18
突然、冒険者たちが領主に大量に雇われた。
しかも日雇いである。そこにシェラたちのグループ、リアンとメイ、更に数組が加わって冒険者は合計で十四人が雇われた。
領主の後継者を水面下で争う立場にある二人の子供の、正統後継者の位置にある次男に雇われる形になるが、無論まだ十を幾らも過ぎていない年頃なので実際に雇っているのは領主夫妻だ。
領主は当然だが、外敵から領民と領地を守る立場にある。要するに兵站を整えた軍隊統率者の面を持つのである。勿論現場指揮官になる必要はないのだが、誰にどの部署を宛がうか、全体の進退をどうするかは司令官の仕事だ。それを実地で学ぶ機会を設けた。
要するに模擬戦である。相手方は長男である。婿入りして離れ離れになる長男が、義理の弟に教えてやれる最後の機会だと説得され、領主夫妻は快く受け入れた。
弟は冒険者を中心にした部隊を率いて、兄は領主に長年仕える近衛を率いて、模擬戦をやる。郊外で行われるが、参加しない兵も連れていく。これは護衛のためだ。
「臭い」
出発の際、思わずリアンは呟いたが、リアンならずとも領民はなんとなく察していた。気づかなかったのは余所者で土地の事情に興味のない冒険者か、領主夫妻くらいであろう。
模擬戦は無事に終わった。
摸擬戦とはいえ武器を持っての叩き合いである。怪我をする者は当然あるし、最悪の場合は死人まで出る。今回は死人はなかったが、棒を杖代わりに歩く者が多くあった。
「では一足先に帰る。そちらは怪我人が多いから、人数を貸そう」
勝者の兄も、兵はほとんどが怪我人である。が、均等に分けられた護衛兵のほとんどを貸してやった。弟は素直に喜んだ。
「まだまだ兄者には敵いませぬ」
摸擬戦の結果ではなく、わざわざ人数を貸してくれたことに感激した様子だった。が、同じ馬車でついてきていた乳母はきな臭いものを感じたのだろう。密かに覚悟を決めていた。
「メイ」
と、帰路の際リアンが聞こえないくらいの小声で呼びかけた。
「そろそろ夜になるな」
「まあ、そうだね」
西の小山に陽が消えようとしている。それが消え、残照も絶えて、辺りが完全な闇になるのはそう遠くあるまい。冬の陽は短い。東の空から広がる暗天が、じきに頭上をも覆うだろう。
「お前、一人で帰れるか?」
右手に山の斜面がある。左手は田畑である。道は右手の山に沿ってくねくねと曲がり、カロケイに続いている。迷う余地はない。メイは頷いた。
「んじゃ一旦別れる。最後尾でついてこい。俺が叫んだら合図だ。くれぐれも見間違えるなよ」
ぽん、と肩を叩いた。メイはリアンの判断に全幅の信頼を寄せている。
メイは屈んだ。
「どうした?」
馬車の周りを雇われの冒険者が囲い、その外側を貸し与えられた正規の近衛兵が守るという布陣である。メイが不意に屈めば見咎められる。
「足を悪くしたようで。先に言ってください。少し休んでいきます」
「それは気の毒に」
メイの小さな体躯に、この兵は多少同情したのだろう。他愛なく騙された。
「近くに川がある。そこまで行けるならそこの水でも飲むがよかろう」
「ご親切に」
メイにしては丁寧過ぎるほどの挨拶で返した。一行は止まらずに進み、やがてメイは一人になった。
追いかけた。早足である。メイの体を覆う外套は、裏生地を黒くしてある。裏返しで羽織れば闇が駆けるようだった。
一方、リアンは自分の打った手が間違いでなかったことを察した。
殺気が満ちている。どの近衛兵の顔も緊張で強張り、冒険者たちもその妙な空気を察している。
やがて、先頭と最後尾に火が灯され、闇夜に一行の姿が浮かんだ。その瞬間、
「やれ!」
と、鋭く切り裂く声が駆け抜けた。
瞬間、兵たちは剣を抜いた。
冒険者たちは熟練の者もある。領主に関わる微妙な空気に興味もなく、また察してもいなかったが帰路の妙な空気は敏感に察している。ほとんどが逃げた。十四人の冒険者は全員が摸擬戦で然程の怪我を追わなかったが、途中で脱落したメイを除いた十三人、そのうち八人が一斉に逃げた。
清々しいほどの逃げっぷりだった。後ろも見ず、その後ろ姿に剣が伸びるよりも速い。
(まあ、あれが正解だな)
リアンは地面に倒れながら思った。
その時には、次男つきの兵が意を含んでいた長男つきの兵に切り倒されている。悲鳴もなかったが、代わりにリアンが、
「ぎゃあっ!」
と、短く叫んで倒れた。
死んだふりである。敵は闇夜に倒れた者までも眼中に入れない。しかも目的は馬車の中の次男坊なのだ。護衛する気もあるかどうか判らない冒険者が倒れても、意にも介さない。
刺客たちは馬車に向けて突進した。
まったく器用なことだが、リアンは踏まれないようにごろごろと体の向きを変えて避けている。
(おや?)
リアンの叫び声を合図に、最後尾からメイが忍び寄り、既に四人をも倒していたが、気になる動きをする者があった。
シェラである。
シェラは、能天気だった。危険を察知することもなく、模擬戦の心地いい疲れを感じながら帰路を歩いていた。ところが、突然の強襲である。
既に仲間は逃げ散っていた。置き去りにされたが、この場合はシェラが悪いだろう。鈍感さは命が掛かる状況での重罪である。償いは命でするのが常であったが、シェラはそこからが早かった。
刺客に背を向けた。走った。足場の悪い斜面を斜めに走って馬車に近寄った。この場合、シェラに思慮などはない。単純に体の大きな自分が、この一行で一番小さい者を守ってやらねばと思ったに過ぎない。
開けるのももどかしく、馬車の扉をその膂力でひん曲げて開けて、
「こっちです!」
と叫んで乳母と御曹司を避難させようとした。
が、反対側の扉が開く方が早かった。刺客の剣が突き出され、田畑側に座っていた乳母が胸を貫かれて絶命した。
乳母はその一瞬前に守るべき童子の背を押して、シェラはその子を胸に抱いた。
「キタ!」
と、童子は乳母の名を叫んだが既に事切れている。事態を察した他の刺客が山の斜面に足を掛けて襲い掛かろうとしたその背後を、リアンが襲った。
「ほい、こっちだ」
シェラは自分の仲間が逃げ散ったことを知らない。気安い声に仲間の誰かだと誤認した。胸に抱いた子供をリアンに預け、自分は襲い掛かる刺客を体当たりで跳ね飛ばしながら馬車の先へ進んだ。
綱を切った。馬が棹立ちになったが、不思議なことにシェラがその顔と背を三度撫でるだけで大人しくなり、シェラに導かれるままに山林へと進んだ。
「歩いておくれよ、御曹司」
リアンは子供を下ろして山林を指差すと、振り返って敵を斬った。続いて馬とシェラの背中に駆け寄ろうとする刺客に目掛けて、倒した兵の剣を投げつけた。
「逃がすな!」
物頭らしい男が叫んだが、既に目標は木立に消えている。それぞれが山林へと侵入していった。
音もなく背後に忍び寄るメイが、声も立てさせずに、兵の息の根を止めていることにも気がつかずに。
陽の落ちた山林は暗い。刺客たちはすぐに目標を見失って時に立ち止まり、時に進んだが目標は影も見えない。次第に恐ろしくなって、兵たちはそれぞれ声を出した。
「どこにいる!」
「逃げられませぬぞ!」
口々に喚きながら木々をかき分け、草を踏んで夜の木立を進んだ。が、やがてその声の主が一つ、また一つと消えていくことに気がついた。
「魔だ、魔が出た!」
得体の知れないなにかに、声が一つずつ消されていっていることを自覚すると、耐えきれなくなった一人が恐慌に陥り、やがてそれは全体に伝播した。
ひゅっと、ある兵士の背後に闇が蠢いた。
瞬間、木々の葉の間を縫う月光がきらりと反射した。小さな光が走ると頸の動脈を断ち切られた兵士が闇夜に黒い血をまき散らしながらどう、と倒れた。
既にその時には背後の闇はそこにない。音もなく木々の間を走り抜け、口々に喚く兵士の声を断っていく。
一方、乱立する木々の全てが敵に見えてくるほどに恐怖を募らせたリアン、シェラ、そして御曹司は闇雲に森を走った。
「ちょい止まれ」
先を行くリアンが手で制し、馬の轡を取るシェラ、馬上の子を止めた。
じっと耳を澄ませて後ろの声が小さくなっていることを確認すると、腰を下ろした。
「もう大丈夫だろう。追ってくる気力はもう残ってない」
「どういうことだ?」
シェラは、初対面の男の案内で不用意にもこんな山林深くに迷い込んだことに警戒した。
リアンはメイを最後尾に残してきたこと、後ろから順番に始末していることを話した。
「あんな小さな子に、か・・・・・・」
模擬戦でも、メイの小さな体躯は目立っていた。正確にはその直前のことである。乱軍の中では、あの小さな体は人波に埋もれて見えなくなる。
が、その儚げな印象は強烈だった。慌てて背を向けようとするシェラを止めた。
「夜の森にメイが居る。俺なら命が一ダースあったって近づきたくないね。たとえ味方でも、だ。敵と間違えて殺されたくなかったら大人しくここに居ることだ。命の奪い合いであいつに勝てる奴は、当代でもそう居やしない」
屈んで、リアンは木々を拾って素早く火を焚いた。
信じられない気持ちだったが、追われている立場であっさりと焚火を点けた以上、二人の信頼関係は確固たるものなのだろう。不得要領ながら護衛対象の子供を馬から下ろし、自分も火を囲って腰を下ろした。
「不思議なもんだな」
腰の革袋から糒を取り出して渡しながら、リアンが言った。
「?」
水筒に貰った糒を投じて戻して、子に分け与えてやる。
「馬はあんたに撫でられたら冷静になるし、子供は追いかけられた森の中で泣きもしない。これが不思議でなくてなんなんだ?」
言われてみれば、とシェラは顎に手を当てた。
考えたが判らない。
「どうしてだろう」
素直に言うと、リアンは笑った。余程おかしかったのか、水筒を落としかけた。
「判らんのかい?」
「わからない」
ふと、リアンがシェラの懐を指差した。
十歳の幼童が、シェラに抱かれて寝息を立てていた。
「きっと母親の匂いがあるんだろう」
リアンは言った。
なるほど、そうでもなければこうはいくまい。命を狙われ、乳母を目の前で殺された童子が、如何に疲れていたとはいえこうも容易く眠りに落ちるなど、シェラになにかに人や動物を安心させる効果があるとしか思えない。
リアンはそれを匂いと言った。無論嗅覚だけを指したわけではないだろうが、大切な要因ではあるだろう。仄かにかぐわしい体臭が安心させるのだろう。
そうこうと話しているうちに、木立の中から小さな人型の闇が現出した。
メイであった。
「やったか?」
「ほとんど逃げてったよ」
事も無げに、息も乱さず焚火の傍に屈んだメイを見て、シェラはぎょっとした。
炎の灯りに照らされた横顔は、あまりにも幼い。白磁器のように白い肌はあまりにも無垢で、とても返り血も浴びずに何人もを殺傷せしめた功績に見合わない。
「君は、幾つになる」
思わず聞いた。メイは視線もくれず、聞き取れないほどの小声で、
「十七」
と言った。あまりにも若いが、見た目は十三、四の小娘に見えるから、少しだけ安堵した。
「それでも、この子と七つしか変わらない」
膝の上の童子の髪を撫でた。
「まあそれだけ苦労もしてるってことさ。さて、メイ、俺は適当に進んじまったからどこをどう行けば抜けられるかも判ってない。原生林に迷い込んだらかなり危ないし、困ってるところだ。どうすればいい?」
「そういういちいち人の懐を窺うような言い方、好きじゃないって前にも言ったよね」
ため息交じりだから、もうほとんど諦めているような言い様だった。すっと指を差して、
「あっち」
と言って、横になった。
夜に行動しても迷うだけだ。このまま眠って朝に移動するのがいいだろう。リアンも頷いて寝転がった。
「まあ、妙な成り行きだが一つよろしく。シェラ、だよな。まあ子供はあんたから離れたがらないとは思うが、寝てる間にうろつかないよう見ていてくれ」
そのまま眠った。妙なことになった。
夜が明けたところでカロケイには戻れない。当たり前だが長子が暗殺を命じたことだろうから、戻れば命はない。この暗殺失敗で確かに長子の立場は危うくなるだろうが、それでもこの子はまだ十歳である。証拠を突き付けて逆転するという具合にはいかないだろう。結局このまま逃亡、亡命するのが無難ということになる。
翌朝、陽の出る前に目覚めた三人は、眠気眼を擦る童子を馬の背に乗せて出発した。
「ちょっと、こっちじゃない」
先頭を行くリアンにメイが言ったが、聞かない。
「こっちじゃないってば」
「街道に出れば追捕が回ってるだろう。このまま森を直進して里まで出る方が早い」
確かに近隣には山里がある。街道を歩いていけばせいぜい半日だ。山林を突っ切っても一日で充分だろう。
「そこに、追捕とやらが居ない可能性はないでしょ」
「まあね。けど敵は大概バカだ。夜に俺とメイで襲えば逃げ散るだろう」
「どうして、敵がバカだと?」
シェラが思わず口を挟んだ。
山林は、足場が悪い。けものみち同然だから、轡を取るシェラも充分注意しなければならないが、先を行く二人の会話がこういう事態に慣れ過ぎているようで気になった。
「大軍に兵法なし。数で勝ってれば小細工なんて要らない、力と数で押せるって意味だが、こいつは夜には通じないんだ。況してや日暮れの直後なんて最悪さ」
「そうなのか?」
シェラには判らない。
「味方の顔が見えないだろう。敵味方を識別する手段がなくなるし、日暮れの直後は人間の目が夜の闇に慣れていないから余計暗く感じる。今回みたいに、囲った外側から襲われると簡単に瓦解するもんさ。本当はメイのやった仕事をあと三人くらいにやってもらえれば、こんなところまで逃げなくてもよかったんだがな」
枝を払いのけた拍子に降ってきたマムシを引っ掴んで、二つに裂きながら言った。
「ほい、昼飯調達。メイ、血抜きしといてくれ」
「真っ二つにしといて血抜きもくそもないでしょうが」
それからも先頭のリアンは歩調を緩めもせずカエルを捕まえたり、木の実を毟ったりして確実に食料を増やしていった。
「随分、慣れているのだな」
「メイの爺とは知り合いでね。断ったのにしつこいから、俺も覚えちまったよ」
「余計なこと言わないで」
結局、意外に早く日暮れ前に山里へ出た。余程手配りが鈍いのか、追捕はまだここまで回ってきていないようだった。
「な? やっぱりバカだ。今頃山狩りでもしてるわ」
「そりゃあんだけ適当に逃げた奴が、里の方角まで判るとは思わないでしょ」
村の長者に会いに行き、事の顛末を話すと子供を匿ってくれることになった。
まったくの偶然と言うべきだが、この子の兄が婿入りする街が、近い。このまま帰ってこなければあの兄が領主を継ぐだろう。弟を保護してもらい、長じてから恨みを報じればカロケイがそのまま領地になる。きっと保護してもらえる。
「そうなればお三方は大層出世なさりますな」
長者はそう言ったから、シェラは少し浮ついた気分でリアンとメイを見たが、特に反応はなかった。
(嬉しくないのだろうか)
山歩きで馬が疲弊してしまっている。明日の朝代えの馬を借りて、目的の街まで護衛することになった。後難を恐れて人数まで借りることは出来なかったが、借りた村人が寝返ることを考えると都合がいいので逆らわなかった。
その夜、寝付けないままに村を歩いていると、同じように散歩をしていたリアンに会った。メイは、もう休んでいるという。が、人前で休まない習慣らしく、どこに居るかは判らない。
「出世は嫌いか?」
訊いてみた。シェラとしては長者の言葉通りに、身寄りを失った子に頼られて居着いてしまうのも悪くないと思っていた。
リアンは言う。
「嫌いだねえ。人間の栄達は浮華に似る。特に剣しか取り柄のないような奴は、口と筆の達者な奴に疎まれて、碌でもない目に遭うもんさ。政治は要するに人の心さ。自分以外の心が透けて見えるっていうんでもなきゃ、関わるのは止めた方がいい。俺らには後ろ盾も門地もないんだからな」
星を見ながら、なにやら含蓄の深い物言いをする。
「政治か。そんなことまで考えてなかったな」
「まあ、考えなくてもいいかもしれんがね。人間の出世はまるで魔法だ。信じられない身分になることもある。あんたがそうしたいんなら別に止める理由もない。ただ俺とメイは御免って話さ。好きなようにすればいい」
そういう言い方をされると、ここで別れるのだという実感が湧いてきて、不意に胸が痛んだ。
「エンたちは、今頃どうしているだろう」
「さあ。あんたを探すか、逃げるに任せて別の里や街に行ったか、それとも転じてあの子の兄貴に雇われて追手になってるか。まあそんなとこだろう」
と、他人事の軽口で断言してしまったことを後悔して、シェラを向いて謝った。
「悪かった。俺が断言することじゃなかった」
「いや、いいんだ。きっとそうなっているだろう。探してくれているなら、少し悪いことをしたな」
「そういえば、喧嘩してたな。酒場で。仲は良くなかったのか?」
「見ていたのか」
頭を搔いた。二人とも冷静さを欠いていた場面だったから、ひどく恥ずかしかった。
「仲は、どうだろう。良くも悪くもなかったと思う。ただなんとなく空々しいものがあって、きっと私が原因なんだろう。探されなくて、逃げたままでも追手になっていても、別におかしいとは思わない」
「算用に明るい奴と暗い奴ってのは、そうなりがちだからな」
「算用?」
「金にしても食料にしても、酒にしても嗜好品にしても、さ。数と欲を秤に掛けられる奴とそうでない奴とじゃ、感覚に差がある。無理して埋めなきゃ、そいつは軋轢になる。どっちも進んで埋めようとしなかったから悪いって話だろうさ。部外者目線だがね」
この男に掛かると、正体も判らなかった引っ掛かりが具体的になっていく。シェラは少し救われたような気になった。
「そうか、私だけが悪いのではなかったのか」
「気にしてた?」
「もちろん。食べ物も飲み物も、人によって必要な量も質も違う。私だって楽をさせてやりたいし、なにより嫌われたくはない。そういう気持ちが余計に悪かったんだと思っていた」
「まあ、確かにね。向こうからはそう見えたかもな。ただまあ、会計を任せるんなら信じないとダメだ。疑うべき時に疑い、信じるべき時に信じる。そういうことが出来る人間こそ本物の智者だと思うな、俺は」
「智者と組むべきだと?」
たとえば、君のような? とはシェラも言わなかったが、顔を見て笑ったその表情は少し悪戯っぽく、しかし優しげだった。
(なるほど、こういうところに子も馬も懐くのか)
リアンは思った。
「俺はインチキの塊みたいな人間だからなあ。真っ当にそう思われると悪い気がするが、あんたが誰と組むかってことにまで口を出すほど厚顔じゃないつもりだ。
もちろん、俺やメイのことを見込んで組んでくれって差し出された手を払いのけるほど、無粋でもないつもりだがね」
見返して、にっと笑った。軽薄な表情だったが、何故か惹かれるものがあった。
「私は意外と口うるさいぞ?」
「いいね。人間うるさく言われてるうちが花だ。特にメイを気に掛けてやってくれ。男の俺じゃ気がつかないこともあるだろう。多感な年頃だからなあ。あいつの育ちは特殊だがそんなところはその辺の女の子と変わらない、と俺は思ってる。先輩として教えてやってくれ」
「教えられるほど真っ当な育ち方をしているといいんだが」
苦笑した。十二で行きずりの乞食坊主に抱かれた自分は参考にはなるまい。
「いいのさ。人生の先達は余計なことを言わずに、背中を見せてやればいい。学ぶ姿勢と学び取れる頭があれば、後進は勝手に育つよ」
「君は、口が軽そうだが」
「判る? 俺もどうかと思うんだがどうもお喋りでいけない。余計なことに口を挟むし言わでものことを言葉にして顰蹙を買うこともある。メイも、俺のそういうところは嫌いなようだ。まあ、よろしく頼むよ。
自分に出来ないことを求めるのはバカだが、期待する分にはいいと思おう。いい背中を見せてやってくれ」
「軽はずみは英雄の資質だと、ヒジリが教えてくれたことがある。君がその類だといいな」




