『とある男の追憶 第2話 かつての日常』
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「朝ごはんの時間ですよ〜!」と呼ばれる声で目が覚める。
起きて真っ先に目に入ったのは、思い出せる限りの昔から、ずっと変わらない無機質な白い天井。
どうやらかなり寝坊してしまったようだ。
夢の内容を思い出そうとするが、どうしても思い出せない。
「起きたなら早く来て下さ〜い!みんな待ってますよ〜!」
一階の方から、先生が大声で僕を呼んでいる。
これ以上待たせる訳にもいかないだろう。
「今行きまーす!」と精一杯の大声で返事をし、窓の外の朝日に一瞥をくれると、一階へ向かった。
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食事前の生体検査を手早く終えて食堂へ向かった。
机の上に料理が、椅子の上に生徒が、規則正しく並んでいる中、唯一残っている空席に座る。
随分待たせてしまったようで、友人は料理を待ちきれず、ヤキモキしているようだ。
「遅れて悪いな。 いつも通りの寝坊だ。」
「んなこたぁわかってるよ。早く座れよなぁ。待ち遠しくて仕方がねぇ。」
僕が着席したのを見てから、先生が言い始める。
「皆んな揃いましたね〜!
それでは皆さん〜 神様に感謝して、 いただきます!」
「「「いただきます!!」」」
生徒達の声が重なる。
ふむ、今日は目玉焼きか、悪くない。
そんなことを考えていると、隣から幼馴染がクスクスと笑いながら話しかけてくる。
「あらあら、ケイアスったら、今日も寝坊したの?
明日からは早起きする、って息巻いていたじゃない?」
「うるさいな、『コスモス』。僕だって寝坊したくて寝坊したんじゃない。」
「私を呼ぶときは、『科名』じゃなくて、名前で呼んで、って言わなかっけ?
『科名』で呼ばれると、距離を感じて悲しいよ。」
コスモスは、そんな風に心底悲しいように振る舞う。
長い付き合いだ。彼女がからかっているだけなのは百も承知だ。
彼女は嘘をつく時に親指を隠す癖を自覚していないのか?
「あーあ。わかったわかった。
『ノナ』、からかうのはやめてくれ。」
「あら!やっと名前で呼んでくれた!
頑なに名前で呼ぶのを拒んでいたのに、何か心境の変化でもあったのかな〜?
お姉さんに相談しちゃいなよ〜!」
どうやら、ノナはからかうのを止めないつもりらしい。
それならば、こちらにも手がある。
「実はね、僕、、、好きな人ができたんだ。」
「あらあら〜?ホントかなぁ〜?」
ノナは、微笑みながら、なおもからかうのをやめない。
僕はニンジンをフォークで刺し、口へ運び、数回咀嚼して、飲み込んでから答える。
「ああ、本当だ。
今度告白しようと思うんだ。
『どう思う』?」
ノナは余裕の表情を崩さないまま、全てを見透かすように答えた。
「 『嬉しいなぁ』
と思うだろうね。その娘は。」
ノナは、自分が僕の想い人であることを知っているかのように、
花の様に笑うのだった。
全く、ノナには勝てる気がしない。
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空気の揺れでさえ聞こえてきそうな、静寂のもと、自然と目が覚める。
起きて真っ先に目に入ったのは、融けた黄金のように輝いている空。
男は、忘れ難く、何よりも愛おしい、鮮明な夢の内容を心に刻みながら、
二度と戻れぬかつての日々に思いを馳せ、一筋の涙を流すのであった。
この世に生まれて4,445日
幼馴染に初恋をする
後少しの間、此処は天国。