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 秘事を明かすというのに、不思議なほど舌が回った。

 一つには、三人がそれぞれ完全に無言で、聞いているかも定かでなかったためでもあった。どこかで訊き返されたりそれ以上のことを訊かれたりすれば、ラウルもまずいと思う心の余裕が生まれていただろう。

 全て話し終えた。話し終えてから、さすがにラウルは後悔した。


(軽率だった)

 魔法協会の窮状、自分の今後、それらを救うにはやはり迷宮を踏破し、成果物の研究占有権を得る以外に方法はない。その場合、リアンたち三人はほとんど無報酬で迷宮に挑むことになる。そんな無法は通るまい。

 ちょっと分別のない者なら、この場で激するあまりラウルを殴っていたかもしれない。

 話し終えてから、シェラはなにを言うべきか、そもそも話を理解していたのか自分でも疑わしい様子できょろきょろと落ち着かず、メイは素知らぬ顔で花の傍をひらひらと飛ぶ蝶を見て、リアンはなにか考え込んでいた。


 気まずい沈黙だった。針の筵に座った気分だったが、少ししてリアンが口を開いた。

「俺はな、魔法協会ってやつは頭脳のバケモノのような連中の巣窟で、それはそれは俺なんぞには到底及ばない神算鬼謀が浮かんで、そのうちに意を含んだ魔法使いが世に放たれ、世を治めるか乱すかする恐ろしい場所だと思ってた」

 ラウルは驚いた。自分よりも物を知り、頭の巡りもよいこの男にさえ、そんな印象を抱かせるほどに、魔法協会は秘匿主義を貫いて世間によからぬ印象を持たれていたのかと。


「しかし、話を聞く限りその方針を決めた連中はバカかその手前だな。要するに窮状の打開と口減らしを両天秤に掛けて、しかも人員保全の観点からいまいち見込みもない奴を送り込んじまったってところだ。

 なににしてもどっちつかず、問題に直面してぐずぐずと迷って、結局一番大事な人員を浪費してるに過ぎねえ。とても賢い者のすることじゃねえ」

 ラウルは、目が開いた心地がした。

 魔法協会がラウルの成果を期待する気持ちは、一割もないだろう。そんなことはラウルにも判っている。自分が死ぬこと、魔法協会から消えることへの期待の方が大きいことも感づいている。しかしそれが、どういう狙いなのかがまったく判らなかった。


 しかし、口減らし、と表現したリアンのそれが的確であろうと思った。人員を整理して協会員も認める才と能に溢れた者を保護するため、それ以外を処分、放逐する。そのための方便に使われたのだ。

 成功すれば儲けものだし、失敗してもラウルを先例にして他の者を役目を負わせて放つことが出来る。紛れもなく口減らしであった。しかし、それらは現状の抜本的解決には到底ならず、活きたかもしれない人材を無駄に減らしているだけという側面がある。


 リアンはそれをバカと指摘した。そうかもしれなかった。ラウルは自分の古巣を、どう弁護すべきか判らなかった。

「ま、しかし判ったよ。お前に魔法協会を捨てて、これから一人で生きていく気概がない限り、迷宮で死ぬか成果物の研究占有権を得るくらいしか、選択肢はないわけだ。

 そうすると割を食うのは俺たちで、ただ働きになる、と。まあそんなところなわけだ」

 ラウルもそこは気軽に頷けず、押し黙って肯定を表した。


「どう思う、メイ?」

 リアンが意地悪そうにメイに向けて顎をしゃくった。

「別に。どうでも。ただラウルが仲間になった理由が判った。それだけ」

「シェラは?」


「え? ああ、私か・・・・・・正直言ってさっぱり判らなかった。なにやら大変そうだと思った。力になれるなら、そうだな、なってやりたい。もう、他人ではないのだからね」

「だとさ。ラウル、お前は?」

「え?」

「お前はどう思うのか、さ。どうしたいか、でもいい。なにをするにしても、今回はお前が俺たちに頼む番だろう。俺たちになにをして欲しいんだ?」

 それが、ケジメだろうと目顔で伝えた。


「・・・・・・見返りは、おそらくなにもありません。あるのは危険だけだ。しかも受諾も拒否も選べる立場にある。更に、俺のは横道をねじ込むばかりで、資格も強制力もない。

 なら、俺が今から言うのは甘えです。真意を隠して近づいた者が、その立場を利用しているに過ぎない。しかし・・・・・・」

 と、ラウルは一度言葉を打ち切って、三人を見回した。

「協力してください。俺は、俺の学び舎も学友も、師も、救えるなら救いたい」

「あともう一言」


 メイが、ラウルに向き直った。

「え・・・・・・」

 しかしラウルには判らない。メイが望むもう一言が判らない。じれったそうに、

「その学友ってやつ、誰の顔が真っ先に浮かんだって訊いてんの」

 不思議だった。真っ先に、然程親しくもない顔が浮かんだ。


「ルーシェの、ためにも・・・・・・」

 語尾が消え入りそうだった。自分はどういう立場でなんの資格で、ルーシェのことを口にするのだろうと不思議だった。しかし、メイは満足のいく答えだったらしい。

 シェラと手を叩いて、


「よっしゃ!」

 と、言った。

「ま、少し理屈っぽ過ぎるが及第点かな。いいよ、ラウル。もともと誘ったのは俺だしな」

 拍子抜けするほどあっさりと、この三人は命を懸けたただ働きを了承した。

 横道を許容してもらいながらその真意を問うなどは、人の道ではないだろう。が、ラウルは疑問を疑問のままにしておけない性質だった。


「お前は、運が良いのさ」

 リアンは言った。

 もともと、冒険者として迷宮に挑むのはリアンの道楽で、その報酬についても特段の期待はしていないという。おかしな話だった。数年前はともかく、現在は冒険者という名は迷宮に挑む者の名ではないか。


「他には他の、俺には俺の生き方がある。元からほとんど好奇心さ」

 事実、リアンたちが踏破し得た迷宮からの発掘物の価値を、いちいちこの男は諳んじていた。そこでも、ラウルは他の冒険者とこの男がまったく異なる性質の人間だということを思い知った。


「冒険者が欲しいのは金と名誉だ。それが今後の人生を豊かにする。誰かに召し抱えられるなんてこともあるだろう。そうすれば残りの人生安泰だ。そりゃあ、俺も金は欲しいし褒め称えてもらえるなら小躍りもしたくなるが、そのために命を懸けられない。そんなものと交換できるほど俺の命は安くない。勿論、メイもシェラもな」

「ついでみたいに言われてもねえ」


 呆れたようにメイが嘆息した。

「それよりも大事なのは、迷宮から発掘された遺物が、どういう技術、文化を生むかだ。もしここから十一番目の勇者の軌跡が出土すれば、重大な歴史資料だ。いまいち謎の、神という信仰物に対しても新しい解釈が出来るかもしれない。そっちの方が大切なのさ」


「それはなんとも、酔狂な」

 思わずラウルも呆れた。そんなことを目指して危険に挑む者が居ようとは。

「そう、酔狂だ。だけどこの酔狂に付き合ってくれる仲間が二人も居る。俺のかけがえのない財産だ。だからこそ、俺は迷宮から生還することを第一に考えるのさ」

 目指すものよりも大切なものを失わないために、と。そこにラウルも入ってきた、と。

「お二人も同様に?」

 二人を振り返ると、メイが肩を竦めた。


「勇者にも神にも歴史にも、爪の先ほどの興味もないよ。あたしには関係ない」

「それならどうして」

「別に、どうしてってことでもないよ。どうせなにをするにしても生きなきゃいけない。どうやって生きようかって考えたら、仕込まれた技術で生きる方が気楽に生きれそうで、たまたまその伝手が、この道楽者だったってだけ」

 要するに成り行きだと、メイは言った。シェラは、

「難しい話は判らない。ただリアンとメイと旅をするのは楽しい。二人が行くなら私も行く。それだけのことだ」


 理由は三者三様である。が、ともあれ奇妙なことではあるが利害は一致した。これから欺くことも隠すことも考えずに、迷宮に挑めばいい。ただ少し引っかかりはある。

(俺は迷宮の成果物に用があり、リアンは命を優先する。重要視するものの順位に食い違いがあるが、果たして・・・・・・)

 それが取るに足らないものなのか、それとも協力関係に亀裂を生みかねないほど重要なことなのか、ラウルには判らなかった。

「んじゃ、そろそろ帰るか」

 僅かな危惧を乗せて、一行は宿へ帰った。そこで、自分たちの他の組が脱落したことを知った。


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