拾弐ノ噺 早乙女姫也を殺したもの
僕は死んでいた。
某のびた君のお家に酷似した、ひきこもり少年「不出永蔵」の自宅前の道路。
そのアスファルトの大地に、僕の死骸は倒れている。
ボブカットの銀髪。
二重のぱっちりとした(と、よく言われている)瞳。
少し縦に長い顔面。
身長は178センチ、体型は中肉中贅。
どこをとっても、どこにでもいる、普通の容姿であり、特徴がないのが特徴、とよく言われる。
戦闘中に脱衣したため、赤いTシャツに学ランのズボンだけ身に着けている。
だがそれはもう、早乙女姫也ではなかった。
その人の形をした塊は、もう、僕ではないのだ。
夕焼け空が、その僕だったものを更に赤く、赤く染めていた。
『ゲームセット、思ったより手強かったです』
黒くシンプルなメイド服のスカートに、黒いハイソックスを履いた足。
そして、その下半身から生えている背骨の形をしたレールガン。
それが今、僕の死骸の前に立っている戦闘用人型機械七三式、通称ナナさんの姿であった。
上半身は先ほどの僕の改心の一撃を喰らい、家の壁際に吹き飛んでいる。
もう、それは人の形を逸脱していた。
上半身が外れても全く問題なく動くことができるメイドロボ、しかも背骨が武器になっている。
しかも感情が介在しない故に、その武器を躊躇せず人間に対し使用できる。流石は機械、といったところか。
全く、見た目も中身も恐ろしい敵だ、と、僕は思った。
だが、しかし、本当に恐ろしいのは…
「ま、確かに本当にゲームセットだわな」
僕は「不出永蔵」の家の赤い屋根の上、二階の部屋の窓の前にいた。
そう、本当の、正真正銘の、紛れもない、人間、早乙女姫也である。
ボブカットの銀髪。
二重のぱっちりとした(と、よく言われている)瞳。
少し縦に長い顔面。
身長は178センチ、体型は中肉中贅。
どこをとっても、どこにでもいる、普通の容姿であり、特徴がないのが特徴、とよく言われる。
そして上下に学ランを着た、いつものスタイルの僕である。
『なっ?!』
さすがに、七三式は驚きを隠せないようであった。
上半身が吹き飛んでいるため表情は分からないが、七三式の下半身は明らかに動揺を超えて、混乱している。
上半身は相変わらず、吹き飛んだままであったが。
「いやぁー作戦通りだったね、ここならナナさんは攻撃出来ないし、何より僕達がその気になれば、君のご主人様を攻撃出来る」
僕の隣で、甘噛祈理は姿を現す。先ほどの光迷彩を解除し、この屋根よじ登るために使用したロープをスポーツバックの中に片付けていた。
そして真面目な表情のまま、予備のマシンガンを取り出し、カーテンの閉められた窓に突き出す。
それは、無言の威圧であった。
すこしでも動いたら、トリガーを引き、この中の部屋にいる君のご主人様を蜂の巣にするぞ、という。
『や…‥やめなさい!っていうか?!え!?何?!何なの?!あなたは今、私が倒したハズでは?!』
そう、この部屋には奴がいる『不出永蔵』が、確実に――
だから彼女は攻撃できない。
彼女の発言通り、彼が留守であれば、彼女は即座に僕たちを攻撃できるはずなのだ。
だが、彼女はそれをしない。
つまり、彼は確実にこの家の中にいるのだ。まあ、だからこそ僕達は戦っていたわけだが。
レールガンなんか使用したら、その弾丸は僕達どころかこの家の壁すら貫通し、不出もただでは済まないであろう。
僕達は、不出を人質にとったのだ。
甘噛は、最初からこれが、いや、これ『だけ』が狙いだったのだ。
先ほどレールガンで殺害された『偽』偽早乙女姫也は完全なる囮で、僕達が家の壁をよじ登るための時間稼ぎに過ぎなかった。
そして、その『偽』早乙女姫也というのは…‥
「ああ、あれね――あれはボクの知人が作った、君と似たようなロボット。まあ君の方が性能は上だったようだけど」
細かい部分の説明を端折り、僕が二人いるトリックの種明かをする甘噛。
つまり、先ほどまで七三式と戦っていた僕は、実は「早乙女姫也」の人格などのデータを完全にコピーしたロボットなのである。
それもまた、甘噛が知人から手に入れたものらしい。
全く、こいつはドラえもんか本当に、コピーロボットじゃねえかこれ完全に。
「まっ、そういうわけだ」
理解不能であった状況を、ようやく理解した七三式はレールガンを背骨の形状に戻した。
そして、下半身だけで身を乗り出そうとしていた。
下半身だけでも跳躍し、窓際にいる僕たちに迫ってきそうな勢いである。
『ご主人様!?』
「動くな!!安心しろ、何もしやしない…‥」
そう、僕たちは別に、メイドロボをぶっ倒しに来たわけでも、不出をマシンガンで殺害しに来たわけでもなかった。
「ただ約束してくれ…‥盗撮だけはするな。学校来い、とまでは言わない…‥ただ、いくら自分が不幸だからって社会に迷惑かけてんじゃねえよ!!」
そう、ただ、盗撮という、卑劣な手段で社会に復讐しようとする不出少年が許せなかったのだ。
だから、それに気づいた甘噛は考えた、どうにかして、説得する方法はないのかを。
そして、その手段は、この方法であった。
最初はロボット姫也を囮にして敵を外に引き付け、僕達は光迷彩で内部に入るつもりだったのだが、この『ナナさん』というロボットに話した方が、不出の部屋に侵入するより刺激が少ないと、甘噛が咄嗟に判断したのだ。
本当に、甘噛という少女は『仮物』の『天敵』である、と僕は思う。
ただ、味方であるから、とてつもなく頼もしい限りなのだが、彼女の戦術には、度々度肝を抜かされる。
味方すらそうなのだから、そんな甘噛を敵の回したナナさんとやらは今、凄まじく戦慄しているのであろう。
なにしろ、自分の一番大切なものを、人質にとられているのだから。
『…‥』
七三式の下半身は無言のまま、ばたりと地面に倒れた。
『ご主人様は…‥学校の撮影は確かにしていました、でも、女の子の裸を盗撮したりはしていません』
と、同時に上半身が腕のみでゆっくりと体を起こして顔を上げ、僕の瞳を見て首を横に振った。
もう、顔面のほとんどが原型を留めておらず、その彼女が顎をだらんとさせて謝る様は、不謹慎ではあるがホラーじみている。
どうやら二つに分裂した場合、どちらかしか動けないようである、不憫な仕様の体だ。
「あ、そうなの?」
意外そうに甘噛が呟く。
僕にも、七三式が言う事実は意外であった。
完全に不出は盗撮魔の変態だと、思っていたからだ。証拠(盗撮昆虫ロボ)もあったし。
『ご主人様は…‥学校で隣のクラスの人からイジメにあい、完全に引きこもってしまい、仮物の力で私や様々な機械を作り、三ヶ月間、一人で生きていました…‥』
俯きながら、七三式は言う。
顔面が殆ど潰れているため表情は分からないが、それでも彼女が悲しそうな感情、を抱いていることは感じた。
ロボットであるが、そういう風にプログラミングされているのであろう。
「じゃあ、なんで盗撮、というか学校なんか撮影してたんだよ…‥」
僕は疑問だった。
普通、そこまで学校でいじめを受けたら、仕返しこそすれ、ただ学校の風景を見るなんて、不快になるだけだと思うからだ。
『これはあくまで私の考えですが、風景を見て…‥いたかったのだと思います、何気ない学校の風景を。自分がいたかったけれど、いれなかった場所を。』
そういうことか。
彼は何も、学校の全てを嫌っていたわけではないのだ。
ただ、自分はそこにいる事ができなかった。
だから、彼は昆虫ロボで、学校を、皆を見ていたのか。
「未練か、自分を排除した、世界への」
カーテンに閉ざされた窓を見て、僕は自然に銃を下ろしていた。
彼は、加害者になるような存在ではない、この七三式の言葉を、全て信じるならば。
だから、僕は銃を下ろしたのだ。
『お願いします、彼の楽しみを奪わないで下さい、そして、彼の領域に入らないで下さい、彼にはもう、それくらいしか楽しみがないんです…‥お願いします』
七三式は上半身だけで、器用に土下座をしていた。
もうここまでくると、彼女は人間と同じ感情をもっているのだと、僕は感じた。
機械は、人間にそこまで尽くさない。
機械は大破してまで、土下座など、しない。
「そうだったんだ、なら…‥ボク、悪いこと言っちゃったね」
甘噛は銃をバックにしまい、屋根から塀の上へと跳ぶ。
「おい!甘噛!」
大丈夫と言いニッコリと笑うと、道路に下り立った甘噛は七三式に向かい、歩いていく。
僕はその突拍子もない行動に驚き、道路に下りた。
屋根から直接跳んだため、足から全身に激痛が走る。痛い…‥
まだ、彼女の、ナナさんの言葉が全て本当か分からないというのに、甘噛は疑うことなく、全てを信じたのだ。
まだ、反撃される可能性だって残っているというのに、彼女はその可能性を否定したのだ。
甘噛は全くの無防備で、ゆっくりと、土下座を続けるナナさんに近づいた。
『何が…‥です?』
顔を上げたナナさんが、不思議そうに甘噛を見つめる。
僕も彼女が謝る理由が分からなかった。
僕達は、良いことをしていない代わりに、悪いことをしたわけでもないと思うのだが。
「君をセクサロイドって言っちゃったじゃない?謝るよ、ごめんなさい。いきなり攻撃してきたのも、この「目」が怖かったんだよね?全てを見通す『灰ノ瞳』で、君のご主人様の領域まで見てしまったんだ、君が排除しようとするのも、分かるよ」
『え…‥?』
頭を深々と下げて、甘噛は謝っていた。
七三式はその姿に驚き、砕けた口を半開きにして、ただただたじろいだ。
「そこまで男の子のことを想えるんだから、君は女の子なんだよ。だから、失礼なこと言っちゃて、ごめんなさい」
そいいうことか。
甘噛は、ナナさんというロボットを少女と捉えているのだ。
だから、不出に仕える彼女を馬鹿にした自分が許せなかったのだ。
そして、甘噛は、自分の『灰ノ瞳』が相手に与える心理的な脅威も十分過ぎるほどに分かっていた。
彼女の言うとおり、『灰ノ瞳』は不出の部屋や仮物の能力を全て見通した、だから、ナナさんや、バービーゾンビ人形が過剰反応し、僕達を排除しようとしたのだろう。
ご主人を、守るために。
『あ…‥頭を上げて下さい、困ります』
顔を上げると、甘噛はニッコリと笑っていた。
それはいつもの、つかみどころのない彼女、甘噛祈理の笑顔であった。
「体が直ったら、今度一緒に遊びに行こうよ、ボクと、姫也クン」と一緒にね」
『えっ、ですが…‥』
甘噛の言葉に驚き、ナナさんは言葉に詰まっていた。
それもそうであろう。
甘噛の提案は唐突であったし、ご主人である不出を差し置いて外の世界で遊ぶことなど、ナナさんにはできないはずだ。
「彼に、外の世界を見せてあげようよ、ナナさん。あと…‥メイドさんにも急速は必要だよ?」
ふふっ、と笑い甘噛はナナさんの頬に手を添えた。
「ご主人様に…‥相談しておきます」
そういって、ナナさんは一礼すると、両腕を使い、上半身だけで家の入り口へと向かっていった。
僕たち二人は、夕闇の中の家へと戻っていくその後姿を、静かに見つめていた…‥
だから、甘噛祈理は完璧な美少女なのだ。
普通の女の子以上に、女の子の気持ちを分かってやれる。
だから、好きになりそうになってしまう自分がいる。
だから怖い、怖いけど…‥とてもかわいい。
そんな不思議な存在が、甘噛祈理なのだ。
本人に言ったら、絶対調子に乗るから、死んでも言えないのだが――
「なんか…‥スカッとしないなぁ」
そんな事件も解決し、僕たちは帰り道を歩いていた。
甘噛が焼き芋が食べたいというので、あまり気乗りはしなかったが、商店街を通過していた。
「仮物が絡んでる事件は敵を倒してハッピーエンドってほど、単純じゃないからね…‥人生も、そうじゃない?」
僕の隣で、甘噛は首を傾げて僕の顔を覗き込む。
確かに、そうだ。
仮物が絡んでいる事件は終わっても、僕たち、今を生きる人々の人生は問題や不安を抱えながらも続いていくのだ。
だから、またどこかで、仮物の事件が起こったら、地道に対処していくしかない。
そうすることしか、僕たちにはできないからだ。
どういうわけか、僕は巻き込まれる確立が高いわけだし。
まあさすがに、明日は起こってくれるなよ、連日はきついから。
「お前は時々、凄く達観したようなことを言うなぁ」
「まあ、色々見てきちゃってるからね…‥目がいいから」
甘噛は、周囲を見回して、少しだけ寂しそうな表情をする。
「治らないのか?…その目」
僕は不安になり、甘噛の顔を覗き込む。
僕は、甘噛の仮物『灰ノ瞳』を治す方法をしらない、本人に聞いても、はぐらかされてしまう。
だから、不安だった。
「ん?灰ノ瞳?これが治る時は、そうだね…‥多分、その時は確実に姫也クンは僕と結婚してると思うよ」
ニコッ、と笑い、甘噛は僕に向かって唇を突き出した。
彼女が何をしてほしいかは、僕は分かっていた。
道行く人々は、彼女と僕に釘付けであった。
確かに、何も知らない人には、僕が美少女にキスをせがまれている少年にしか見えないであろう、だが、悲しいかな、真実は違う。
視線が、痛い!
「あのなぁ…‥」
僕は呆れたように呟く。
「その時の僕は甘噛の言葉の本当の意味など分からなかった。ただ、僕は夕日をバックに彼女の華奢な体を抱きしめ、そして唇を――」
僕は、ポカンと甘噛の頭を叩く。
「勝手にナレーション入れんな!!」
甘噛は笑いながら頭を押さえながら、小さな明かりが灯し続ける活気のない商店街を一気に駆け出した。
「へへっ捕まらないもんねー!」
「コラー!!待て甘噛ーっ!!」
あれ?
この構図ってリア充のカップル同士の追いかけっこにしか見えないような…‥
次回につづく
第5回ウラけもの
「いやぁー今回は大変でした、こんにちおはばんち!甘噛祈理です!」
「やあみんな、ヒロインだというのに今回は全く出番のなかった北王子昴だ、今回は姫也が吹っ飛んだので、びっくりしたぞ甘噛!」
「おっいきなりですね昴ちゃん、そうなんですよ。別にボクはぶっ壊そうと思って早乙女姫也ロボを使おうと思った分けじゃないんだけどねぇ…‥」
「もっと早乙女姫也ロボが強ければよかったのだ、あれではオリジナルの姫也よりも弱いぞ」
「まぁ姫也クンの正々堂々と卑怯なことをするファイトスタイルは完全にコピーできていたんだけどねぇ、うーん、エースロボットみたいに劣化しちゃったのかな」
「いや、本物の姫也なら、脱衣し下半身を見せ付けて、相手が怯んだ隙に鈍器で殴りつけるくらいの卑怯な攻撃をするぞ」
「えーっ、さすがにそっれはないから!」
「しかし、ロボットなら、必殺技の剣があってもよかった気がするな」
「うーん、。そーどすねぇ」
「電撃剣スーパーサンダーボルト使ってほしかったな」
「昴ちゃん、多分みんなわかんないからその技…‥」
「そうか?なら、重甲気殿大圧殺なら…‥」
「もっと分かんないと思う」
「そんな、これがカルチャーギャップか!」
「平成生まれでしょう昴ちゃんも…‥」
「ん…‥なら、パレットナイフとかプログレッシブライフルとか」
「まあ比較的メジャーだけど、武器名間違っているよ」
「もういいよイデオン波動ガン装備すれば」
「いやぁ、それはまずいよ……さて、次回は姫也クンの妹ちゃんが出るよ」
「私も登場するんだろうな」
「もちろん、ボクのターンは当分後だね」
「そうか、では次回もみんなで見よう!」
「思いっきり昭和の予告だね」
続く