『暴力はいけません!』
『ギィィ』
セントが木製の扉に備え付けられた金属製のドアノブを握り、ゆっくりと扉を開ける。
それにつれて、ドアが軋む音が鳴り響く。それは本来は耳障りなものである筈なのだが、どういうわけか嫌いになれない。そのドアは彫り込まれた意趣のみならず、ある種の趣をも備えていた。
セントは扉の向こうに広がる快適な部屋に、思わず感嘆の声を漏らす。
「へぇ!ここが僕の新居!?」
目の前に広がる部屋は『コスモス』でセントとアレスが同居している部屋より少し広いほど。それを1人で使わせてもらえるというのだから、なんとも贅沢な話である。
「どうかな?お兄様曰くーーー広さはちょっと心許ないけど家具は快適さを重視したものを揃えたーーーらしいけど、確かにちょっと狭いかもね」
「君たちが贅沢すぎるだけだよ!『コスモス』の寮なんてコレよりちょっと狭いくらいの部屋に2人で住み込むんだよ!?」
相変わらず彼らと僕の常識は異なるようだった。
「へぇ〜。まぁ、何はともあれ、住居の準備はできたわけだよね!それじゃあ明日から授業に参加できるように……制服と文房具を買いに行こっか!」
「ケトラシアとマギカ王子には、何から何までホントに迷惑かけてごめんね!よろしく!」
「ドラゴンもどきを倒すのに比べたら楽勝楽勝!」
「へぇ!ケトラシアもドラゴンもどきって呼ぶんだ!」
「良いネーミングセンスしてるでしょ!?」
「してるしてるっ!」
マギカ王子に代理で借りて貰った部屋は、マギカ王子達の屋敷からそこそこ離れた場所にあり、この都市の第2階層、つまり上から2番目に高い位置に存在し上から見るとドーナツ型になっている平地の内側と外側の中間地点にあった。
ケトラシアから聞いた話では、第2階層は『一般の人々』が滞在を許される最高階層であり、第3階層以下の住宅街では、第2階層よりも大きなドーナツ型の土地のうち眺めの良い外周部と上の階層へのアクセスの良い内周部が最も高いのだとか。
第2階層から第1階層、すなわちこのケーキ型の都市の頂点に位置する台地に登ることは一部の者にしか許されていない為、本来であれば第2階層の内周部の地価は安くなる筈なのだが、『頂点に近い場所に住む』というステータスと、『世界が滅亡を迎えるとして後ろから2番目に滅ぼされるような地域』ということもあり、かなり高価なのだという。
一番最後に滅ぼされる地域というのは『コスモス』のことを指しているのだろうな、と考えていた名誉コスモス生であるセントの予想とは裏腹に、ケトラシアの言及した『世界一の安全地帯』の名前は『コスモス』ではなく『巨城オリギネア』という聞いたこともない名前だった。
……『おにぎり』みたいな名前だな、と思ったことは心の底にしまっておくことにするとしよう。
要するにセントの暮らす住宅地は第2階層で最も地価の安い地域であった。
そんなことをいちいち気にするセントではなかったが、好奇心から家賃を聞きその額の大きさに驚き、ただでさえ白色に近い眼を真っ白にしてその場に倒れ込むのだった。
ーーーーーーーーーーーー
水路を流れる水のせせらぎを耳で楽しみながら、驚くほど明るいランプに照らされた街をケトラシアとセントが歩いている。
明らかに『火の明るさ』とは異なるランプの中に入っていたのは、琥珀色の結晶だった。ケトラシア曰く、『魔素』を込めると輝く結晶。直視するのも憚られるほどの明るさだった。
揺らめく不確かな火の灯りを頼りにしなければならない夜ーーーそんなセントにとっての夜に対するイメージがたった今崩壊し続けている。
明るく照らされた街は『闇を許さない』とでも表現するのが正しいだろうか?
とっくに日が暮れたというのに、その街に住む人々は暗闇に揉まれる夜を否定し続けていた。
「ここまで明るい夜は初めてだよ!それにしても何から何まで僕の住んでいた地域とは別世界だ!」
「アレ?言ってなかったっけ?ここ『始まりの世界』だよ?だから一応同じ世界な筈だけど……?」
「いやいや!今のは比喩表現であって!」
「ん?『始まりの世界』ってみんなこんな感じじゃないの?」
「こんな感じじゃないよ?
……夜なんて……それこそさっきまでいた『石壁の迷宮世界』みたいな感じだよ?」
「えぇ〜!?ホント〜?」
「多分君らの暮らしてた場所が例外的な場所だったんだと思うよ?だって王族でしょ?」
「まぁ確かに一応王族だけど……へぇ、意外だなぁ!」
「世の中広いよね〜。ところで、今僕たちは何処へ向かってるの?」
「商店が集まってる場所があってさ!『市場』とか言われてるけど……あ」
ケトラシアは何か嫌なことに気が付いたように、まるで学校に着いてから宿題を家に忘れたことに気付いた学生のように顔をしかめる。
そんな振る舞いを見ていると、どれほど強力な能力を持っていても子供であることに変わりはないのだ、と子供のセントは自分のことは棚に上げて感慨深く感じる。
「セント、予め言っておくけど、今日は制服と文房具を買いに来たんだからね?」
「ん?わかってるけど……それがどうかしたの?」
「……わかってくれてるなら良いんだけど……」
ケトラシアの予想通り、セントは市場に並んだ商店ひとつひとつに目を惹かれ、
『ちょっとだけ見てきて良い?』を7回
『えー、もうちょっと見てちゃダメ?』を7回
『ちょっと待って!最後にあの棚だけ見させて!』を35回
ただ、ひとつだけケトラシアには理解できない行動があった。
35回目に『ちょっと待って!最後にあの棚だけ見させて!』を言った後、
ケトラシアが『いい加減にしてよ......』と疲れ果てて呟いた後、流石に良心が痛んだのか、セントは市場に並ぶ商品を眺めるのを止めてくれたのだ。
まるで、『突然満足した』かのように。
.........その一瞬前、市場の賑やかさを隠れ蓑に、彼が『科学者』と小さな声で呟くのが聞こえたものの、ケトラシアには何のことだかさっぱりわからないのだった。
ーーーーーーーーーーー
「はい。では支払いはザクロ王国の王家財務局の方に……はい。よろしくお願いしますね。それでは」
『ガチャンッ!』
書斎に置いてある『電話』から不動産会社に連絡を入れ、センティアの仮住まいを確保したマギカは、特に何か目的があるわけでもなく、書斎の窓の方へと向かう。
ケトラシアと共に住んでいるこの屋敷には他にも多くの部屋があるものの、彼は屋敷で過ごす大半の時間をこの書斎で過ごしていた。先程まで夕焼けの暖かい光が差し込んでいた窓からは、今や冷たく青白い月の光が差し込んできている。
「……よっと!」
窓のそばに置いてある棚の上に腰掛け、窓枠に寄りかかりながら、窓の外に広がる景色を堪能する。
天に煌めく青白い月、その光を反射させながら波打つ湖と明るく輝く下の階層ーーーその絶景を妨げるものは何も無かった。
「………はぁ。僕は何をやっているんだろう……」
思わずため息が漏れる。ケトラシアはセンティアと買い物に向かった。
窓を開けると涼しい風が入り込んでくる。
「……明日からクリスタリアに来るのか。なら、校長に伝えておいた方が良いか」
窓の外の幻想的な景色を十分堪能したところで、マギカは棚の上から地面に降り立ち、先程まで使っていた電話の方に歩いていくのだった。
ーーーーーーーーーーー
『巨城オリギネア』のとある一室。
そこは湯気の立ちこめるとある人物専用の『大浴場』だった。
『コスモス』の学生寮の『大浴場』よりも更に広いこの巨大なプールのような『大浴場』にて、ビーチチェアに座りながらロイヤルミルクティを飲む1人の天使がいた。
北の果てから届いた牛乳と東の果てから届いた茶葉、それを西の果ての最高級の器に入れながら、南の果ての温暖な気候を再現したこの部屋で楽しむ。
それが世界の中心ーー原点の名を冠する城で暮らす天使の趣味のひとつだった。
『コンコンコンコンッ!』
ーーーそんな娯楽に水を差す音が『4つ』鳴り響く。
部屋の果てに備え付けられた扉が『4回』ノックされたのだ。
「……もうっ!せっかくのんびりしてたのにっ!なんの用?」
「テトラ様、ウォルフでございますッ!ザクロ王国のマギカ=レジア=ザクロ王子から電話ですッ!」
「ホント!?それを早く言ってよッ!!受話器持ってきて!」
テトラは指をパチンッ!と鳴らし、『技能』で入り口のロックを解除する。
普段使いの剣だけは手放さないものの、それ以外の武装を解除した女性が可動式の受話器を片手に抱えながら裸足で駆けてくる。
『黒金の鎧』を纏っていた荘厳なる騎士の中身が、これほど美しい女性だと知っている人物は多くない。
「......テトラ様、せめて何かをお召しになられては?」
「そんなこと言ったって、此処は浴場だよ?」
「......それもそうですが......こちらです」
「ん!ありがと!.........あー、もしもし!?テトラだよ!」
『校長、どうして音がこもって聞こえるのかについては聞かないことにします。
......早速本題に入りましょう。センティアという名の少年がケトラシアと共に帰ってきました』
「ふぇ!?」
受話器を握っていない方の手に持っていたカップからロイヤルミルクティーが溢れる。
『彼はザクロ王国に帰還出来るまではこちらに滞在し、『クリスタリア』に通う意思を持っています。彼の宿は既に確保しましたので、『クリスタリア』への一時的な転入を認めて頂けますか?』
「......ごめん、ホントにその人『センティア』って名乗った?」
「ええ。彼本人は『セントと呼んでくれ』と言ってましたが」
「白い髪に薄いピンク色の眼?」
「ええ。『石壁の迷宮世界』でケトラシアと会い、そのまま2人で帰ってきたそうです」
「……一応、うちの学校は入学できる生徒を厳しく選んでるけど、まぁセント君なら大丈夫かな……..いや、それにしてもこのタイミングで帰還かぁ。
おっけー!彼の入学手続きは任せて。
…………それより、『例の薬』の開発の進捗どんな感じ?」
それはテトラにとっては、セントの行方と同じくらい重要な事だった。
「………一応、理論上は完成しました。副作用が無いかどうかは臨床試験をしてみないと分からないので、適当に何人か下さい」
「おっけー!死刑囚を送らせることにするよ!楽しみだなぁ!」
「……ただ、人間に効いたとして『天使』の校長に効くかは分かりませんよ?女性ホルモンの分泌を格段に増やす薬剤、もしかしたら『毒』とみなされて本能的に中和されてしまうかもしれません」
「……『身長』と『胸』、これらは『序列第5位天使』と『序列第9位天使』が互いに求めて得られなかったモノ。もし実現できたら『天使』クラスってことになるね……」
「……『天使』ですか。別に僕は『成りたい』とは思いませんが、超えられるように努めるとしましょう」
「うんっ!頑張って!」
『ガチャンッ!』
「……ウォーちゃん、『石壁の迷宮世界』に送った捜索員を全部回収。報酬を送って『もう見つかった』って伝えておいて。それから、『電話』でクロノス呼び出して。話は私が直接するから。あと、ロイヤルミルクティーのお代わりとマカロンを送るようにコックに伝えておいて」
「ハッ!承知しましたッ!」
ペタペタと去っていくウォルフを横目に見送ったあと、改めてテトラはビーチチェアに横たわり、天井を見つめながら呟く。
「………流石に、運良すぎるよね…………」
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ケトラシアとセントは『クリスタリア』の制服を注文し、特注の万年筆まで買ったのだった。セントとしては既製品の安物でも書ければ変わらないだろうと考えていたのだが、実際に使ってみるとなるほど使いやすい。身の回りのものを全て特注する人種が存在するのにも納得がいく使いやすさだった。
ケトラシアはセントを仮宿に送り、次の朝に仕立ててもらった制服を回収しにいくから早く起きるように、と告げ、屋敷に帰っていった。
送迎にしろ早起きの忠告にしろ、小さな子供に言われる自分の不甲斐なさに、やれやれ、と首を振ったセントは、最低限のシャワーを浴びて寝ることにした。
驚くべきはシャワーの水圧。クロノス教授の『私有世界』で使ったシャワーや『コスモス』の『学生寮』のシャワーの水圧も、セントの生まれ育った教会のものと比べるとかなり強かったが、この物件のシャワーは格別だ。街中に水路が巡らされているくらいなのだから水という資源に困っていないのだろう。
セントは今まで使った記憶のないほど高価そうなベッドに横たわり、木製の天井を見つめる。木目がセントを見つめ返してくる。
「…...成り行きとはいえ、波瀾万丈な一日だったよ......はぁ、もう疲れた。寝よ.........」
一度ベッドに横たわると、今までの元気が嘘のように失われ、あっという間に意識は闇の底へと落ちていくのだった。
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『コンコンコン』
ノックが3回、皮越しの骨と乾いた木がぶつかり合う軽い音が鳴り響く。
「すぴー、すぴー、あ、あれす、それぼくの、、、すぴー」
『......ゴンゴンゴンッ!』
ノックが3回、今度は鈍く重く響き渡る。
「すぴー、まだ、たべたりない、すぴー」
『......そこはもう食べられない、でしょ?』
『ドンドンドンッ!』
扉の向こうから呆れた声と苛立ちのこもったノックが飛んでくる。
「すぴー......はっ!」
『...やっと起きーー』
「知らない天井だ。夢に違いない。そうと決まれば二度寝だッ!」
『......夢なら寝ないで良いでしょ。バカなこと言ってないでさっさと起きーー』
「すぴーーー」
『メキッメキメキッ!』
「!?」
生命の危機を感じ、ベッドで上半身を起こしたセントが見たのは、木製のドアを折り紙のようにクシャクシャに握りつぶすケトラシアの姿だった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
セントはまだ寝ぼけながら、セレスのように眠たげな表情を顔に浮かべて瞼を擦りながら、ケトラシアの案内に従って巨大な弧を描く青い水路を縁取る白亜の街道を歩く。
「……ふぁぁ。ねむい〜〜」
思わず漏れたセントの本能的な嘆きを耳にしたケトラシアは大きなため息をつき、
「まったく!頭を使ってたら朝弱くなる呪いでもかかってるの?人類って!」
「ハハハ、かもね。それなら多分、ウリエラもオーラも朝早いタイプなんじゃないかな?」
「えぇ?ウリエラお姉様は朝弱いよ?......って!あ!気づいちゃった!セント今ウリエラお姉様のことバカ扱いしたでしょ!?」
「え?......そ、そんなことないよ〜。ウリエラは頭使ってそうじゃん(物理的に)」
「物理的にでしょ?」
脳内で柘榴色の光の纏いながらオーラに頭突きをするウリエラの姿を思い浮かべ、その光景の滑稽さのあまり、笑いが込み上げてくるのを抑えながら、
「......謹んで撤回いたします」
「よろしい!」
「寝坊したのはホントごめんね?でも、ホラ、人間の三大欲求って言うじゃん!
『睡眠欲』『性欲』『食欲』......この3つは欠けたままに出来ないよ!」
セントは本気の謝罪半分、言い訳半分で話す。
「......アハハ。今お兄様がそれを満たしてくれる『便利な』道具を作ってるとこだよ」
しかし、返ってきたその言葉は、とても悲しげなものだった。
「......え?」
おかしい。その言葉は、そんな悲しげに言うべきものじゃないはずだ。
「......ん?ああ、そっか。セントは知らないんだっけ?まぁ別に他の人にバラしたりしないなら話しても良いけど」
「......バラさないよ、約束する」
「そっか......マギカお兄様のお父様、一応僕のお父様にも当たるのかな。その人が今、健康状態がお世辞にも良くなくてね。そんなお父様専用の『介護ベッド』を開発しているんだって」
「......親孝行なんだね。マギカ王子」
「......うんっ!やっぱりこの話はやめよう!1日の始まりがこんなんじゃダメだ!」
「僕の朝はドアをグシャグシャにされたところから始まったんだけど......」
「それは自業自得!」
ああ、どうしてなのだろう。こんなにも明るく振る舞っているのに、どうして目の前の子供の目の奥に、これほどの闇がちらつくのだろうか。
「......とりあえず、制服を受け取って、人生2回目の初登校と洒落込もう!
......でも、その前にちょっと寄り道したいな......あの店とか!」
「え〜?なんか雰囲気は嫌いじゃないけど、敷居高くない?というかあれ酒場じゃん。一応僕らアルコール摂取しちゃいけない年齢だよ?」
「ありゃ?アルコール以外も売ってると思うけどなぁ。まぁ、じゃああっちのお店は?」
「......セント、僕、考えるの苦手だけど、バカじゃないんだよ?......アレ、女性用の下着売ってるお店でしょ?」
「......初めてのお使い、やってみれば?
あー!待って待って!嘘嘘冗談ジョークジョーク!」
「......妙に語感が良いのが鼻につくなぁ!」
「まぁ、本音を言っておくといろんな店を見ておきたいんだ!」
「......変態なの?」
「いや!そういうことじゃなくて、ホラ、この地域だと流行っているのに『コスモス』じゃあ流行ってないビジネスとか、その逆も知っておきたいじゃん?」
「何で?」
「......平民は稼がないと贅沢できないのっ!」
「......あ、うん。頑張って......」
「そんなわけで僕はちょっとぶらつくけど、ケトラシアはどうする?」
「うーん、何事も経験だよね。僕も一応着いてくよ!お兄様が登校するまでまだ結構あるだろうし」
「......ちょっと早起きしすぎたんじゃない?」
「......否定はしないけど、早起きはいいことだよ!」
「......まぁ良いや!じゃあマギカ王子と会うまで、代わりに僕のボディガードよろしく!」
「.........うん!」
ーーーその声は年相応の無邪気な声だった。 多分。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『フォフォンッ!』
ザクロ王国から始めて『コスモス』に向かった時に通った白亜の大門と同じくらいの、あるいはそれ以上の大きさを誇る巨大なアーチ状の『ゲート』をくぐり抜ける。
あの時の大門とは違って『転送トラップ』のようなものは無かった。アレスの解説を思い出して考えるのであれば、この『ゲート』を設置した人物は『性格が良い』か、『攻め込まれても問題ないと考えている』のだろう。確かにこの『ゲート』は今まで見てきたどの『ゲート』よりも大きい。だが、横幅を考えると、横並びで一度に通れる限界の人数は8人ほどだろう。これならば大軍に攻められることもあるまい。
ゲートをくぐり抜けると同時に、身体に違和感を感じた。
「アレ?なんか心なしか力が湧いてくる?なんか覚醒したのかな?」
「ああ、多分『魔素』の濃度が高いからじゃない?『幻想世界』は『始まりの世界』よりも大気に含まれる『魔素』が多いんだ」
「そういえばそんな話レスター教授が言ってたなぁ」
「レスター教授?」
「うん。歴史科の教授で、あの時におじさんを蹴り殺した人」
「あぁ!その人か!......蹴り殺したって簡単に言うけど、凄いことだよね」
「ドラゴンもどきを引きちぎった君が言う?」
「それで命助かった君がそれ言う?」
「ありがとうね、ホントに」
「どういたしまして!」
阿吽の呼吸で会話をしながら、『ゲート』から真っ直ぐと伸びた巨大な一本道を2人で歩く。まだ始業時刻よりもかなり早い時刻であるためか、周りを歩く生徒たちはまばらだ。
視界の先の巨大な校舎に繋がる横幅10メートルはありそうな巨大な一本道の端側、青々と茂る『薔薇』の並木の近くで何やら数人の生徒が集まっている。
「......あーあ。お兄様また絡まれてるよ〜」
「え?あぁ、あそこか!急ごう!なんかやな感じがするし」
「同感っ!」
2人が駆けてくると同時に、それに気付いた深い緑色の髪と赤い目をした男が眉を顰めて咳払いをする。
「......ゴホンッ!邪魔が入ったか。まぁ良い。貴殿も身の振り方を弁えるのだな」
「ハハハ。『振り方』?君はバットか何かなのかい?......そんな君は誰かに振り回される人生を送れば良いさ」
「......私に噛みついた、その事実は重いぞ?」
「僕が噛む?君を!?ハハハ!そんなバカな!ガムじゃあるまいし!
あぁ、でもムカついた時にプクーって顔が膨れるところはガムそっくりだね!ハハハ!」
マギカ王子は人差し指を怒りで真っ赤に染まった男の頬に近付け、
「......『パンッ』......ハハハ!」
「......!」
男はもはや言葉を発することもなく、激情に身を委ね、拳を黒柘榴色の髪の掛かった頭に向かって全力で放ちーーー、
『ボギィッ!』
その拳が『赤色の障壁』にぶつかり、粉々に砕け散る。
「うわっ!痛そう!」
マギカ王子は、心の底から心配した様子で、首を傾げて『トドメのひとこと』を放つ。
「......頭......大丈夫......?」
「......ギィッ!もう良い。教室へ行くぞッ!お前たちッ!」
「お大事に〜〜ハハハ!......ってアレ?ケトラシアにセンティアさんじゃないか。おはよう!」
「......おはよう、お兄様。朝からあんまり問題起こさないでよ?」
「......おはようございます......あの人達は?」
「......僕にはタメ口で構いませんよ?......あの人達は......なんなんでしょうね?」
演技でも皮肉でもなく、心の底から分からない、と言った様子でマギカ王子は首を傾げ続けている。
「......もしかして、共和国の人たちなんじゃないの?」
「いや、イチジク王国からの生徒達は彼らとは別に僕のことを憎んでいるから、多分違うかなぁ」
「……敵が多いんで….だね、マギカ王子」
「……ええ。損な役回りですよ。全く」
「じゃあ『嫉妬』とか?」
「「『嫉妬』?」」
「マギカお兄様、ぶっちゃけ勉強しなくても頭良いじゃん?僕も羨ましいと思うし、多分あの人たちも羨ましいって思ったんじゃない?
......どれほど頑張っても手に入らない物を持っていながら、それを当然みたいな顔されたら誰だって嫌でしょ?」
「......成程......僕は知らず知らずのうちに酷いことをしてしまっていたのか」
マギカ王子は心当たりがあるようで、僅かに青ざめる。
「......だとしても八つ当たりは許されないでしょ?才能に恵まれなかったからって、才能に恵まれた人間を攻撃して良いわけが無いじゃないか。才能を持って生まれるかどうかなんて運次第なんだし、好きで才能に恵まれたわけじゃないんだから。
.........と、まぁ、何の才能もない僕が憤るのも変な話だけどさ」
怒りの感情の熱が収まらなかった。
だが、セントは不条理というものが大嫌いだった。
「......ハハハ。そうかそうか。分かったよ......どうもありがとう。
センティアさんのお陰で心当たりに気付けたよ。
......というか、この場で1番精神年齢高いのケトラシアなんじゃない?」
「......確かに」
「僕は普通だよ?」
「普通な人はドアをグシャグシャにしないって!」
「え?.........ケトラシア?」
「いや、これは違くて......」
3人でのんびりと話しながら歩く。
(『クリスタリア』に通う、ってなった時には不安だったけど、ザクロ王国出身者が居るってわかっていれば思っていたよりも安心だね)
ーーーーーーーーーーーーーー
マギカ王子に案内された教室はとても綺麗な教室だった。
綺麗と言っても絢爛豪華なわけではもちろんない。全ての机が金属製で、汚れが何処にも見られない。多くの机がズレを許さない、と宣言するかのように秩序だって並べられていた。
セントは後から入学してきた扱いとなる為、席は一番右後ろの席になるのだとか。
セントが荷物を入れたカバンの持ち手を机の横にあったフックに引っ掛けると、マギカ王子はその教室を後にする。ケトラシアの解説ではマギカ王子にとって授業は時間の無駄であるため、基本的に彼は学校に備え付けられた彼専用の研究室で1日の大半を過ごすらしい。
(......そういうところだよ......マギカ王子......)
凡人の嘆きはこれくらいに留めておくこととしよう。
ーーーさて、しばらく時間が経ち、授業を3つ受けた感想を述べよう。
まず『授業のスピードが速い』......速すぎる。ノートを取るので精一杯であり、この感じだと家に帰ってから復習をしないと明日には忘れてしまうだろう。
次に『それなのに授業中寝ている生徒が結構いる』......ホントに結構いる。疑問を抱えたままではせっかくの高級ベッドで枕を高くして寝られないので、隣の席に座っていたジェイドという少年に尋ねてみることにした。
「やぁ!初めまして!僕の名前はセンティア!セントって呼んでくれると嬉しいな!」
「え?あ、うん。僕の名前はジェイド=ラ=フィールトン!ジェイドって呼んでくれるかい?」
「よろしくジェイド!ところで僕、転校してきたばっかりなんだけどさ、授業のスピード速くない!?」
「だよね。僕もついていくので精一杯だよ。さっきの化学なんて……チンダル現象しか覚えられなかったよ」
「ハハハ!名前面白いから覚えちゃうよね!結局現象の中身自体は忘れちゃって名前だけが脳内にこびりつくやつ!」
「テストとかで筆記で問われるとキツいんだよね。空欄補充で出てくれると嬉しいんだけどな。チンダル現象にしろ、ミセルコロイドの定義にしろ、いざ文章で書け、って言われると手が止まっちゃうんだよね」
「わかる〜。『コスモス』にいた時ーーー言っても1日だけだけどーーーと比べても授業のスピード速すぎるよ!(化学は受けたことないけど)それなのに、なんか寝てる人多くない?」
「……ああ、そうだよね。セント君は転校してきたばっかりだもんね……『派閥』だよ。
……『派閥』…」
「『派閥』?」
「同じ国出身の生徒達や、家族ぐるみで付き合いのある大貴族達なんかが派閥を形成してノートを共有しているんだ。だから、派閥の一員がノートを取っている授業では、他のメンバーは寝ていようと大丈夫なのさ」
「だとしても、テストはどうするの?ノートだけあったって家で勉強しなきゃいけないじゃん。それなら学校で寝ないでやった方が良くない?」
「......ここだけの話『派閥』は学年を跨いで形成されているから、先輩から過去問を横流ししてもらえるらしい。テストには過去問と似たような問題しか出ないから、基本的にアイツらは成績上位を総なめにしているんだ......まぁ、例外もいるけど」
「例外?」
「昨日の『力学』の実力テストでマギカ王子が200点満点を取ったんだ。あの人はどこの派閥にも属していないことで有名でね。2位の生徒が確か89点だから、凄い差だよ。
......その結果、マギカ王子を自分の『派閥』に加えたがる人が増えて......」
「ああ、なるほど!それがアレに繋がるわけか!」
「アレって何?」
「今朝マギカ王子が変な生徒に絡まれていたんだよ!そうっ!丁度彼みた...いな......」
セントは、いつの間にかジェイドの後ろに立って腕を組み、額に欠陥を浮き出させている少年を指差す。
「ッ!?リンド君!?ど、どうしたんだい?こんなところで!?」
リンドと呼ばれた生徒が腹立たしそうに眉を顰めると、
「センティア、と言ったか?家名がないということは孤児か?」
「セントって呼んでくれると嬉しいな!」
「黙れ。孤児の分際で俺に嘆願か?」
(あー、僕の嫌いなタイプ。オーラみたいに実は良いやつでした、ってパターンだと良いんだけどなぁ)
「いやいや!僕は孤児である前に『科学者』さ!嘆願?そんなことはしないよ!」
「.......サイエンティストだと?この『クリスタリア』で?バカバカしい。科学を極めたいなら『コスモス』にでも行くんだな」
「その『コスモス』から来たんだよ!
それで?話があるならさっさとしてよ!僕は君と違って暇じゃないんだ!」
「......貴様はマギカの何だ?」
「え!?もしかしてそういうこと!?」
「どういうことだい?セント?」
「いや!ホラよく小説とかであるじゃん!夫と浮気してた女性に妻が『アンタ夫の何よ!』っていう場面!」
「確かにあるね......ハッ!」
「何が『ハッ!』だ!お前らふざけるのも大概にしろッ!」
セントは真面目な顔つきになって、それでも少し声を振るわせながら答える。
「分かったよ、ふふふ、ぼ、僕はマギカ王子の友人さ」
「何故笑いを堪えている?」
「いやー、マギカ王子はホモじゃないだろうなぁって!」
『ゴチュッ!』
リンドが『折れていない方の手』でセントの頬を殴りつけた。クラスメイト達が恐怖の悲鳴を上げる。
セントは『わざと大きめに吹っ飛ぶ』ことにより、リンドの犯した暴力の惨さを強調すると同時に、殴られたことによる衝撃を僅かばかり減らす。
リンドは、目に見えて焦燥しているようだ。ちょっとした気の迷いがこのような大惨事になるとは思いもよらなかった、といった様子だ。
(痛ッッたいなぁッ!!!)
「痛いよッ!酷いッ!実の父親にも殴られたこと無いのにッ!!」
セントは涙を浮かべ、殴られた自身の頬をさする。
「う、嘘をつくなッ!!」
リンドが震えた声で叫ぶ。だが、既にこの場に彼の味方は『派閥』のメンバーしか居ない。
「......う、嘘じゃ無い......実の父親なんか、顔も知らないッ!」
(嘘は言ってない。......悲しいことに、嘘は言ってないんだ......)
「......ねぇ、流石に酷いんじゃないの?」
(そーだそーだ!)
「そうだよ。口喧嘩で負けたからって、暴力に走るのは『クリスタリア生』にあるまじき野蛮......君こそ『コスモス』に転校するべきじゃないのかい?」
(......なんか『コスモス』に帰りたくなくなるようなこと言わないでほしいなぁ)
「ッ!だ、だがッ!」
(バカだなぁ!ハハハ!この流れで言い訳をしても『大衆』は怒りを覚えるだけだよ?)
リンドという名の少年は、俯いて歯を噛み締める。
(......ああ!良い表情だ!僕はその表情の理由を知っている!
暴力的な父親のもとに生まれた君は、幼い時から『暴力』が『選択肢のひとつ』として身体に染み込んでしまったんだろう?パッと『追憶した』感じ、母や妹にまで暴力を振るう父親を嫌悪しながらも、君自身、ついカッとなって暴力を振るってしまうわけだ!ああ!なんて『かわいそう』に!ハハハ!優しい僕がそんな君に終止符を打ってあげよう!なぁに!心配はいらない!僕は世界で唯一の『君の理解者』さ!)
「......リンド君......僕の義理の父親、ジオード領の教会の神父様は一回だけ僕を殴ったことがある」
「......ッ」
リンドは何も言わない。
「理由は簡単。僕がついカッとなって義理の兄を殴ったからさ」
「............」
「義理の兄は優しい人なんだ。でも、0歳の時に教会に棄てられた僕と違って、あの人は9歳の時に『教会』に保護されたんだ。……彼は父親からの暴力に苦しんでいた……」
「ッ!?」
リンドがピクリと震える。クラスメイト達は皆口を閉じていた。皆、セントの話に聞き入っていた。まるで、葬式のような雰囲気の静まり返った教室の中、クラスメイトの呼吸音と、リンドとセントの荒い息だけが聞こえる。
「殴る蹴るは当たり前。決まり文句は『誰のおかげで生きていられると思っているんだ』だってさ」
「………ッ」
リンドの目から涙が流れ始める。それは『嫌というほど聞かされてきたセリフ』だった。
「そんな兄と口喧嘩をして、カッとなった僕は、思わず兄さんを殴った……
思いっきり殴った。
力一杯殴った。
怒りに任せて殴った。
………でも、でもッ!……兄さんは殴り返してこなかったッ!!
あの人は知っていたッ!力のある者が殴るということが、どれだけ力のない者の心に傷を負わせるのかッ!身をもって知っていたッ!!
………そんなことも知らずに……….僕は殴った…….」
後悔と涙を滲ませて、嗚咽混じりに罪を告白する。
「普段は酒ばかり飲んでて、いつも陽気で何もかもが適当だった神父様が初めて真剣な表情を見せた。怖かった。あの人がそんな顔できるだなんて……僕の犯した罪が、僕が抉った兄さんの心の傷が、そんなに酷いものだったなんて、その顔を見て初めて気がついた。
……神父様から兄の話を聞かされて、最後に1発だけ殴られた。その痛みは今でも覚えてる。
……それ以来、僕は暴力を選択肢として放棄した.........」
クラスメイト達の中に、ポロリと涙を流す者が現れる。
それは、罪を犯した罪人の懺悔を聞き、同情する涙だった。
リンドも泣いている。自分が『父親』と同じであると、知ってしまったから。
どうしようもなく……今更どうしようもなく……泣くことしかできない。
「...........君はまだ......引き返せる」
セントは声を僅かに高くして言った。
「……コレは、神父様の拳だ……あの時僕を正しく導いたッ!神父様の怒りと悲しみの拳だッ!」
セントは拳を構える。
涙を流しながら、、、
激情を堪えるような歯を食いしばりながら、、、
リンドは避けようともしない。
かつて神父様がセントに打ち込んだ『罪悪感の楔』のように……
……それが、自分と父親を分け隔てる良識の境になると……心の底から信じて、歯を食いしばる。
『ゴチャッ!』
リンドは吹き飛び、地面に倒れ込む。
セントは涙を流しながら、膝から崩れ落ちる。
「ああぁッ!!神父様ッ!ごめんなさいッ!あの時僕はッ!
貴方に『こんな重荷』を背負わせてしまったのかッ!!ごめんなさいッ!ごめんなさいッ!」
口から血を流しながら、リンドは地面から起き上がる。
「………俺は、もう暴力を振るわない。
……殴って……すまなかった………辛い役回りを……すまなかった……」
「……それは……良かったッ……」
この一連の流れを目撃していた『クリスタリア』の生徒指導員は、
ハンカチで涙を拭うと、書いていたリンドの暴力にまつわる報告書を、その場で破り捨てた。
来年から、この出来事は『道徳』の教科書に載ることになるなど、この場の誰も知らない。
無論、実名ではなく、仮名であるが、挿絵を見た者ならば、白髪に桜色の眼をした少年と、緑色の髪と赤い眼をした少年が、どの2人のことなのか、わかるのかもしれない。
『神聖教会』の『社会福祉局』は、ジオード領の教会の神父に
『理想的な父、そして模範的な神父として活躍した貴殿にこれを証する』として、
『最優秀神父賞』を授与することになる。
『能力』が使えなくなる『災害』に見舞われながらも復興に勤しみ、
村人の畑を『能力を使用せずに』耕していた神父様は、記者からの質問にこう答える。
「ん?そんなことあったっけ?」と。
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(はぁ!思いっきり殴り返せてスッキリしたッ!!)
『ーー悪辣だね』
(殴り返したいけど、このまま殴り返したら僕も『同類』になってしまう……。
なんとかして『正当に』殴れないかなぁ、って考えてたら彼の『悲劇』を『利用』することを思いついてさ?
ここまでうまくいくとは思ってなかったけど。
個人的には声の抑揚の付け方が気に入ったね!
思いっきり殴った。
力一杯殴った。
怒りに任せて殴った。
の3連ちゃんのところとか、ホントに後悔してそうな感じだったでしょ?
あと、個人的には、途中で『兄』っていう公式の場での呼び方から、『兄さん』っていう感情のこもった言い方にナチュラルに変えたのが我ながら『上手い』と思うんだけど、どう思う?)
『ーー僕はいま、苦虫を噛み潰したような顔をしているよ』
(君の顔見れないからなぁ。というか、自分でやってて言うのもなんだけど、みんな流石にチョロすぎない?疑う生徒が1人や2人くらい出るもんだと思ってたんだけど……。
だって、僕のやったこと文章にしたら、それこそバカでも気付くでしょ?
リンドが僕を殴る→僕がリンドを殴る
この矢印に長々とした話を挟み込むだけで『正当化』できるなんてホントに滑稽だね!
ハハハ!そもそも『暴力がいけない』ってことを伝えたいのに『暴力』を振るう。
人にはコレが『やりたくないのに耐え忍んでやっている』っていうふうに映るみたいだね)
『ーー偽悪的になるな……と言いたいところだけど、君の場合、これが素なんだよね』
(勿論!僕を『孤児』っていうだけでバカにするだけに飽き足らず、暴力まで振るう人間を野放しにはしておけないよ!彼は僕の生活費を援助してくれているマギカ王子にも突っかかっていたし、見た感じ『派閥の長』って感じだったから、手駒に出来るなら加えておきたい!)
『ーー血も涙もないね?』
(僕だって、彼がこれから改心してまともな人間になってくれるんなら『手駒』から『友人』に扱いを変えるとも!人は『過去に何をした』かじゃなくて『今何をするか』で判断すべきでしょ?過去の罪は精算したし、彼の評価が『手駒』か『敵』か『友人』か……それはこれからの彼次第だね!)
『ーーすごいな。今の君の心の発言からは一切の嘘が検出されない……本気でそんなことを考えているのか…….』
(僕には僕の哲学があるってことさ!)
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リンドが泣きながら心の中で泣くのと、
セントが泣きながら心の中で笑い転げるのは、
ーーー滑稽なくらい、同時だった。
いや〜、なんというか、すごいですね。
毎話毎話、セント君の暴走には私も手を焼いています。(比喩ですよ?マギカ君みたいに突っかからないで下さいね?)
思い返せば、リグドシア王子の場面で、本来彼はザクロ王族の悲しい運命を理解するだけだったはずなのです。
それがよもやマイクを奪って応援するとは……。
えぇ!?そんなことするの!?と、当時の私も驚いた記憶があります。
子供みたいに純粋で、自分なりの正義感に溢れ、卑劣で卑怯で最悪。
そんな自分の性格を、それでも心の底から愛してやまない。
悪魔のような合理性と、それと同じくらいの優しさを持つ少年。
それがセントという人間なのです。
ちなみに、『それと同じくらいの優しさ』を持たないのが、テトラという天使なのです。