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『覗きは漢のロマンだぜ!な第三、四限 自由時間』

世界がひび割れ、粉々の破片となり、元の景色に戻る。


アレスはアイシアを抱えたままでーーー


「おお!!やったな!セント!


威力はだいぶ落ちちゃあいたが、今のは間違いなくアイシアの能力だぜ!!」


まるで一瞬前に能力を使ったばかりの様な反応をするアレスに疑問を呈する。


「、、、ねぇ、アレス。



今、僕が能力を使ってから、何時間経った?」


アレスは驚いた様に、


「何時間?なんの話だぁ?


『つい数秒前のこと』じゃねぇか。」


「なんだって?・・・ごめん、少し考えさせてくれ。」


もしもアレスの話が本当だと仮定すると、『あの世界』を見たのは僕だけで、その間こっちの世界では時間が流れていなかったことになる。


それに、、、間違いない。


あれは『アイシアの過去』だ。


それも本人の記憶に残っていないであろう、誕生の瞬間の記憶を含む、、、


取り敢えず、今見たことを、アイシアのプライバシーを侵害しない程度に、アレス達と共有することにしよう。


「ねぇ、アレス。実は僕、今ーーーー」



自分が能力によって見た『世界』あるいは『記憶』の事を話そうとした途端、



『右胸』に激痛が走り、声が出なくなる。





他人とは左右逆ではあるが、心臓があるはずの場所より、僅かに中央に寄った部分に、まるで自分の臓器でない異物が紛れ込んでいて、デタラメに暴れている様な激痛が続く。


「おい!!セント!大丈夫か!?」


「ぐッ、、、痛ッ、、い!」


「どこが痛む!?」


「胸の、真ん中より、、少し右側ッ!


心臓の、左側が、引き裂かれる様にッ、痛い!」


「おいおいっ!?内臓逆位かよっ!?


ってこたぁ、魔臓の位置だな、、、、


なら、、、少し痛むかもしれんが、我慢しろよ!?」



そういうと、アレスの背中に、2個の赤い球体が浮かぶ。



その瞬間、胸の痛みの元の動きが、薪を失った暖炉の様に、緩やかに止まった。



「ぐはっ、何さ!今のは!!? 



僕が何をしたって言うんだ!?


こんな痛みを負う様な事、、、何もやっていないはずなのにッ!」


「まぁ、落ち着け、痛みは引いたか?」


アレスの背中に浮かんでいた球体が、アレスの背中の中に消えていく。


「ああ、おかげさまでね、、、」


「ここじゃあなんだし、アイシアを寝かせるついでに洞窟の方へ行こう。


話はそれからだ。 それでいいか?セレス?」


「ん、取り敢えず、2人を、休ませよう。」


ーーーーーーーーー


洞窟へ移り、小川から取った水を火で炙って蒸留して飲む。

幸い、金属製のコップが用意されていたので、アレスに火を焚いて貰えば、飲み水には困らなそうだった。


「落ち着いたか?セント。


んじゃあ始めるか。


まず、痛みが始まる前、『お前は何かをしようとしたか?』


ああ、内容は言わなくていい。また痛み出したら困るからな。」


「ああ、確かにある行動を取ろうとしたな。」


「多分、それがお前の能力における『禁忌』って訳だな。」


「『禁忌』?なんだそれ?」


「『禁忌』っていうのはその名の通り、やってはいけない事、つまり制限だな。


能力が強い場合なんかは特に発現しやすいが、破ると魔臓が拒絶反応を示す。


それが『禁忌』だと決まった訳じゃないが、その行動は二度としない方がいいぜ。」



「さっきアレスはどうやって僕の魔臓の痛みを止めたんだ?」


「んーー、企業秘密。」


「えーー、まぁ無理には聞かないけどさ。




、、、ちなみにもう一回できたりする?」


「ん?できるけど?」


「よし、じゃあ準備してくれ。


 『今からもう一度やる。』 」


「はぁ?正気か!?」


今度はアイシアの記憶に限らず、恐らく合っているであろう、自分の能力の効果を伝えようとする。


「アレス、多分僕の能力は、


『対象の能力名を知る事で、オリジナルから劣化した能力を使うことができる。


その過程でーーー」


『その過程で、その能力者の過去を追憶する』という部分を言おうとした途端、


魔臓に激痛が走り始める


「っ!来たッ!アレス!止めてくれ!」


「ッ!お前はホントに天性の科学者だよッ!自分をそんな簡単に実験台にできるなんて!!」


アレスの背中にまたもや赤い球体が二つ浮かび、魔臓の痛みが治る。


「ふー、ありがとう、治った。」


「無茶しすぎだッ!?『禁忌』の中には主人の命を奪うものだってあるんだぞ!?」


「えっ!死ぬかもしれなかったの!?危なかった!


もっと早く言ってくれよ!」


「言う前にお前が暴走し始めたんだろうが!?」


「それは確かにそうだ、、、ごめん」


「ともかく、これで何が『禁忌』かわかっただろ?なら、二度とするなよ?」


「ああ、わかった。


ところでセレス?アイシアの具合はどう?」


隣の部屋

(洞窟の中に置かれていた『つい立て』をベッド(石)の周りに置いて簡易的な部屋を作っていた、、、なんてったって、女子が寝ているからね!?)

でアイシアの看病をしているセレスに、アイシアの具合を聞く。


少しして、間伸びした声が返ってくる。


「ん、特に問題は、ない、かな。


呼吸も、安定。」


「多分、一気に魔臓を使い過ぎたことによる、オーバーヒートだろうなぁ。」


「アイシアの能力、氷なのに?」


「オーバーコールドってなんかダサいじゃん。」


「確かに。」


「くだらないこと、言ってないで、さっさと夕飯の、準備する。」


セレスからの厳しい指摘を受け、男2人はミナモフナの調理を開始する。


キッチンらしきものは部屋の壁に沿ってあり、


切り出された岩の表面はツルツルしていて、机全体がまな板の様になっていた。


「あれ?ナイフは?」


「ある訳ねぇだろ?クロノスの事だから、自分で作れ、って事だろうよ。」


「本気?」


「本気。


とはいえ、ナイフなんかなくても料理ができるのが能力者ってもんだぜ!?」


そういうと、ミナモフナが台の上で跳ねる中、アレスの右手が赤く光りーーー


ミナモフナの頭が胴体から切り離され、胴体がバラバラに、しかし規則正しく、切られ、


台の上に置かれていた。


「これは!東の国の伝統料理である、『スシ』ってやつかい!?」


「いや、米ねぇから『刺身』だけどな。」


親友の能力の万能さに驚いて、少しの嫉妬心が芽生える。


「いいなぁ、アレスの能力万能じゃないか。




、、、あ!」


「ちょっと待て、たぶんお前の考えていることはお見通しだ。


お前、俺の能力をコピーしようとしてるな?」


「してる。」


「やめといたほうがいいぜ、やるとしても外だな。


室内じゃ危険すぎる」


「じゃあ外へ行こう!」


「ん、料理、まだ?」


ベッドの方から不穏な空気が流れ込んでくる。


「「もうすぐできますッ!しばしお待ちをッ!!」」


2人の返事は、見事に被った。


ーーーーーーーーー


アイシアが目を覚ました後、


みんなで、ミナモフナの刺身を食べ、「塩と醤油が欲しいなぁ」というアレス以外は、満足そうに食事を楽しんだ。


その後、アレスの能力をコピーするために、外へ出る。


外はすっかり暗くなり、三日月が空に浮かぶ中、川のそばの河原に向かう。


川のそばには蛍が飛んでいて、幻想的な風景を創り出していた。


「じゃあ、アレス。能力をコピーさせてもらうよ!?」


「できるもんならな!


できたらお前は神だよ。」


「いくよ! 



  いざ!発動! タキオン!」


何も起こらない。


蛍は何事もなかったかの様に飛び続け、気まずい空気が流れる。


アレスは堪えきれない様に笑い出す。


「ッハハハ!そりゃそうだろ?


多分、コピーできる能力の強力さには限度があるんだろうな。


あるいは、完全に原理を理解しきっていないと使えないとか。」


科学者としての頭脳をフル活用し、原因を探る。


「アイシアの事例については、能力によって何が起こるのかを理解していた。


しかし今回に関しては、完全には理解しきれていなかった?


そこが問題点か?それとも、アレスの能力が強過ぎるのか?


いや、パラドクス校長の能力とかならともかく、ついさっき能力が発現したばかりでそんな強くなる訳ないだろうし、もしそうなら不平等にも程があるけど。」


「、、、無難に俺が強過ぎるっていう仮説でいいんじゃねぇの?」


「それは認めたくない、、、」


「正直でよろしい!」


「シャルル先生みたいなテンションで言うな!」


残念ながらアレスの能力はコピー出来なかった。

その後特に進展もなかったため、2人は洞窟へ帰ることにした。



洞窟への帰り道を歩きながら、男、いや、漢2人は、声に出さなくとも、同じ考えを共有していた。


「なぁ、セント。『どうする(・・・・)』?」


「漢のロマンを追い求めるかどうかって事か?」


「ああ。」


「ロマンを追い求めないなんて、科学者である意味が無いじゃないか!」


「その通りだぜ!よし、気配を消すぞ!」


「ああ!」


男2人はあわよくば温泉の方にアイシアか、セレスか、あるいは2人ともが、入っている事を願いながら、東方の国の暗殺者、『忍者』の如く、気配を消して洞窟の前の温泉へと忍び寄った。


洞窟の前の温泉にはつい立てが立てられていた。


きっとアイシアかセレスが置いたのだろう。


2人は手でサインを作って会話を試みる。


(いいか、セント。つい立ての隙間がある向こうに向かうぞ)


(向こうのつい立ての方に行くんだな?よし行こう)


(よし、ここで止まれ)


(止まるんだな?)


(静かにして、耳を澄ませるんだ)


(音を立てないで、聞き耳を立てる?)


桃源郷の仙女達の声が聞こえてくる。


「ん、セレス。牛乳、飲んだ方がいい。」


「ウフフ、どういうことかしら?」


「ん、骨が硬くなって、ケガしにくくなる。」


「えあ、そうですわね。





、、、そうですわね。」


(俺が隙間から覗くから、お前は待機していろ。)


アレスはつい立て同士の隙間を指差した後、片手で望遠鏡を作り、もう片方の手を開いて、


セントに待つように伝えようとした。


しかし、このサインがとてつも無い誤解を生んだ!


(あそこから覗けるから、5秒後に突入!?)


アレスがゆっくりとつい立ての前へ進む。


(5、4、3、2、)


アレスが花園を一目見ようと、つい立ての隙間に目を当てようとーーー


(1、0!)


次の瞬間、セントはアレスごと、つい立てを押し倒して温泉へと飛び込んだ。


アイシアとセレスの白い肌が目に入り、白以外の色、具体的にはほんのりと染まったピンク色が目に入ろうとしたその瞬間、




   『霜嵐の世界(コキュートス)』!!!!




視界が真っ白に覆われた。


なるほど、温泉から湧き出た蒸気が、空気中で微小な氷の粒となることで視界が塞がれたのか。


そんな冷静な分析をしている間に、全身が動かなくなった。



寒い、すごく寒い。



しばらくして、温泉の熱で徐々に体が解凍されていく。


毛細血管などが、水が氷になることによって起こる体積膨張によって、ズタズタに引き裂かれていないことを確認して、、、、



「説明して下さるかしら?セント。」


絶対零度の笑みがそこにはあった。


シスターにしろアイシアにしろ、どうしてこう、笑みが恐怖を与えるんだろう。


可愛い笑顔だし、何も知らない人が見れば恋に落ちるであろう笑顔なのに、どうして命の危険を感じるんだろう。


「ん、許さない。」


どうやら怒っているのは1人では無いらしい。


周りを見渡して、親友の姿が見えないことに疑問が浮かび、2人に尋ねる。



「つかぬことを伺いますが、


裁判長、被告人が1名足りない様なのですが?」


「あちらの裁判は、彼が逃げた時点で、被告人不在のもと、既に終了しましたわ。」


「ちなみに判決は?」


「ん、残り、四日間の、仕事、全部。」


「ちなみにワタクシめは?」


「同罪、2人で頑張ってくださいまし。」


ふむ、万事休すか。


ザクロ王国の法律に基づけば、第一審の判決に不満がある場合、控訴や上告と言った、再審の制度がある訳だけれども、、、


「裁判長、」


「なんでしょう?」


「あのー、控『 な ん で し ょ う ? 』、、、、、、、、なんでもないです。」


「よろしい。」


ーーーーーーーーー


河原で蛍と戯れながら、哀愁を漂わせているアレスを見つけ、歩み寄る。


「ここにいたのか。判決が下ったよ。有罪だった。」


「セントもか。




なぁ、もしかしてなんだけどよぉ、



いや、ホントにもしかしてなんだけどよぉ。



あいつらこれ目的でわざと温泉入っていた説無い?」


「いくらなんでも、、、、、、、、、、、、




、、、、考えすぎだよ。     多分。」



ロマンを追い求め、僅かに成功し、心の底から喜ぶ反面、明日からの地獄の日々に思いを巡らせ、哀愁を漂わせる2人が、根も葉もない陰謀論を語り始めるのと、

 



洞窟内で笑顔の2人がハイタッチをするのは同時だった。

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