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『第一限 能力強化』

波瀾万丈の入学式が終わり、学生寮の部屋での荷物の整理も10分ほどで終わらせることが出来た。

そもそも必要最低限の衣服や生活用品しか持ってきていないのだから、当然と言えば当然の早さではある。

セレス達との自己紹介も終わり、2人は隣の自室に戻り、僕とアレスも寝る準備をする。

僕自身は入学式直後の興奮からかなかなか寝付くことが出来ず、何となく部屋の反対側の壁に備え付けられたベッドで寝ているアレスの方を向くが、どうやら我が親友は心置きなく夢の世界を楽しんでいるようである。


部屋を照らすランプの中では炎の代わりに小さな結晶が光り輝いていて、教会に住んでいた時に使っていた炎のランプよりも遥かに明るく部屋を照らしていた。


他にやることもないのであらかじめ部屋に置かれていた机の上に置いてあった教科書の山から適当に一冊引き抜き、ベッドに横たわりながら部屋のランプの灯りで読もうとするが、どうやらハズレの本を引いてしまったらしい。目の前に並ぶは数式の羅列。そもそも記号の意味さえわからない。生物の教科書や文学の教科書を選ぶべきだった。


何ページめくろうとも自分の理解できるものは現れず、ため息をついて他の教科書を取ろうとしてベッドから起き上がった所で、突然部屋が闇に包まれる。


どうやら消灯時刻になってしまったようで、突然部屋を照らしていたランプの火が消えたのだ。

本が読める程度には明るいとは言え、元々それほど明るい部屋では無かったのだが、消えてしまって初めて今まで部屋を照らしていたランプの有り難さを実感できる。部屋は暗く、窓から青白い月の光が入ってくるばかりである。


あの月をシスターも見上げているのだろうか?


……いや、彼女が今暮らしている『世界』と今僕がいる『世界』は別の世界なのだ。


……これ以上考えても何も得られないだろう。育ての母と離れた心細さを、新たに出来た3人の友人達のことを考えながら打ち消そうと試みる。


そんな葛藤を心の中で燻らせているうちに、意識は闇の中に落ちていくのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


気がつくと月は沈み、煌々と照らす太陽の光が瞼を白く染める。

目を開けると視界が真っ白に染まる。元々目が光に弱いこともあるが、それにしても『この世界』の朝は明るすぎる。目が明るさに慣れてくると、天井がいつもの天井でないことに気がつく。


「……アレ?ああ!そうだった!今日からこの寮で暮らすんだった!」


今日はコスモスに入って初めて本格的な授業の始まる日だ。

心臓がドキドキと鳴り響き、胸の皮を破いて出てきそうだ。

高まる期待を抑えきれないまま、既に起床し制服に身を包んだアレスの指示のもと、学校の支度をする。

部屋を出ると丁度アイシアとセレスも準備が終わったようで、4人で仲良く指定された教室へ向かうのだった。


道案内を担当するのは『コスモス』について詳しいと自称するアレスだ。

彼の道案内に従いながら、何とも歴史と風格を感じさせる石畳の廊下を歩き、次の授業は何か、とアレスに聞いてみることにした。


どうやら、記念すべき僕の人生最初の授業である第一限は『能力強化(トレーニング)』という科目らしい。


「つまり、『能力強化(トレーニング)』っていう最初の授業で僕らは自分の『能力』を手に入れるわけだよね?具体的にはどうやって手に入れるのか知ってる?」


「具体的には青い木の実を渡されて、それを食えばそいつにあった能力が発現するんだ。なぁに、すぐ終わるしそんな警戒する必要はねぇぞ?」


思っていたよりも呆気ない答えだった。てっきり手術を受ける必要があるだとか、あるいは厳しい修行が必要だとか、そんなものとばかり考え込んでいた。


「でもさ、木の実を食べるだけというならば、別に今じゃなくても良くない?どうして12歳まで待つ必要があるの?」


「1番の理由は、危険だから、だな。手に入れたばかりの『能力』自体はそれほど強いわけでもねぇけど、繰り返し使うにつれて強くなっていくわけだ。もしも赤子に『能力』を与えたらどうなると思う?

『能力』を頻繁に使っていたら6歳程度でそこそこな能力者になっちまう。

考えてもみろよ。6歳の子供が強力な能力なんて持ったら、普通に危険だろ?子供にナイフを持たせるようなものだ。


まぁ、ずっと監視し続けられるような側近がいるなら少しは危険性も減るだろうが、そんな面倒くさいことをやってるヤツらは少ねぇ。例えばザクロ王国の王族なんかは『あれ』をすり潰したやつをミルクと混ぜて赤子の時に飲ませるらしいが、そんなのは極々一部の例外だ」


「あら?では私からも質問を。その木の実は一体どの地域で採れるのかしら?王族の方に先を越されたく無いと考えそうな方々が入学式の時にはウリエラ王女と火花を散らしていらっしゃいましたけど?」


アレスは笑みを浮かべて答えた。


「あぁ、まぁーーその、なんだ?結構な機密情報だから多分知ることはできないと思うぞ?」


「ん、でも、アレスは、知ってる、感じ?」


「あぁ、まぁ知り合いから聞いたことはあるけど、流石にこれは漏らして良い情報じゃねぇよな。悪いけど、教えることはできないな」


「なら仕方ないね。っと!あそこにいるのは……丁度いま話題に上がったばっかりの王女様じゃ無いか!」


4人組は、何やら不満げに廊下に立ち尽くしている柘榴髪の少女と遭遇する。

このタイミングで彼女に出会ったのも何かの縁だろう。セントはそのただならぬ様子の少女に声をかけることにした。


「やぁ!おはよう!君はたしかウリエラだっけ?」


「ウリエラ『王女様』よ!私の名を呼び捨てにするだなんて、不敬罪ですわっ!」


ウリエラはやはり何かに対して怒っているようだった。それはセントが彼女の名前を呼び捨てにしたことに対して怒っているのではなく、まるで八つ当たりのような……そんな投げやりな反応だった。


昨日のまるで王者のような威風堂々とした彼女と今の子供らしい年相応の彼女の間にある違和感を感じ、彼女がグループではなく、1人で歩いていることに気付く。


「アレ?昨日の取り巻きの子はどうしたの?」


ウリエラはそのことを指摘されると、より一層怒った様子で眉を顰めると、


「いつも一緒に居るわけじゃないわよっ!」


と軽く叫び、そっぽを向いてしまった。どうやら踏んではいけない地雷を踏み抜いたらしい。

とはいえ、懐中時計を見てみるに、授業開始までもう時間があまり無い。恐らくケンカしてしまったのであろう取り巻きの子を待っていては、彼女自身も遅刻してしまうかもしれない。


(取り巻きの代わりでもやってあげた方がいいのかな?)


「ねぇ、ウリエラ。ここで待つのも時間が勿体無いし、先に教室に行かない?多分君の友人も教室には来るだろうし」


「待ってないっ!……まぁ、でも一理あるわね。私に同行することを許すわ!」


「ハハハ……有り難く同行させていただきます……」


(なかなか気難しい子みたいだなぁ)


そんな感じでウリエラを含む5人でしばらく歩き、授業開始2分前ほどに指定された教室に着くことができた。

教室の中に入ると理路整然と並べられた座席に、30人ほどの生徒がバラバラに座っていた。どうやら座席は決まっておらず自由席らしい。僕らは5人が近くに座れる席を探すが生憎まとまった席が残っておらず、バラバラの席しか空いていない。

そんなことをしているうちにウリエラは目当ての人物を見つけたようで、灰色の髪と眼をした生徒の方へとズカズカと歩いて行った。


(仲直り出来ると良いねぇ)


そんなことを考えながら、僕たちは4人で座れる席を探すことにした。結局4人が前2人、後ろ2人といったように長机の左端の席に座ることになった。

その時点でまだ空いている席が20ほどあり、クラスメイトが大体1クラス50人ほどであるというアレスの発言を信じるのであれば席は人数分ギリギリしか無いということになる。

教室に来るのが遅れてしまった場合、知らない人々に囲まれて座ることになるのかもしれない。次回からはもう少し早く教室に着くようにしよう。


授業が始まるまであと1分。何もせずに待つことも出来るが、何もしないのもそれはそれで何となく嫌なので、アレス達と雑談をすることにした。


「アレス、『能力』って色々とあるらしいけど俗に言う『当たり』の能力とかってあるの?」


「ん?ああ、ぶっちゃけ最初から強い能力もあるが・・・まず能力の『成長』について話すか。能力はどういった時に成長すると思う?」


「そりゃあ、何回も繰り返し使ったらじゃ無いの?」



「ところがそういうわけでもない。無論使わないよりは使った方が伸びは早いだろうが、より重要なのは『死線』を潜ること」



「つまり、命懸ケノデスゲームヲシテイタダキマス、とか言われるってこと?冗談でしょ?」


「いやそのまさかだ。初回以降の『能力強化』の授業ではチーム戦だったり、個人戦だったりと多少の差異はあれど、能力を使った命懸けの戦いをすることになる。

コスモス専属の能力者に、『一定期間の間、内部で人が死なない領域を作り出す』能力を持っている奴が居てな。

能力の名前は『緊急手術室(オペルーム)

その名の通り、手術を行うのに最適な環境を作り出す能力だ。コスモスの専属医師が保有している。

まぁ、その領域内で死ぬギリギリの戦いをする訳だな。


そんなことをやっているうちに『能力』は強くなっていくから、少なくとも自分の『能力』を『ハズレ』と思っているヤツは強くなれねぇ・・・あ、悪い、例外が1人いたけど、まぁそういう例外以外は基本的に自分の『能力』を信じれる奴が強くなっていく。だから少なくとも『ハズレ』なんてものはないってことは理解してくれ」


「僕に与えられる能力はきっと『当たり』だと思うけど、一応心に留めておくよ」


「大した自信だな……んで、『当たり』の能力だったな。

一般には『緑系統』が当たりって言われる事が多い。これから退散していくうちにわかっていくと思うけど、『緑系』ってのは『炭素』を操る『能力』であることが多い。

この世界に住む俺らの身体も、生えている植物も全部炭素ベースだ。普通に強いって思うだろ?


言わずもがな『門番』系も『当たり』だって言われやすい。『異世界』によっては、熟練の能力者をボコボコに出来るレベルの『当たり』もいる。まぁ扱いをミスれば大惨事になるし、『聖神教会(セイント)』の規制のせいで自由を制限されることもあるから、そこら辺はデメリットだが。


いずれにせよどれだけ悩んだって自分で決められるものでは無いからな。

どんなカードが欲しいかを考えるより、与えられたカードをいかに活用するかを考えるべきだぜ。っと、そろそろ始まるみてぇだな……っておいおい……よりによってパラドクス直々かよ……」


セント達のように、雑談に花を咲かせていた生徒達の声が突然にして掻き消える。生徒の声の残響を聞きながら黒いコートを纏った若い男性が教壇に登り教卓の前に立つ。美しい少年の様な見た目をしていて、とても教師には見えない。『先生』というよりも『先輩』と呼ぶ方がふさわしいような……そんな雰囲気だった。


間違いない。入学式で挨拶をしていた人物、つまりこの『教育機関』の『校長』だ。


闇を煮詰めたような真っ黒な眼に光は無く、彼の一挙一動から目が離せない。



  『皆さん、こんにちは』



微笑みを浮かべながら、極めて紳士的に、男はそう言った。

その声は光り輝くガラスのように透明感があり、教室に心地良く響く印象深い声だった。

全てを優しく包み込むような、それでいてこの『コスモス』の、あるいは世界の『最強』の座に相応しい威厳を存分に含んだ声を聞き、校長が発した言葉はたったひとことだと言うのに、生徒達は自然と背筋が伸びる気がした。


「これから皆さんには能力付与の為の木の実を召し上がって貰います」


男がそう言うのと同時に、教室から廊下につながる2つの引き戸が静かに開き、廊下から沢山の青い木の実がまるでシャボン玉のようにフワフワと浮かびながら教室に飛んで来て生徒1人1人の前に浮きながら止まる。


生徒達は目の前でフワフワと浮かび続ける青い木の実から目が離せなくなってしまう。


「さあ、どうぞ召し上がれ。はてさて、今年は一体どの様な能力が発現するのか。楽しみですね……おっと、そういえばウリエラ君はもう召し上がりになったのでしたね。失念していました。回収しておきましょう」


男がそう言うのと同時に、ウリエラの前にあった青い木の実が矢のようにパラドクス校長の前へ飛んでいった。

生徒達は自分の前に浮かぶ『青い木の実』を恐る恐る手に取り、まじまじと眺めた後、口にする。


青い木の実を口にした生徒達は口々に驚きの声を漏らす。そんな周りの生徒を確認してから、セントも青い木の実を手に取り、思い切って一口齧った。


ーーー次の瞬間、左胸に激痛が走り出した。


物心ついた時からの異常体質で、セントの心臓を含む全ての臓器が他の人々とは異なり左右反転しているという話はジオード領のお医者さんから説明を受けていたが、そんな心臓の左側でーーーすなわち胸の中心でーーー『何か別の生き物』が暴れ回るような、そんな悍ましく、突き刺すような痛みが胸に走り、叫びたくなるのを必死に堪える。


今まで身体の表面に痛みが走ったことはあっても、身体の内側に痛みが走るのは人生で初めての経験だ。

だがその痛みも一過性のもののようで、次第に弱まっていき、木の実を食べる前とさほど変わらない気がする。


「さて皆さん、心臓の横に違和感を感じますか?今、あの実を食したことにより、皆さんの心臓の隣には『魔臓』と呼ばれる臓器が形成されているところです。皆さんはその臓器を通して、空気中の『 魔素(マナ)』エネルギーを吸収し、能力を行使するのです。『 魔素(マナ)』がいかにして生まれるのか、そして如何様にして能力発動のエネルギー源になるかは、第二限の『世界』の授業までのお楽しみとしておきましょう」


男は毎年繰り返されているであろう生徒達が未知の体験に好奇心の目を輝かせるその光景を微笑ましそうに眺めながら、淡々と告げる。そして続けて廊下から白色のクッションとひとつの水晶玉のようなものが飛んできて教卓の上に置かれる。占い師の机のように置かれたクッションとその上の水晶玉らしき物を指差し、男は告げる。


「それでは皆さんお待ちかねの、能力の『色彩検査』を始めましょう。1人ずつこの水晶に手をかざしてください」


どうやら自分の『色彩』を知ることができるようだ。他の生徒が躊躇している間に、真っ先に立ち上がり教室の前に歩いて行き最初に手をかざしたのはウリエラだった。


ウリエラが手をかざすと同時に、無色透明だった水晶はまるで水の中に絵の具をたらしたかのように絵の具を混ぜたかのような複雑な模様を描いた後、一定の色に落ち着く。


それは彼女の髪と同じ柘榴色だ。純粋な垢よりは少し暗い色。その色はザクロ王国の画期にも使われている色であり、形容し難く奥深い色だった。



「おやおや、ザクロ王国の王族の皆さんは柘榴色ばかりですね。貴方のお兄様方も同じ色ですよ」


「……知っていますわ」


ウリエラは少し間をおいた後に不満そうにポツリと呟く。


「さて、『能力』の名前は……と。おやおや。『柘榴の暴君(ザクロ・ティラニア)』ですか。

ウリエラ君にお似合いですね」


暴君(ティラニア)』と呼ばれ、王族の少女は僅かに眉を顰め、ほんの少しの怒りを含んだ声で返事をする。


「校長と言えども不敬罪ですわよ!私の何処が暴君なのかしら!?」


(いや、どこからどう見ても暴君でしょ……)


「おやおや?王女ともあろう方が、かように無教養を示すのは如何なものですかね。


ご存知ない様ですから教えて差し上げましょう。

私、パラドクス=コスモスは貴方の国、ザクロ王国の臣民ではありません。

この世界で最も強い権力と『能力』を持ち、いずれの国家にも属さず、世界の秩序を維持する役割を担う『天使』


その序列第1位。それこそが私です。


従って、貴女に特別な敬意を払う義務は無いのですよ。


勿論、1人の生徒としての敬意は払わせて頂きますが」


男は淡々と当たり前の事の様に話した。まるで、雨が天から地に落ちることが当たり前のことである、と語るかのように。

校長の発言には、ウリエラを含む全ての生徒に対して彼の『コスモス』の運営に対する信条を伝える意図があったのだろう。


『例え王族であろうと貴族であろうと平民であろうと孤児であろうと、そのようなもの(地位)はこの学びの園では重要視されない』という信条を。


校長からの注意と、その意図を理解したウリエラは、まるでその方が都合がいいと言わんばかりに「フンッ」とそっぽを向いて、自分の座席に戻るのだった。校長も彼女が自分の真意を理解したと判断したのか、それを咎めることはなかった。


ウリエラの次に挑戦したのはアイシアだった。先程と同様に水晶玉の色が変化し、とても美しく輝く水色に変化した。


「おやおや、アイシア君も髪と眼の色と同じ色彩が出ましたか。良かったですね、こういった場合、本人に良く合う能力であるケースが多いのですよ。

能力名は……『霜嵐の世界(コキュートス)』ですか。『世界』系の能力に恵まれるとは幸先が良いですね」


男は自分のことかのように、嬉しそうにそう言った。

その後も数十人の生徒が検査を受けた。途中『門番』系能力者が見つかり、加えて今までの記録にない『異世界』へのゲートを開ける『門番』であると知った時、パラドクス校長はまるで少年のように喜んでいた。


列に並ぶ生徒達が少しずつ前に進み、皆一様に自身の『色彩』と『能力名』を告げられていった。今から並ぶのも面倒くさいと考えたセントはアレスと最後の方まで雑談をすることに決めた。そして気付けばついに残っている生徒がアレスとセントだけになった。

別にどちらが先に行っても良かったのだが、『男と男の闘い(ジャンケン)』の結果、先にセントが挑戦することになった。


セントが手をかざすと……色は変化しない。


「…………おや。これはこれは。とても興味深い。この様な結果を見るのは人生で『2回目』です。

色彩は『無色透明』………能力名は『科学者(サイエンティスト)』ですか」


(『無色透明』?何その色彩?さっき青い木の実を食べた後、何も違和感を感じなかったし、もしかして僕失敗したんじゃ無いの?まだ『能力』を手に入れてないんじゃ無いの?)

僕は驚いて、つい質問をしてしまう。


「色彩が『無色透明』だなんてことがあり得るんですか?カラーサークルだと、どこに当てはまるのでしょうか?」


「そうですねぇ。水晶玉の色が変化した後、向こう側が透けて見えるほどの透明度を持っている場合、『透過色(クリアカラー)』と呼ばれる分類に入りますが……それにしても『赤橙の宝玉(ルビー)』や『深緑の宝玉(エメラルド)』と言った宝石のような名前が付く筈なのです。

差し詰め、『白色』の『透過色(クリアカラー)』といったところでしょうか?いやはや、本当に興味深い」


「僕以外の『無色透明』の能力者はどんな能力を持っていたんですか?」


パラドクス校長は懐かしむような表情をしながら、

「彼の能力は…………いえ、これは後の楽しみにしておきましょう。教えない方がきっと貴方の為になります」


セントは少しムッとして、


「はぁ、わかりました。ありがとうございます。ところで自分の能力の内容はどうやったらわかるんですか?」


「それは使ってみないとわかりませんね。実験あるのみです。例えるのが難しいですが、、、そうですね、例えば、二足歩行が例として挙げられますね。私たちは赤子として生まれた後、最初は二足歩行に苦労するものです。

しかしそのうち自然と二足歩行できるようになる。能力とはそういうものです。


因みに『暴君』系や『世界』系は一回当たりの出力が大きい代わりに消耗が激しいので、気をつけてくださいね。


魔臓を酷使すると、最悪の場合、気を失います。


また、能力によっては『制約』や『禁忌』が存在することもあるので気を付けてくださいね。

こちらは破ると最悪の場合、死に至ります。


……さて、アレス君でしたか?君の番ですよ。」



セントの後ろに並んでいたアレスは、とんだ茶番だ、とでも言いたげに、無造作に手を水晶の上に置こうとする。


「ハイハイ、よっと。」

変化後の水晶玉は、地獄の焔を固めた様な深紅色で、かつ向こうが透けて見える程の透明度を誇っていた。


「おお!なんと素晴らしい!『透過色(クリアカラー)』ではありませんか!

どれどれ……色彩は『深紅の宝玉(レッドベリル)』?

能力名は………『超光速粒子(タキオン)』?


おやおやおやおや。成る程、成る程。そう言う事でしたか」


パラドクス校長は、何やら合点がいったように微笑むと、


「久しぶりですね。以前と随分と変わってしまったようで。見違えましたよ」


小さな声で、何やら意味深なことを言ったのだった。

校長のこのセリフが聞こえたのは、教室の前の方に居た僕とアレスだけだろう。

セントは首を傾げながらも、特に気にすることもなく席へと戻るのだった。


ーーーーーーーーーーー


「……さて、能力検査も終わったことですし、何か質問のある方はいらっしゃいますか?授業終了のチャイムが鳴るまでは質問に答えましょう」


男は最後のアレスとのやりとりなど気にもとめず、まるで何事もなかったかの様に質問を募った。


セントは迷わず手を挙げる。男が、どうぞ、と手を向けてきたのでセントは質問する。


「先生が先ほどおっしゃった『天使』とはなんでしょうか」


「・・・そうですね、この際ですから話してしまいましょう。長くなりますよ。よろしいですか?」


反対意見は上がらなかった。厳密にはウリエラが手を上げようとしていたのだが、隣にいた灰色の髪と眼をした少女なのか少年なのかわからない中性的な子が宥めて、阻止した。そして、男は語り出した。


「皆さんご存知のように、すべての能力は研鑽を重ねる事で成長します。

そして、その成長がある一定のラインを超える事で『羽化(天使化)』が起こるのです。


能力者が『羽化』すると、背中に『翼』が形成され、人は『天使』に『成る』のです。

『天使』に『成る』ことで『魔素(マナ)』の吸収は展開された『翼』を通して行うことが出来るようになり、より大規模の出力が可能となるのです。


一般に能力を鍛えている人々は『羽化』を目指して研鑽を積み重ねますが、難易度はとても高いのでご注意を。


どれほど難しいのか。

わかりやすく言いましょう。


先程も述べた通り、現時点で確認されている『天使』と呼ばれる能力者はたったの9人です。

そして、そのそれぞれが『単騎で』国を滅ぼす事の出来る程の能力を持っており、

殆どが、各々が自身の所有する『世界』に閉じこもっています。

私と、第9位くらいでしょうね。普段から他者と関わる『変わり者』は。

もっとも、『デモニア』が攻めてきた際には、1人を除いて皆さんに集まっていただきますし、最近ですと、第3位が『幻想世界』に来ています」


セントが続けて質問する。きっとこの教室中の生徒が疑問に思っていることだ。


「では先生の能力は何なんですか?」


男は微笑んで少し間を置いて答えた。


「機密情報です」


男がそう言い終えるのと、


授業終了のチャイムが鳴るのは同時であった。

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