ある都内の高校の屋上から、今回の物語は始まる。

二畳ほどはあるブルーシートが敷かれた校舎の屋上に、三人の高校生の姿があった。

折りたたみ式のアウトドア用のチェアに深く座り、早乙女姫也は桜色に染まっていく街を眺めながら弁当を食べていた。

銀髪のボブヘア、少し縦に長い顔面。

身長は178センチ、体型は中肉中贅。

どこをとっても、どこにでもいる、普通の容姿であるこの青年は、学校の屋上に様々な私物を去年の中ごろから少しづつ持ち込み、自分の領土としていた。

と、言うのも、自殺防止に早く屋上への扉の鍵を直すように嘆願しても、先生方が全く動かなかったため、その反発心が作り上げた空間でもあるわけだが。

「ふう、食った食った…‥ご馳走様」

タコさんウィンナー、鮭、ほうれん草のお浸し、ミニトマト、ふりかけご飯。

姫也はそれをすべてたいらげ、楊枝で歯の間の肉片をとっていた。

高校生らしからぬ、非常にオヤジ臭い動作である。

「ふふっ、いい食べっぷりだったぞ姫也。作った甲斐があったと言うものだ」

本にドッグイヤーを作りながら、地面に敷かれたブル―シートに座っていた北王子昴はふふっ、と小さく笑った。

彼が食べていた弁当を作った彼女は彼よりも早く食事を済ませ、読書をしていた。


北王子昴きたおうじ・すばる


この高校に通う同じ二年F組の、出席番号27番。

早乙女姫也と同じく保健係で、帰宅部員。

すらっとした長身、モデルのような体型。

でる所はそれなりに出ている、そしてそれを包むセーラー服。

ショートヘアの黒髪に、中性的な顔立ち。

そして、真っ直ぐな大きい瞳。

いつも凛としており裏表がない彼女は同性の方が固定ファンがこの学校には多く、ボーイッシュを通り越してカッコいい、という印象だ。

因みにパンチ力100トンであるが、今回もその事はあまり関係ない。

姫也的にも、関係ないままでいてほしかった。

ジャンプ力、78m。

パンチ力、103t。

キック力、152t。

走力は100mを3秒。

上記のスペックは、仮面ライダー響鬼の能力ではなく、昴のスペックである。

彼女がそのボディスペックを全開にする事態など、そうはない。

あってほしくない、事態である。

そんな彼女が読んでいる本は、100円レシピの料理本であった。

彼女の座っている御座の周りには、ガーデニングの本や、など、家庭的な内容の本が平積みにされている。


「しっかし前より上手になったよなぁ昴。黒焦げの卵焼きとか、バラバラに裂けたタコさんウィンナーと

か、炊けてない米とか、ないもんなぁ」


感慨深げに、去年の彼女の料理を回想する姫也。

彼女が料理や洗濯などの家事を率先して行うようになったのは、去年の中ごろからであった。

「ふふっ、普通の女子なら好感度激落ちな台詞をサラリと言ってくれるな姫也」

当たり前だ、あれは人の食べる食い物じゃなかった。

そして、彼女の家事の実験台はいつも自分であった。

食事だけじゃない、洗濯にも付き合わされて一張羅を色落ちさせられたし、部屋の掃除に付き合わされた時も、花瓶を二つほど割られている。

とにかく、彼女が人が普通に食べられる食事を作ることが出来るようになったのは、僕の尊い犠牲があったからなのだ。

だから一言くらい言っていいもんだ、と姫也は思ったが、さすがにそれは言葉に出さなかった。

伊丹傷に対する「ゲルショッカー首領」発言を経た彼は『口は災いのもと』という日本語を覚えたらしい。

「感動のあまりに、最初のバージョンの弁当を作ってしまったらどうするんだ」

ムっとした顔を作り、むくれてみせる昴。

普段はクール&ボーイッシュ&かっこいいキャラで通っている彼女が、特に仲のよい人物にのみ見せるその表情は文句なしにかわいいと表現出来るのだが、言っている事が姫也にとってはあまりにバイオレンスであった。

「ほう、昴は僕の寿命をあと数年縮めたいみたいですねえ。生命保険かけときましょうかねえ僕…‥」

「いや、抵抗力をつけているだけだ。良薬、口にレガシィと言うだろう」

言いません。

とりあえず、ツッコむ気にもなれなかった。

確かに、昴の初期のモザイク弁当を食べて体を壊してからはよほどの物を食べない限り腹を壊さないようになったが、今一度あんなものを食べたら、抵抗力が出来る前に死んでしまう。

食後にモザイク弁当を思い出しただけで、胸からこみ上げるものがあったので、姫也は早くあの弁当の事を忘却出来るよう努力した。


「ごちそうさまでした…‥」


人ごみの中であったらかき消されてしまいそうな小さな声の主、伊丹傷いたみ・ぺいんは二人の元に歩み寄った。

彼女は二人とは少しだけ距離をおいて、自分で作ってきた小さな弁当を黙々と食べていたのだ。

彼女の頭部は黒い包帯に包まれており、その下は普通の女子高生であった。普通にセーラー服も身につけている。

「人前で食えるようになったんだな、メシ」

深々とチェアに座ったまま、姫也は伊丹を見上げる。

姫也が見たところ、ここ数日で彼女を包んでいた仮物『黒包帯(仮)』は少しずつであるが、少なくなっているようであった。

依然は空気を吸うために包帯が少しだけ緩く巻いてあるものの、完全に瞳や口、髪などが見えない状態であったが、今日は少し、本当に少しであるが違うようであった。

少し、少しであるが、瞳の部分に五百円玉サイズの穴があいており、よくよく覗くと、瞳が見えるのだ。


あの事件を経て、伊丹は姫也と昴の二人と共に行動する時間が出来た。


授業の合間や、今のような休み時間、放課後などが、その時間である。

まだ、主に姫也達側から、ではあるが。

「はい、まだ…‥ちょっと遠くでそっぽ向いてないと駄目なんですけど」

小さな弁当箱を胸に抱え、少しだけ嬉しそうに語る伊丹。

「ありがとうございます」

そして、彼女はあわてて礼を言い、頭を下げた。

姫也は少しだけ、それが水臭いように感じられた。

「いいよ礼なんて、友達じゃん。改めてそういうの、いいって」

手をふるふると振り、めんどくさそうにそっぽを向いて週刊少年ヴァンプで顔を隠す姫也。

因みに雑誌を反対に持っているのは、お約束である。

水臭くもあるが、素直に感謝された恥ずかしさもあり、悪ぶってみせているのだ。

「そうだ、私だって伊丹の友達だ。それに…」

昴は姫也と対照的に、伊丹を真っ直ぐに見つめる。


「姫也に『礼なら体でしてクレクレクリャリンコ』なんて言われかねないからな、気をつけた方がいい」


ふふっと笑いながら、昴は姫也の方を見つめる。

「かっ、かかか……体ですか!?」

普段以上にどもり、もじもじしながら内またで体をガードする伊丹。

多分、包帯の中の素顔は赤面しているであろう。

「なっ!?お前は俺をエロゲの主人公にしたいのか!?しかもなんでクレクレタコラなんだよ!!」

これだけドン引きな台詞を口にする幼馴染も珍しいであろう。

北王子昴、見てくれや普段の言動は確かに気さくでボーイッシュ&カッコいい美少女で通っているが、一皮剥けばこの通り、僕をからかうことが生きがいの、ただのオッサンになる事があるので、対応に困る。

「先ほどの素敵な失言のお返しだ」

ふふん、と得意げに言い、雑誌を読み始める昴。

「そりゃどうも……」

昴にそう言われると、返す言葉がなかった。

最近、言葉の重みについてよく考えるようになった早乙女であった。

「あ、伊丹、気にしなくていいからな」

今後のために、とりあえずフォローはしておく姫也。

ただでさえ、ガチのシスコン、ロリショタコン疑惑を学校内の一部の過激派から囁かれているため、これ以上のレッテルが作り上げられるのだけは防ぎたいのである。

「あ……は、はい」

伊丹は照れ隠しに少しだけ俯き、自前の赤川次郎の小さな小説で顔を隠す。

文庫本サイズのため、全く隠れてはいないのだが。

(体…か)

早乙女は週刊少年ヴァンプで顔を隠しながら、無意識に伊丹傷の体を見つめていた。

伊丹の顔は相変わらず黒い包帯に包まれているが、その体は制服に包まれた、普通の女子高生である。

以前、見たときにも思ったことであるが、出ている所は、しっかり出ているのである。

足も健康的な脚線美を描いているし、今日は黒いハイソックスを履いていた。


「……いい天気だな、姫也」


昴は立ち上がり、ニコッと笑ったまま、姫也の肩を背後からポン、と叩いた。

「そ、ソウデスネ…あはは」

少し、ひきつった笑顔で答える。

やわらかい指が、メリメリ、と肩に食い込む。

そして、その指よりも柔らかい、彼女の突起が背後から右の頭部分に、ほんの少しだけ接触した。

少しだけ振り向くが、彼女はまだにこにこ笑っていた。

「……確かに、いい天気……ですね」

伊丹は姫也の少し不純な視線も、昴のやきもちにも気づかずに二人に同意し、伊丹は呑気に背伸びをして空を見上げた。

彼女だけは、ほんわかした雰囲気だった。

他二人は、。ピンク色なんだか紫色なんどかよく分からないオーラに包まれていた。


「あの…‥昴サン、僕に当たってたり、握り潰してたりするんですが?」

「ああ、二つともわざとだ」


天国と地獄の感触を味わえるなんて、幸せな男だなあ、と姫也は思うように勤めた―――



つづく

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