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ふたりぼっちの箱庭革命  作者: 秋月流弥
第一章
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第七話:楽しい(?)遠足《中編》

 時が過ぎ、バーベキュー会場へ竹ノ宮高校一年生全員が集まりお楽しみの昼食が始まろうとしている。

「なんで蒼汰は食べる前から顔色が悪いんだ?」

「お前と別行動している間にいろいろあったんだよ……」

 マドンナのこととか。

 ミカゲはふーんと生返事を返すと、あとは運ばれてくる具材にしか興味がない。先程の花梨より話を聞かないミカゲの方がよっぽどマシに思えてしまう。

 バーベキューの網は全部で百二十台。一クラス四十人として、一テーブルに四人つくことになるが、五人や六人で集まってテーブルを囲む仲良し連中のおかげで、俺とミカゲは二人で一テーブルを独占できることに狂喜乱舞していた。

 ところが。


「おーい、そこ具材余っちゃうから誰かひとり入れないかね?」


 余計なことを……!


 クラス事情も俺たちの私情も知らない牧場のおっさんの口を縫いにいきたいくらい憎しみに満ち溢れる俺とミカゲ。

 そんな気遣いいらんから!

 俺ら余裕で平らげますので、どうかこのまま昼食を我らに振る舞ってください、さあ早く!


「あ、じゃあ私いきまーす」


 はーいと挙手をしてこちらに向かってくるのは……園田花梨!?

 よりによって、なぜ彼女が立候補をする。

 やはり俺の母さん発言を根にもっているのだろうか。女の執念か恐ろしい。

 俺が更に顔色を悪くしていると、ミカゲはミカゲで不機嫌極まりない表情を隠さない。

「嬢ちゃんそんな細くて食べきれるかい~?頼りないなあ」

「大丈夫でーす! 私、二人前くらいペロっていけますので」


((更に食材のピンチまで! おのれ……!!))


 バーベキューのおっさんと花梨が楽しそうに話し、周りの連中はそんな彼女を見て「花梨なんていい子なの!」「花梨ちゃんマジ優しい」「女神だ花梨ちゃんは」などと称賛の嵐。


 ……なるほど。

 そういうことか。


 花梨が合流。


 ニッコリと俺たちに挨拶する。


「じゃあ、ヨロシクね! 皐月くん、白詰さん」

「お、おーう」

「……っす」


 うわー。居心地悪すぎるすぎるし、俺は花梨にどう接していいのやら、俺よりミカゲの方が態度悪くなるしこのゾーンだけ修羅場すぎる。

 おっさん達職員の手によってバーベキューの具材が各テーブルに行き渡る。火を着火し、いよいよ本番。

 とにかく、無我夢中で食うぞッ!!


 俺が肉の刺さった串をとろうとした時。


「ねぇ、先に野菜焼きなよ。手前にあんでしょソレ」

 ついつい、箸で肉皿の手前にある串に刺さっていない玉ねぎ、キャベツなどの野菜類の皿を示す花梨。

 急にしきり始める彼女にミカゲはぎょっとする。お前は初めてだったな。

 というより、今の彼女を知る者は俺とミカゲのふたりだけだと思う。


 なんせ彼女の目的は。


「マドンナ様の株上げ成功でもう俺らに媚びうるメリットないってか」

 俺が菜ばしで野菜類を別の備え付けのフライパンで炒めながら確信を突くように言うとマドンナ(?)は笑った。底意地の悪い顔で。

「なんだ。わかったんだ? あんたらだけに良くしても何の特もないしね。こっちのが楽だし」

「え、なに、どうした園田……さん?」

「ミカゲが驚いてるぞ、マドンナさんよ」


 ジュー……ッ!! 

 焼く音は周囲も同じ、誰も俺たちの話は聞こえていない。

「『ぼっち同士の二人の仲間に入る優しい花梨ちゃん』を演じればもう目標達成なのよ。あとは美味しくお肉食べるだけ」

 そう言うと、彼女は俺から菜ばしを奪い取り、焼けた野菜ほとんどを俺とミカゲの皿に盛り付ける。そして自分は肉が刺さった串を優雅に三本持ち、鼻唄を歌う。


 ミカゲが俺の袖をくいくい、と引っ張る。


「おい、ビジネスパートナー」

「なんだビジネスパートナー」

「ここは私と手を組まないか?」

「奇遇だな。俺もだ」


 俺とミカゲの企む気配に勘づいた花梨は眉間のシワを深くする。


「ちょっと、何こそこそ話してるの? 早く野菜の串も片しちゃってよ」


 瞬間。


 花梨の手元の三本の肉串を奪い取るミカゲ。


「あ!?」

「蒼汰っ」


 一寸の狂いもなく俺にパスされた串をバーベキュー台で即座に炙る。ジュワアアアと焼かれている己の取り分だった肉串を見て、何が起きているのか判断に遅れた花梨が俺に飛び付く。


「私の肉!」

 返せー!

 奪い取ろうとした肉を。

 俺は食べた。もしゃもしゃ食った。

 焼いたというより炙った、ほぼ半ナマの肉を。

 この女狐に食われるくらいなら、と。

「蒼汰ーッ!次いくぞー」

「どんどん食うぞ~!!」

「ちょ、あんたら、え? マジ!? ありえないんですけどー!」

 呆気にとられる花梨をよそに、ミカゲと俺はどんどん肉串を焼き、半ナマで食らい、最後は玉ねぎリングもモロ生で完食。


「「ごっつぁんです」」

 玉ねぎ臭い息をお互いに吐きながらハイタッチ。

 俺らの勇姿は花梨にとっては最早狂気の沙汰。怒りと恐怖で震え上がるマドンナはそれでも口角を上げ、

「ほんと、食欲旺盛ねー!」

 花咲く満面の笑みを振り撒いた。

 後ろを振り替えったら、職員さんたちが後片付けに取り組んでいた。



 花梨との騒動が一段落し、昼食のバーベキューが終了した。

 午前のプログラムが完了したところで、俺たちは後半のスポットへ行くことになる。

 お世話になったゆたか牧場の職員さん達にお礼の挨拶をし、竹ノ宮第一高校の面々は午後のプログラムである苺狩りのスポットへバスに乗って向かう。

 七月の苺狩り。

 季節感は丸無視だが、五月の大型連休で残った苺のレーンを取って置き、それを格安で商売をやってくれる苺農家の方がうちの担任の知り合いにいたそうで。つては大事だと学べる遠足。

 嬉々として語る担任の顔の広さ自慢話に生徒たちは興味を示さず、

「うっぷ、さっきのバーベキューで食い過ぎた~」

「馬鹿だね。苺のためにお昼遠慮しておいて良かった」

 などと感想を語らいそれぞれの遠足を満喫し、次行く苺の園への期待を胸一杯に膨らませているのだった。


 バスの中で俺は地獄をみていた。


「……」


 あたった。

 すさまじく腹が痛い。


「生肉ってこんな早くでるっけ……?」

「しるか。君は情けないな」

 隣にSOSを送ったが無慈悲な対応で会話は即終了。

 そりゃ死神のお前は平気だよ。俺の数年越しのバースデーケーキをワンホールいったのみてるから。


 まずい。目的地に着いたら避難できるトイレを探しておこう。

 そもそも、食あたりでなく、花梨のことで量も結構食べてたし。どのみち苺は悔しいが食べるのは危険だ。


 絶体絶命的な状況だった。


 (どうする……どうする俺!?)

遠足園中編の第七話です。生肉はこわい。

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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