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ふたりぼっちの箱庭革命  作者: 秋月流弥
第三章
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第二十一話:暗転

 これまで山之内を前に顔を青くしてうつむいているだけだった彼女が初めて動いた。


「……なにがチャンスだ」


 呟くようにミカゲは言う。小さな手のひらは赤くなっていた。

 俺は呆気にとられ、振り上げた腕を下ろした。山之内も驚いた表情で打たれた頬を左手で押さえている。

 ミカゲは凍てつくように冷たい目で山之内を見据えている。その瞳の奥には憎悪と怒りが孕まれていた。

「自分のことばかり考えて、人のことを踏み躙る奴のことなんか、誰が見ようとする?」

「……なんだと」

 ミカゲの言葉に山之内の眉間がピクリと動く。

「彼女がふる気持ちがよくわかるよ。お前なんかお断りだと心からそう思ったんだろうな」


 動揺する山之内を前に、ミカゲは不敵そうに鼻で笑った。


「なんだとッ!?」

 激昂した山之内はミカゲの胸ぐらを掴んだ。

 その勢いは強く、ミカゲの華奢な身体は首もとを掴まれたまま宙を浮き、フェンスに叩きつけられる。

 フェンスはミシリ、と嫌な音を立てた。

「ミカゲ!!」

 俺は叫んだ。

「やめろッ山之内!!」

 山之内からミカゲを引き剥がそうと間に入るものの、我を失っている山之内の力は凄まじく、まるで敵わない。

 ミシリ、またフェンスが嫌な音を立てた。

「ミカゲを離せ!!」

 俺はそれでも山之内に食いつく。ミカゲも抵抗しているが宙に浮いた足をばたつかせるのがやっとだった。

「やめろォォオオッ!!」


 ぱきん。


 軽い音を立て、それまで耐えていたフェンスは折れた。

 支えていたものを失ったミカゲの身体は宙に投げ出された。

 ゆっくりと、スローモーションのようにミカゲの身体が斜めに倒れていく。

 ミカゲと目が合う。その表情は、柔らかで穏やかなものだった。

 まるで最後の言葉のように、ミカゲは俺に向けて言った。



「蒼汰。彼女・・の為に本気になってくれて、ありがとう」



「……っ……!!」

 声が出ない。

 何が起こっているかも理解が追いつかない。頭がぐちゃぐちゃだ。

 それでも、身体は思考を置き去りにして、反射的に動いた。


 大丈夫、今なら間に合う!


 俺は床を勢い良く蹴り飛ばし、ミカゲの方へ飛び込んだ。

 ミカゲの身体を抱き止め、その身体をそのまま屋上へ放り投げる。

 ミカゲの軽い身体は重力と反対の方へ進んだ。

 入れ替わるように、ミカゲは上へ、俺は下へと落ちていった。



 全身に衝撃が走る。

 どこが痛いかも、わからなかった。

 力が入らない。もう指すらも動かせない。

 人々の叫び声が聞こえた。救急車という単語も聞こえてくるが、どこか他人事のように思えた。


 ……寒い。

 血が流れたせいで、体温が下がっているんだろう。

 視界も真っ暗で何も見えない。聞こえてくる悲鳴もだんだんと小さくなっていく。

 痛みも、もう感じない。


 ああ、いよいよ俺、死ぬんだ。


 海の底に沈むような感覚が襲ってくる。

 そうだよ。

 元々死ぬつもりだったんだ。

 本当なら五月のあの日、学校の屋上で飛び降りて死ぬはずだったんだ。

 これまでよく頑張ったよ、俺。


 闇に意識を預けようとすると、誰かの呼ぶ声が幽かに聞こえた。



「蒼汰くんッ!」



 懐かしい、誰かの声。


 その瞬間、頭の中に見たことのない景色が流れてきた。

 真夏の入道雲。

 緑の木々が揺れる校庭。

 煌めく水飛沫が飛び交うプールサイド。


 これは走馬灯?



 それとも、誰かの記憶……ーー?




第二十一話です。少し短い尺になってしまい申し訳ありません。次回、新展開!

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