『話がよく逸れる第二限 世界』
校長、パラドクス=コスモスは、
「次の『世界』の授業もこの教室で行われる為、皆さんはこちらに待機していて下さいね。」
と告げ、教室を去っていった。
校長が出て行ってからしばらく経つと、生徒たちは自身らの能力について語り始めた。
セントは今後の授業で戦闘する際、能力を事前に知る事がアドバンテージとなる事を考慮して、チームを組む可能性のある友人の間でのみ、情報を交換することにした。
「セレスはどんな能力だったの?」と小声で尋ねると、セレスは嬉しそうに微笑みながら、
「ん、『生命科学』だった。色彩は、『淡緑』。」と答えた。
「俺はともかく、セレスにしろ、アイシアにしろ、ウリエラにしろ、髪の色と色彩が一致している奴多すぎだろ、、、」
とアレスは、やれやれ、といったように肩をすくめて、言った後、
「髪や眼の色と色彩が一致すると、自分に合った能力の可能性が高いからな、俺らの代は強者揃いだぜ」
と、楽しそうに言うのであった。
僕は、アレスの発言に微かな違和感を感じた気がしたが、気のせいだろう。
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2限開始のチャイムが鳴ると同時に、恰幅の良い男が教室に入ってきた。
教師が着るローブを着用してはいるが、金髪(と言ってもオーラの黄金色よりは遥かに薄い)の髪をぐしゃぐしゃにしているので、些か滑稽で、『道化』を彷彿とさせる男だった。
「えー、皆さん!。『世界』の授業を担当する、シャルル=ド=ワールドゲートです!。よろしくお願いしますね!」
男は元気にそう言った。
セントは、思ったよりも面白そうな先生だな、と思うと同時に、『世界』の授業に対する期待が高まるのを感じた。
「ではまず!この世界の分類から入ります!
では質問です! Ms.ジオード!
この世は大きく分けて2つの世界が存在します! 答えられますか!?」
男がハイテンションで問うと、アイシアはコホン、咳払いをしてから
「ええ、もちろんですわ。『実世』と『虚世』ですわ。」
「正解です!! エクセレンッツ!」
セントがちょっとこの先生苦手かも、、、と思っていると、シャルル先生は
「では、元気のない、そこのセンティア君!! 『実世』と『虚世』の関係性を答えられますか!?」
と、今度はセントに質問を振ってきた。
『世界』はセントが最も興味のある分野の一つである為、この程度は朝飯前だ。
「『実世』と『虚世』は『コインの表と裏』と喩えられる様に、互いに並行している世界です。」
「もっと詳しく言えますか!?」
シャルル先生は食い気味で尋ねてきた。
セントはニヤリ、と笑い、話を続けた。
「『実世』と『虚世』の2つの世界でのエネルギーの合計は、常に一定であると言う仮説が現在、主流となっています。
2つの世界は『虚世の入江』と『実世の入江』を通して繋がっている、とされています。
空の果てにあると言う『虚世の入江』はその名の通り、『虚世』への入り口だとされていて、『虚世の入江』に落ちたモノは『虚世』に送られます。
逆に『実世の入江』は『実世』全体に、顕微鏡を見てやっと見える程小さく、無数に散らばっています。
このお陰で、我々は『実世』の殆どの領域で能力を使う事ができるのです!
そして我々『実世』に生まれたモノは『虚世』では存在出来ない、
結果として『虚世の入江』に落ちたモノは『実世』の我々から見ると、無数の粒となって消える様に見える。
また、一説には、『虚世』で『実世の入江』に落ちたものが、
『実世』で存在できるように、変質した物が、『魔素』である、と言うのが現在の主流な学説です!」
セントは後半シャルル先生と同じ様にハイテンションになりながら、そう力説した。
「エクセレンッツ!! 貴方とは美味しい酒が飲めそうです!!
話が90°逸れますが(一回目)、追加でいくつか補足説明をしますね!!
まず、『虚世の入江』でモノが変化する無数の粒は『原子』と呼ばれています!
皆さん知っていますね!!
また、『虚世』は『距離の存在しない世界』と言われています。と、言っても、《我々が『虚世』の距離を認識出来ないだけ》である、とする学説もありますが!。
では皆さんに問いましょう!!!
どうして我々人類が、何故観測できない『虚世』の概念を発見できたのか!!?」
確かに、観測できないのであれば、僕たち人類は気付きようがないじゃないか!?
とセントは今更ながら気づく。
シャルル先生は話を続ける。
「話が更に90°逸れますが(二回目)、
まず皆さんは『人類の七大命題』を知っていますか!?
人類史において、未解決であった七つの難題です!!
その第ニ命題、
『我々の能力発動のためのエネルギーは何処から来るのか?』
は最も人類を戸惑わせた命題の一つです!!
古来より、我々能力者が如何にして能力を使うのかは人類の疑問でした!!
火が燃える為には、燃料と『酸素』が必要なはずです、
しかし、赤系の能力者はオイルタンクを背負っているわけではありません!
《人間のみが無から有を生み出す能力を持つ、何故なら我々は『主神』である『デウス=フィクタ』に選ばれた種族だからだ、、、》
という説を唱えた『聖神教会』の神父もいたそうですが、
学問的ではありませんよね!!
この第二命題を解決しようとする研究は、古くから全ての国々で行われていました!!
もしも、能力発動のエネルギーの由来を説明できれば、
『理論上無限大の出力を誇る能力を創り出せるかも知れない』からです!!!
軍事力で他国を圧倒したかった国々はこぞってこの研究に莫大な資金を投じ!!!
しかし誰も解明出来なかった!!!!!!
しかし!しかし!しかぁぁぁし!!ある日!!!
世界一の天才科学者が!
『 魔素は、『魔素原子』が互いに結合した分子、より厳密にはその結合が変化することによって生み出されるエネルギーである 』
とする、 『魔素原子論』 という説を発表しました!!!!!
さらにその科学者は、翌年、
『 『実世』のモノが『虚世の入江』に落ちると、『虚世』でのモノとしての在り方に変様する。
そして、『虚世』から『実世の入江』に落ちたモノは『実世』中に散らばる『実世の入江』から、
魔素となって排出される 』
とする、 『魔素原子双方一体論』 を発表しました!!!!!
この理論の確立により、かつての『物理学者』達を悩ませた、
《 能力者の能力発動といった、『実世』についてのみ考慮してエネルギー保存則を立式すると、右辺と左辺が等しくならない事がある。 》
という矛盾が解決されたのです!!!!!!!!!
そして、何を隠そう!!!
これらの理論を発見し!!!!
発表した!!!!!
天才科学者はぁぁぁぁ!!!!!!
我らが校長、パラドクス=コスモスなのです!!!!!!!!!!!!!!!」
シャルル先生は顔を真っ赤にしながら、そう力説した。
「「「えええぇぇ!!!!!!!」」」という声が、教室中から沸き起こった。
只者では無いと思っていたが、よもやそこまで高名な学者だったとは!
セントは驚きを禁じ得なかった。
シャルル先生は早口で言葉を続けた。
「さらに!さらに!さらぁぁぁに!話を90°逸らして!(三回目)、補足すると!!
これらの理論と、『原子』の概念は!
我々の『能力』に密接に関わっています!!
今後!『能力強化』の授業でも扱うでしょうが、先取りしてしまいましょう!!!」
『能力』と言うワードがシャルル先生の口から出た途端、生徒たちの目の色が変わった。
(もちろん比喩である。)
「貴方達の能力は!!一部の例外を除いて!この『原子』に何らかの作用を引き起こす事で!この世界に影響を与えています!
例えば、ザクロ王国の近衛騎士長の能力は『窒素』を操る能力です。彼はこの能力を使って『窒素』を『酸素』と『炭素』と合成させる事で、『神の爆薬』を作り、その爆発を生かした戦い方をします!!
そういえば、Ms.ジオードの能力は『霜嵐の世界」だそうですね!!!
水色系統は冷却系の能力が多いのですよ!!
これは『原子』とその集合である『分子』の細かい運動、『熱運動』と呼ばれる運動を弱める能力なのです!!
かつて歴史上、『天使』となった能力者のうち、水色系統の能力を持っている、
『第8位』の『絶対零度』は、微細な『熱運動』を止めるのみならず、放たれた矢の動きさえ、止めたと言われています!!!!
彼女はその後、彼女の能力名から名付けられた『絶対零度の霧氷世界』と言う異世界に閉じこもっています!!!
かつてその世界は、この世界と似た様に花々が咲き誇り、鳥の鳴き声が響く、
それはそれは生命溢れる美しい世界だったそうです。
しかし、過去の『世界大戦』にて、
『光の王』率いる『鉱石軍』と、
我らの『主神』である『デウス=フィクタ』率いる『神聖軍』が戦った際、
『鉱石軍』幹部と『絶対零度』が、かの世界で争い、戦闘の最中に『羽化』した『絶対零度』の暴走によって、瞬く間に『死の世界』に変わってしまったそうです!
当時、凍りゆく世界から何とか『幻想世界』に逃げ込んだ兵士達は、すぐさま、かの世界の冷気が侵入してこない様、ゲートを封印したそうです!!!
しかし現在、『絶対零度の霧氷世界』への入り口の周りには、封印しきれない分の冷気が漏れ出しており、
それが『幻想世界』の最北部にある『ノーザンアイス地方』における『万年雪』と『永久凍土』の原因となっているのです!!!」
シャルル先生はそう早口で捲し立てるのであった。
しかし妙だ、何かが引っかかると思った僕の隣で、アイシアが挙手する。
「どうしました、Ms.ジオード!! 質問ですか!?
おっと!私の授業のルールを説明し忘れていました!
授業中は、私が喋っていない間は自由に質問していただいて構いません!!
なんてったってここは『幻想世界』、無関心は罪です!!」
「では、お言葉に甘えさせて頂きますわ。
先程のお話の通りですと、未だにそのゲートが残っている様に聞こえたのですが、ゲートは『門番』が亡くなってからしばらくするとひとりでに消えるのではないのですか?」
「いい質問ですね!!
Ms.ジオードの質問の通り、『門番』を失ったゲートはひとりでに消失します!
しかし、これはゲートに残った魔素が使い果たされ、ゲートを維持できなくなるからです!
ここまでいえばわかりますかな!!」
「・・・・・・ゲートの周りでは今でも魔素が補充され続けている、と言う事ですか?」
「いかにも!!!!
どうやら『絶対零度の霧氷世界』の方から常に魔素が補充され続けている様です!!
さぁ!話を更に90°逸らして(四回目)、
合わせて360°!!!
一周回って元の『世界』の授業に戻ります!!!」
シャルル先生はテンポ良くそう続ける。
(最初から狙っていたのか?だとしたら凄いな、、、)と生徒達は感嘆の息を漏らす。
「これは『絶対零度の霧氷世界』に限らず、
『石壁の迷宮世界』、
『極彩色の森林世界』、
『光届かぬ深海世界』、
『万物融ける火山世界』、
『無限落下の天空世界』、
『雷鳴轟く金属世界』
などの『危険世界』でも同じです!!
これらの世界には魔素が生み出される『実世の入江』が『幻想世界』よりもはるかに高密度で存在しており、従って、ゲートの魔素が枯渇する事が無いのです!!
よって、《『危険な世界のゲート』が開きっぱなしになり、
閉じられなくなる》という最悪の事態を避ける為に!!
未知の世界の『門番』が発見された際は、例外なく、『聖神教会』に所属する能力者によって開かれる、『実験世界』という世界でゲートを開くことになります。
『実験世界』は気圧、大気の成分、重力、気温等が全て、
私達の出身世界である『始めの世界』と同じであり、
『始めの世界』と違う点は、地面が硬度の高い真っ白な石材で出来ていて、無限に広がっている事。
そして、他の一般的な『異世界』と異なり、中にある気体や、床の物質は、外に持ち出せない、より厳密には『ゲートが閉じた段階で消失する』事です。
故に、中で呼吸をした後は元の世界に戻ってからしばらく呼吸をしてからゲートを消さないと、血中から『酸素』が消失し、最悪の場合死に至るので気をつけましょう。
この性質が明らかになったのは、
かつて建材として、『白い床』を建材として利用しようとした試みがあったからです!
開きっぱなしのゲートを通して、一日中石材を運び出し、塔を立て、『門番』が寝てしばらく経って、魔素が枯渇すると同時に建物は跡形もなく消え去ってしまったそうです!
この歴史的事件は遂にことわざになりました。
『愚者は一夜城を築かんとす』
『愚か者は実らない努力をし続ける』という意味ですね。
まぁ研究者としては、
『無駄である事がわかることこそ進歩』
だと思いますけどね!
さて、話が逸れました!
異世界はどれも『始まりの世界』と比べて,大気成分や重力、気温に著しい乖離がある事が多いので、最初はわざわざ実験用の異世界を設けてから、ゲートを開くべきなのです!
例えば、私はパラドクス校長や、他の学校の『世界』担当の教授達と
『光届かぬ深海世界』へのゲートを開く際の『開界式』に参加したのですが、それはそれは!もう大惨事でしたよ!!!
ゲートが開通するなり、見たこともない数種類の海洋生物が水と共に侵入してきたのです!
しかも、『実験世界』に入るや否や、ひとりでに弾け飛んでしまったのですよ!
毒を持ったハリセンボンの亜種もいたらしく、猛毒を含んだ針が飛んできたりもしました!
この事から『光届かぬ深海世界』は『始まりの世界』の『深海』に近いということがわかりました!つまり、急な水圧と気圧の変化によって、生物は原型をとどめられないのです!」
シャルル先生が一呼吸ついた瞬間、
「先生!そのあと水はどうなったんですか!?」
とセントが尋ねる。
「ええ、同伴していたパラドクス校長が針と水の動きを止めてくれたんですよ!私もあの方の能力名は知りませんが、校長に出来ないことは殆どありませんよ!!凄いですよね!」
どうやら、シャルル先生はパラドクス校長をかなり尊敬している様だ。
「因みに、『幻想世界』からレンガを一つ『実験世界』に持っていき設置した後、ゲートを閉じる実験を行ったところ、『幻想世界』にあったゲートが消えた途端、その場にレンガが一つ生成されました!
ですから、多分あの後『実験世界』を閉じた後、海水や生物の死骸は『光届かぬ深海世界』に戻されたのでしょう!
《『実験世界』に外部から持ち込まれた物資は、『実験世界』のゲートが閉じた時点でゲート外の世界に戻される。》
これを《パラドクスの第192法則》と言います!」
192って、、、、どうやらパラドクス校長は本当にとんでもない天才らしい、、、
「因みに!『門番』系統の能力者は大きく分けて2種類に分かれます!
ひとつ目は『公共世界』の能力者。
これはひとつの世界に門番が複数存在しうる様な能力の保有者のことを指します!
これらは資源を世界を跨いで輸送する事ができ、国家はこの能力を占有し、資源を独占しようとします!
ふたつ目は『私有世界』の能力者。
これは1人だけがアクセス可能な世界を保有できる能力で、主に資源の輸送、または『開界式』時の実験用などに用いられます!
こちらは更に二つの能力に分ける事が可能で、
『ゲートを閉じる際に行き来した全ての物質が元のあるべき世界に戻る』ような『リセット』型と、『ゲートを閉じても行き来した物質はそのままその世界に残る』ような『セーブ』型に分かれます!
前者は主に、『開界式』等の実験用に!
後者は主に、資源の輸送や、犯罪者の処罰等に用いられます。
異世界に移動させられた後、ゲートを閉じられたら、再びゲートが開けられるまで外に出ることはできません。
必要最小限の食糧と水のみ空中高くに作ったゲートから落とし、刑務作業で作った品を小さいゲートから回収するという、脱獄の恐れのない完璧な能力ですからね!
能力が成長するにつれて同時に保持できる世界が増えるそうですよ!
どちらも希少価値が高いことで有名ですが、国家運営にこれほど役立つ能力は中々ないですから、国々は学校に多くの資金を投じてでも、これらの能力者を獲得したがるのですよ!!」
成る程、アレスが「『門番』系統は当たりの能力」と称した理由がよくわかった。
「さてさて、皆さんはしばらく能力を成長させ、異世界でもある程度の時間、
『生存』出来る様になって頂き、その後、個人的に行きたい異世界への通行申請をして頂いて、教授の内最低1人から推薦状を貰えば、異世界に渡る事ができます!
皆さん、張り切って能力強化をして下さい!!!
因みに異世界ごとの主な危険因子と、その対策をまとめた冊子を用意しているので、欲しい方は手をあげてください!!!!」
手をあげない生徒は1人たりともいなかった。
「でしょうね! 流石はコスモス生!例年手をあげない生徒は1人もいないのですよ!
ですからあらかじめ人数分刷っておきました。
各人一人一冊のルールを守って、教卓から取って行ってくださいね!」
シャルル先生が、そうまとめるのと、
授業終了のチャイムが鳴るのは同時だった。




