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ふたりぼっちの箱庭革命  作者: 秋月流弥
エピローグ
39/39

第三十九話:この小さな箱庭で(最終話)

完結です!

読んでくれた皆様に感謝を込めて。ありがとうございました!!

 俺は暗闇の中を歩いていた。


 息をするだけで鼓動が跳ね重苦しかった身体はもうない。

 死んだ後魂だけになった俺は高校生の時の姿をしていた。

「この頃の姿が一番しっくりくるなんてな」

 死と生を最も感じたのがこの頃だからか魂にも刻まれた器が高校生の自分というのは皮肉なものだ。

 暗く湿度の高い纏わりつくような闇の中。

 向かう先は決まっていた。




「やあ、久しぶりですね」


 日本の古城を思わせる朱色を基調とした建物の一番奥の部屋。

 数十年ぶりに会う目の前の相手は俺の姿を見て軽やかに手をあげ爽やかな笑みを浮かべた。


「こんなところに何の用ですか。皐月蒼汰くん」

「わざとらしいな。俺が来るのわかってて門番たちに顔パスさせたくせに」

「それはどうでしょう。どうだと思います?」

「質問を質問で返すな。相変わらず掴みどころのない性格してるな」

「いいねその返し。彼女・・とのやりとりを思い出します」

「……」


 死後魂となった俺はあの世へ着いてすぐ迷いなく地獄へ足を運んだ。


 俺にはまだやることがある。


「どうやら往生したらしいね。人生謳歌おめでとうございます。映画観なかなか良かったですよ。及第点」

「なあ、閻魔。最後に会った時の病院での会話、覚えてるか」

「最後。さて、長いこと生きてるせいか物忘れが酷くて……」


「悔しいなら幸せになれ。あの台詞。偶然にもあの時言ったお前の言葉とミカゲの言葉は重なってた。だからあの時俺はお前の言葉を呑み込んだ。ミカゲの意思でもあるからな。だから閻魔。俺は今から納得してない部分をお前にぶつける」

「というと?」

 部屋の扉から閻魔の座る場所まで歩み寄り言う。


「直談判だ」


「直談判ですか」

「ああ。内容は簡単。ミカゲを解放してほしい」

 盛大なため息を吐かれた。

「まーだ君はそんなことを言いますか。往生際の悪いお人ですね、まったく」

 紅い瞳がこちらを覗く。

「秩序は簡単に変えられない。理に対する基盤が緩むから。君の蘇生だって例外要項として法に追加するなりして改変にかなり時間を要したんですよ。ルールを変える上の僕たちにかかる苦労は尋常じゃない。分かってくれますか」

「分かってる」

「その割に諦めてない目をしているじゃないですか」

「分かっているが諦めてはないからな」

「はあ」

 閻魔はため息を吐き手持ちの扇子で自分に風をおくる。

「秩序は絶対です。それを取り締まるのが閻魔大王つまり自分。莫大な責任が覆い被さるんです。自分が駄目って言ってるから駄目。無理なもんは無理。自分が地獄の主でいる限り秩序は変えられません」

「ああ。だからそのことだ」

 相手の持つ扇子に手をかけ俺は言う。

「ミカゲを解放するために俺に閻魔大王を襲名させてくれないか」


「は?」


「それを頼みに来た」

「……はあ?」

 呆気にとられる閻魔の顔は豆鉄砲喰らう鳩の如し。

 この考えは彼も予想外だったらしい。

「ルールを変えるのは閻魔トップの決断。なら俺が閻魔大王になってルールを変える。新しい秩序でミカゲを解放してみせる」

「くっ……あははははっ!! また凄いところに着眼点を置いたね! とんでもない発想だ。君、相当おかしいよ」

「あー苦しい」ひとしきり笑うと閻魔は目元の涙をすくい俺を見据える。

「実力行使で閻魔大王を襲名すると。玉座から自分を落とせるとお思いで?」

「ッ!」

 真っ直ぐ射ぬくような視線に身体の中の細胞まで見透かされているようで肌が粟立つ感覚を覚えた。

 しかし俺は威圧的な眼差しに屈せず閻魔を睨み返す。

「……」

 俺に向けて手を伸ばす閻魔の腕に俺は立つ脚元を力を入れた。

「……っ」


 そして。



「いいよいいよ! やってみればいい」


 ぽん!

 頭にのっかる重みは優しいもので。


「へ?」

 拍子抜けな表情を浮かべついでに間抜けな声まで出てしまった。

「え、いや、その……え? そんな簡単に許可しちゃっていいの」

「いいですよ」

「なんか壮大なバトルとか、決闘とか、ないのか」

「戦えるの君」

「組手くらいは」

「自分もね。そろそろこの席が疲れてきまして、隠居生活も悪くないなって考えていたんですよ。いやぁ後継者がいてちょうど良かった」

「は、はあ」


「それに、君たちが導く世界もどうなっていくかも楽しみだしね」


「え……」


“君たち”って。


「さて、これからの地獄は君に任せます。新・閻魔大王の皐月蒼汰くん」

 椅子から立ちあがり俺の背中を軽く叩くと閻魔は部屋を出ていった。

 その背中は少し寂しそうに見えた。


「閻魔……」


「あー! お昼食べたら戻ってきますので。君の手続きは午後の公務終えた後でね~!」


 ただの昼食休憩だった。

「あの背中の哀愁はなんだったんだよ」

 最後までマイペースだったなこの人。




「……新しい世界か」

 一人残された室内で俺は呟いた。

 俺たちの導く、ね。


「そうだな。まず新しい国でもつくろうか」

 例えば、自殺した者が地獄が堕ちず、そこへ行き試練を乗り越えれば次は人として輪廻転生できる。

彼らの再生が叶うようなそんな国。

「自分で傷つけた魂が過ちとして償い続ける運命を辿るなら、俺は彼らに新しい選択を与えたい……なんつって」

一人理想を述べ照れていると、



「なるほど。私たちだからこそ思いつく救済だな」



 懐かしい声がしたから。

 すぐ振り返ってそちらを見て俺は間の抜けた声をあげてしまった。


 閻魔の奴。図ったな。


 最初からそういうつもりだったんじゃないか。

 まんまと便乗方法で後継者にされてしまった。


「よお。久しぶり」

「こんなところまで追いかけてくるとは。君には恐れいったよ」


「本当だよ。どうしてくれんだ。俺あの人にノせられて閻魔大王になっちまったよ」

「つくづく間抜けな奴だな君は。仕方ないから私が側で手伝ってやろう」


「やれやれお前と地獄でもビジネスパートナーになるなんてな」


「ここは末永く宜しく、と言うべきか」



 なあ、蒼汰?



 待ち焦がれていた声を聞き、俺はそこに立つ友に歩み寄り微笑んだ。

 極上の笑みを浮かべ、目の前の相手は差し出された手を握り返した。




 自殺とは大きな過ちで。命への最大の冒涜であり赦されない重罪だ。

 でも俺たちは知っている。彼らが望んで命を断ったわけじゃないと。

 理不尽や環境、時代、人々の差異や悪意に苦しんだことを知っている。

 その命が無駄だったなんて言わせない。

 その命は確かに存在した。

 彼らの魂が次ある世界で光り輝くと信じたい。



「名前さ、受生じゅしょうの国なんてどうだろう」

「いいんじゃないか閻魔大王?」



 この物語は、一つの狭い箱庭から始まった、死して尚二人で紡いだ革命の物語。




***



 この世は狭い箱庭だ。


 ひとつひとつが壁で塞がれ隔てられ、個々から全貌を見渡すことは困難で。


 箱庭から飛び出せない人がいる。

 外の世界を知らず箱庭のなかで潰える命がある。

 それをまだ青い私たちは知らない。知ろうとしなければいけない。


 例えば。

 聳え立つ大木の枝ひとつが折れていた時。

 花咲く道の端の柵が軋んでいた時。


 それに気づいて立ち止まり、寄り添えるような。


 そんな貴方でいてほしい。


 この狭い箱庭で迷い苦しむ私たちだけど、せめて、箱庭の中が少しでも住みやすいものになるように。

 好きになれるように。



 それを祈って。




ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました!!


初めての十万文字を越える長編作品を完結させることができ、大変嬉しい気持ちと共に自信がつきました。

まだまだ拙く荒い部分が目立つ作品ですが、この経験を糧に精進していこうと思います。


読んでくれた皆様に最大限の感謝をここに込めて。


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