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 リアンは沈んでいくラウルと石板を乗せた天井に飛び乗ろうとした。そのために身構えたが、同時に降ってきたそれは、そんな行動の選択を奪っていた。

「こいつら!」

 剣を抜きながら、一面で納得した。なるほど、と。

 この迷宮の地理のことだ。ここの頭上には、なにがあったのか。その答えが目の前にある。


 二層目の終盤、分かれ道の左にはすぐに曲がり角。そこからメイが覗き込んで見たものは、リアンがモンスターハウスと称した魔物たちの集合地だった。鉄格子越しに見えたその数をラウルが調べると、八から十と言った。

 そこを避けて右に曲がると、よくよく考えればそのモンスターハウスを抱き込むようにして回廊が続き、傾斜が下り、その階段が続いた。ならばこの石板の行き止まりの真上が、そのモンスターハウスになっている筈だった。


 鉄格子が独りでに開いた。中から、魔物が押し寄せてきた。

「爺、下がってろ! シェラ、加われ!」

 ここで時間を取られてはいけない。ラウルは下に沈んだのだ。どうにかして三層目の扉を開けて最下層に向かわなければ。

 シェラが体勢を崩した老人の襟を掴んで引っ張り、背後へ押しやり、同時に剣を抜いた。メイは、言われるまでもなく動いていた。既にリアンが指示を出した時には、先頭の二体の目を潰していた。


「邪魔!」

 致死性の毒を塗った刃を、容赦なく刺していく。一時的にでも行動不能にさせれば、毒が命を奪ってくれる。ならばメイの役割は、たとえ自身が傷つこうと血の管に毒が乗るように一人でも多く、なによりも素早く、刃で敵を傷つけることだ。


 問題は、二層目でも手こずった骸骨だけだ。が、それはメイの役割ではない。かといってリアンでもなかった。

 リアンはメイが傷つけた獣人に一撃していく役割である。こうとなればもう前後の思慮もなく、刃に身を曝してでも一撃することを選択して、振りかぶっては打ち、引いては突いている。


 普通、こういう場面では焦ってしまい、それが思わぬ不手際を生むのだが、普段無駄口も思慮も多いこの男はどういうわけか、こちらの方が手際が良い。

 四人の獣人が転がった。痛みに呻いているが、それもじきに終わる。メイの毒が急速にその命を奪うだろう。

 骸骨は既に二体、頭を砕かれてガラクタになっていた。

 シェラである。


「むんっ」

 膂力の凄まじいシェラが、骸骨だけを残して役割を終えたメイと入れ替わりに進み出て、まず剣を両手で縦に一線。力任せの斬撃に頭蓋骨を粉砕された骸骨が一瞬でバラバラになり、それを見るよりも早く、両手を剣の柄から外して、その奥の骸骨へ踏み込んだ。 

 両手は空である。カタカタ、と骸骨の関節部が鳴って、剣が下りるよりも早く、その柄を片手で制し、もう片方の手で頭を鷲掴み。そのまま、ぐき、と左に曲げて圧し折る。

 ものの一分といううちに、八体は死体とガラクタになった。


「立て爺! この先の扉を開けろ!」

 リアンの物言いに余裕はない。呆けたように腰を抜かした老人の襟を引っ掴んで、引き摺って行く。

「どうだ!」

「お、おう・・・・・・」

 血相を変えた三人に詰め寄られ、老人は扉に手を掛けながらその傍の壁に彫られた字に目を遣る。が、それを読み解くよりも早く、扉がきぃ、と開いた。


「え、開いてる?」

「行くぞ」

 開いた理由など、リアンにとってはどうでもよかった。早く下へ抜けて、ラウルを救わねばならない。

 ただ神学者だけが、その扉の開いた理由に震えた。

『一人捨てても入りたいか?』

 壁には、そう彫られていたからだ。




 意外にも、部屋はずしりとした重みを持って止まった。

(下に移動したのか)

 この直方体がすっぽりと下に移動して空いていた区画に収まったのだろう。自動か手動かは判らないが、大仕掛けである。その仕組みにも興味は湧いたが、それよりも、奥に広がる闇から足音がする。


 いや、足音と形容するべきなのかどうか。硬いものを石の床にぶつけるような音が、一定間隔で複数。ラウルは慌てなかった。おそらく、死ぬだろうと思ったからだ。

(俺は、足を引っ張ったのかどうか)

 気になるのはその一点だった。近づいてくる足音らしきものが、武器を携えた獣人や骸骨の群れであろうとなかろうと、リアンたちと分断された時点で死が確約されたようなものだ。ならば、自分はもういい。問題は仲間たちである。彼らにとって、自分はどうだったか。

 それが気になった。


(まあ、もう過ぎたことか)

 ふい、と暗闇から視線を逸らした。足が痛い。靴を貫通して、足裏に針が刺さっていて、その根元は床の穴から伸びている。動けない。腰を回して、石板を見た。

 暗い。そう思った瞬間、壁に松明が灯った。


(・・・・・・?)

 上階と切り離されたこの小部屋にはなかった筈だ。ならば、下の連結した廊下に元々あったものなのか。よく判らないが、灯りが出来たのはいいことだ。石板の文字をゆっくりと追った。

(ふむ・・・・・・)

 読むうちに、奥からの足音が近づいてきて、やがて止まった。


「ほほ、熱心よな」

 女の声が、頭上から聞こえた。

「この迷宮の主ですか。どうか邪魔しないでいただきたい。死ぬまでの時間に、これを読んでおきたい」

「読めるのか?」

「いいえ、専門外ですから。ですが読める先輩を連れてきて、読んで頂きました。法則らしいものはなんとなく見えました。あとは勘です」

 語学は結局のところ勘だ、と専門の同輩がかつて言ったことがある。なんとなく、ラウルはこの期に及んで判った気がした。


「不敵な。普通は泣いて許しを乞うものぞ。私を見ようともせず、よくも語るものかな」

「貴女の名は、ネルレイニア、ですか?」

 ようやくラウルは振り向いた。

 ぎょっとした。さすがに、こんな異形は想像もしていなかった。

 ラウルの背丈ほどはあるだろうか。虫の胴体のようなものがあった。そこから、左右に三本ずつ、剥き出しの骨の脚が伸びて地面を刺すように立っている。脚の関節は二つあるらしく、それらしい傾斜が認められた。

 顔を上げると、その胴体の上に巨大な裸身の女の上半身があった。


「・・・・・・その名を、どうやって知った?」

 女はラウルを丸呑みに出来そうなほど大きな顔の、唇を歪めて問うた。

「いえ、推測です。霊薬は、死んだ人を死んだまま生き返らせるわけではなかったのですね」

 この英雄譚の結びは、勇者の非業の死で結ばれている。霊薬を奪って故郷に帰り、死んだ恋人を生き返らせた勇者は、自分を騙したとはいえ人間を殺した罪を神に問われ、雷に打たれて死んだという。生き返った恋人は悲憤し、その亡骸を食った、と結ばれていた。


「人が人を食える筈はない。きっと、人のまま生き返れなかったのでしょう」

「そのことと、私が何故同じだと思うのか?」

「はて、そういえばそうですね。何故でしょう」

 きっと落ち着いているように見えて、気が動転しているのだろう。勘でなんとか推測して読み解いた英雄譚の最後の一文が女で、目の前に現れた怪物も半分が人間の女だから、つい混同してしまったらしい。

 ラウルは不思議そうに小首を傾げたが、女は笑った。


「ほほ、面白い男の子よ。その可愛さに免じて答えよう。が、期待するほど明白な答えではないぞ。心せよ。

かつてはその名で呼ばれたこともあったやもしれん。なにせ古い記憶だ。うっすらとその名に覚えがあるという程度よ。今では私がそうであったか、自信もない。しかし、なんとのう懐かしい響きがある」

 血の気をまるで感じさせないほど、白い肌の女はくっくと上半身を揺らして笑った。

 ラウルは好機だと思った。なにに対しての好機かは判らない。生き残ることに対してなのか、それともこの女の戦力を削いで、仲間の負担を軽くしてやれることを指すのか。

 ラウルは魔法を使おうとした。しかし、その瞬間、


「させぬ」

 すっと、女が、ネルレイニアが右手をラウルに向かってかざした。

 急に、閉塞感がラウルを襲った。手を伸ばしてみると、なにか濃密な膜のようなものを感じた。

「これは・・・・・・」

「魔法使いであったか。まあそうであろう。これだけの知りたがりは他に居るまい。

 案ずるな。まだ殺しはせぬ。その名を口にした褒美、なによりも耳障りな命乞いをせぬところが可愛い。しかも、見ればまだ幼い。その唇から囀る言の葉の、愛らしさを今摘み取るには惜しい。食うくらいはいつでも出来る。そなたは、しばらく飼うてやろう」


「鳥かご? しかし、見えていない。光の量、か・・・・・・?」

「これは大変な知りたがりじゃ。そちらの方が気に掛かるかえ?」

 女の上機嫌は揺るがない。ラウルの抵抗は、仔猫が嚙みついた程度にしか思えないのだろう。

「魔法は魔の法、決まり事というのは知っておろう。生命を生かす力をその法に嵌めて、決まり事を守らせるのが魔法よ。弁えておるか?」

 子にでも諭すような、優しい声音だった。思わずラウルは頷いた。

「炎を燃やすなら、燃えるという決まり事を守らせる。その強制力を魔法というのだ。原動力は、使う者の生きる力。当然使い過ぎれば疲れもするし、回復も叶わぬ領域に届けば斃死しよう。そなた・・・・・・」

 と、ネルレイニアはそこで一旦言葉を切って、ラウルをしげしげと眺めた。


「ふむ、名前を訊きそびれたな。答えれば続きを物語ってやるが、どうだ?」

「え? ああ、ラウルです」

「おほほ、おぼこいな。魔法を使う者に容易く名を教えてはならぬぞ。祝うも呪うも気持ち一つ。どうやらもう外には、それほどの魔法使いはおらぬと見える」

「教えろというから教えたのです。続きを教える気はないのですか?」

 妙なやり取りである。ネルレイニアにはそれがおかしいらしい。


「ふふ、悪かった。そう怒るな。古びると若いものをいじめたくなるのだ。

 しかしな、あまり可愛げを見せぬ方がいいぞ。何事も過ぎれば毒よ。余ってそなたを口に入れようかと思いかねん。それ見ろ、こんなに涎が」

 がば、と口を大きく開いた。

 赤い口。人間の口腔と造りはまったく同じ。しかし、言葉の通り消化力を持った粘液に満たされたその様を見ると、急に恐ろしくなった。

 人の言葉で語るこの女は、今までどれだけの命を食ってきたのか。その光景に現れているような気がした。


「ほれ、言うた端から。ふふ、まあ良い。飼い殺すつもりが、目に余ってつい食ろうた時の、その喪失感と後悔も快かろう」

 怪物である。この女はその異形以上に、永く生き過ぎたために人の心を失い、怪物の心に変貌してしまっている。

 言葉を交わせていても、意思や心は交わせない。そう思わせるだけの隔たりが、その短い独り言に宿っていた。


「まだ続きが聞きたいか?」

 口が裂けたような笑みに、思わず頷いた。

「この迷宮で死んだ者は私の供物になる。進めば進むほど、それが研げてくる。より濃密に、より豊潤に、より尖鋭に、な。ここまで辿り着いた者なら、それはもう舌を刺すように」

「いったい、どれほどの人を・・・・・・」

「言うな。それを問うならば挑む欲深い者どもを糾弾することになろう。確かに餌は用意したが、そも餌を狙う者がなければなににもならん。そなたらは望んで我が餌になりに来たのであろう。その善悪を問うなら、私を殺して餌を奪うそなたらの強欲の是非をも問わねばなるまい」

 なるほど、とラウルは思った。この女は人間に理解し得ない怪物の狂気の中にありながら、理の筋道は通っている。


「ほうれ、また横道に逸れた。そなたが茶々を入れるからだぞ。話が進まん」

「す、すみません」

「ああ、謝るな。私は楽しい。久しぶりに話をするのだ。もっと横槍も茶々も入れよ。連れが来るまでまだまだ暇がある。そなたの話も聞いてみたい」

 これは好機なのかどうか、ラウルには判らない。しかしこの怪物の機嫌が良いのは自分の命と仲間の救出までの時間を稼ぐという意味で、悪い方向に働きはすまい。ラウルは言った。

「これは、魔法だというのですか」

「いや、その前だ。それはな、私の生きる力そのものだ。魔法よりも現象としての固定が緩いのでな、不安定ではあるがそれだけに打ち消せもせぬ。ああ、下手に触らぬ方がいいぞ。人体にどんな影響があるか、私にも判らんのでな」


 信じられない気持ちだった。生命力そのものが、自分の外に出て固定されているなどあり得るべきことなのか。

「濃度の問題だ。人には出来ずとも私には出来る。それだけがここに横たわる現実だ。どう考えどう解釈しようと構わぬが、覆す小理屈を用意できぬのならそのまま飲み込めばよい。智者への近道だぞ」

 なにやら、理の深淵を覗いた気分になった。

「私のようにな、生命力に溢れるものを、わざわざ研いで口に入れる怪物はそれが有り余っている。見ろ、この姿を。最早肥え太ることも叶わず、徒に垂れ流すうちにこれほどの迷宮になった。少し待っておれ」


 ネルレイニアは言葉を切って後ろを向いた。

 これだけ体が大きいと体の向きを変えるだけで一苦労である。せわしく六本の骨の脚が動いて後ろを向き、正に蜘蛛の如く体毛の生えた下腹部を突き出した。

 穴があった。猫の肛門にも似たその穴がヒクヒクと蠢き、やがて、粘液を吐いた。

「うっ」

 ラウルが思わず仰け反った。ぶぴ、ぶぴ、と逆流するような粘液の迸りの後、なにやら塊が飛び出した。


「う、む・・・・・・」

 ずるり、と粘液をまとって落ちてきたのは、獣人だった。迷宮に立ちはだかった敵性体はこうして生まれていたのか。

「ふふ、さすがに一人産み落とすと少し腹が減る」

 振り向いたネルレイニアは、たった今自身が産み落とした獣人を汚いものでも扱うように指先でひょいと摘まむと、暗闇の向こうへ放り投げた。

 不思議と落ちた音がしない。闇の向こうはどうなっているのか。そういえばその闇の向こうはネルレイニアが来た方向ではないか。ならば、あの先は巣なのか。

「体は確かに怪物のようだ。しかし何故、心までも・・・・・・。神に恋人を奪われたからですか?」


「ふむ、そんなことを訊いたのはそなたが初めてだな。何故、か・・・・・・こい、びと・・・・・・?

 恋人、恋人とは、いったい、なんのことであった、か・・・・・・?」

 初めて、この怪物が笑みを崩した。

 考え込むような仕草だったが、表情はどこかうつろで、その思案の先にはなにもないことを表している。

(そうか、この人はもう・・・・・・)

 ラウルは直感した。


 既にこの怪物は、自分の記憶と記録が結びつかなくなっているのだ。確かにこのネルレイニアという女は、怪物によって殺された勇者の恋人であり、その勇者の霊薬で生き返ったがその直後、恋人を神に奪われた記憶を持っている。

 その事実も、石碑に刻まれたように正しく認識しているが、それが自分の記憶として思い出すことがもう出来なくなってしまっているのだ。


(あまりにも、永く生きたためか・・・・・・)

 想像するに、おそらく初めは神に対しての抵抗であろう。

 勇者の咎はたった一つ。人を殺めたことである。叙事詩に謳われる十一人の勇者に共通する禁忌は、人間を殺すことだ。神に祝福を受けた人間は、人間を容易く食らう怪物を屠るほどの力を得る。その力を持つ者が人間を殺めると、神は必ず罰を下す。


 ネルレイニアの恋人は騙された。それも霊薬を持つ者の強欲によって。傍目からすると、そこに情状酌量の余地がある。にも関わらず、神は勇者を、ネルレイニアの恋人であるプロスフォを雷で打った。人のため、怪物を退治してきた勇者に、死の報いを与えた。

 その悲憤は、ラウルなどには最早察せられない。怪物の体で生き返ったネルレイニアには、おそらくこの世で唯一自分を受け入れてくれたであろう恋人だった筈だ。


 神を憎んだろう。世を呪ったろう。その果てが、この姿なのだ。

 しかし神の時代から今日までを生きた怪物は、その恨みも悲しみも憎しみも、人らしいそれらの感情をも時間に押し流されて、心さえも怪物になってしまったのだろう。

 見上げる。ネルレイニアの上半身は不気味なほど白く、目を伏せた姿は見惚れるほどに美しい。この人間の名残が、彼女のぎりぎり消えていない始まりの情動。記録だけでなく、記憶として刻まれた悲しみと憎しみの残滓なのだろう。


 ラウルはふと、思った。思ったままに口にした。

「貴女の上半身は、温かいのですか?」

「ん?」

 目に光を取り戻して、ネルレイニアはラウルを見た。

「抱いて欲しいのか? 光届かぬ迷宮の果てに、温もりが恋しくなったか?」

 ネルレイニアが手を伸ばす。ラウルの体を包み込むほどに巨大な掌が、ラウルの体の右半分に触れた。

 温かい。人の体温が、確かにそこにあった。


「ふ、ふふ、私の愛玩でなく伴侶となる気か? 人のままではなれぬぞ」

 無論、そんなつもりはない。ないが、このあまりにも哀れな怪物に、気持ちが動かないといえば噓になる。

 ネルレイニアはそんなラウルの心を見透かすように笑った。

「このまま握りつぶせば他愛もなく死ぬ身の上で、私を哀れむのか。ふふ、その身の程を弁えぬところが、人間だな。意識の上だけでも、自分を際限なく肥大させられるのが人間の特権だ。だからこそ秘匿を暴き、知識を膾炙し、技術へ昇華させる。

 無粋の極みだ。男と愛を語らった女など、知る者は一人でよかろうに」

 言葉の響きは優しい。釣り込まれて、この知識欲の化け物のような若者が頷いた。


(確かにそうかもしれない。この悲恋は暴き立てて広めるには哀れ過ぎる)

 いつの間にか、ラウルはネルレイニアに寄っている自分の心情に気がつかない。

 なにか、自分でもなにを言おうとしたのか判らないが、なにかを言おうとした時、光がネルレイニアの背から溢れた。


「来たか。どれ、相手をしてやらねばな」

 優しくラウルの手を解いて、背を向けた。

 ようやくラウルは自分の立場と現状を思い出したが、自身を覆う膜のようなネルレイニアの生命力と、足を貫く針のために動けない。


「ネルレイニア!」

 ただ叫ぶことしか出来ない。籠の中の鳥が、囀るしかしようのないように。

「その調子で今から叫んでは喉を壊すぞ。慟哭は全て終わってからにするがいい」

 回廊の奥から溢れる光の中に、ネルレイニアは身を躍らせた。

 ラウルはもう一度、その背に叫んだ。


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