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ふたりぼっちの箱庭革命  作者: 秋月流弥
プロローグ
2/39

第二話:悪魔の通う学校

 荒津小学校・四年一組にはイケニエ制度がある。


 一言でいうと、スクールカーストの最下層グループの一人が奴隷のようにそれ以外のカーストから痛めつけられる、という腐ったルールだ。


 このイケニエは一週間で交代し、月曜日の朝のホームルーム前に次の番の者を再び最下層グループから指名する。

 小学校高学年となれば、どうしてもクラスで目立つ奇抜な者、雰囲気に溶け込む存在感が控えめな者の謎の優劣が伝播してくる。

すると、あたかも自然な流れのように派手めの集団が地味めな集団を軽蔑し始め、攻撃的なちょっかいをだしてくる。

この異常現象は悲しいことに俺らの遥か昔のご先祖様の代から息を続けている。自分よりも立場の弱い者がいれば、誰だって少なからず優越感を得るのだから。


そんな週に一度イケニエを入れ替える筈なのに、たった一人、イケニエに立候補する女子生徒がいた。


その女子生徒は月曜日の朝になれば必ず、次のイケニエ枠も私にしてほしい、といじめの主犯グループに直談判をする。


正気じゃない。

頭がおかしいとしか思えなかった。

いじめの標的になりたいなんてよっぽどの変態だ。

 といいつつ、その変わり者の女子生徒のおかげで、他の奴らは指名される心配がなかった。

クソみたいな制度が無くなるのが一番だが、自分の身の安全が保たれれば皆、とりあえず一安心。あとは他人事だ。


 その女子生徒は毎日ひどいいじめをクラス連中から受けていた。


所謂クラスの最下層グループでも、イケニエでなければ主犯のグループと一緒に仲良く女子生徒を攻撃していた。

 助けようとは思わなかった。

 女子生徒とは親交もないし、そもそも俺は人と関わるのが嫌いだから余計な干渉はしたくない。

クラスの惨状を見て吐き気はしたが、ここはさわらぬ神に祟りなし。三大猿スタイルを貫く。

 いじめには加担しない。見て見ぬふり。それが俺にできること。

俺もイケニエの女子生徒も、登校から下校まで学校で口を開くことはなかった。


 傍観者の自分だったが見えないダメージを負わされていたらしい。

 悪魔で構成されたクラスの一員になって一か月後の五月半ば、突然学校に行くのが嫌になった。

あの場所に対して、俺はわけのわからない程の嫌悪感を抱くようになった。

「バカじゃないか?」

四年一組のヤツら全員。

いじめるクラス連中も、イケニエに立候補する変態女子生徒も、注意すらしない担任の先生も、それ以外の教師たちも、荒津小に通っている自分も。

 あそこで何を学べってんだ。

皆と協力して弱い人をいじめること? 

もう散々だ! うんざりだ!!




登校拒否を始めしばらく続けていると、ある日一本の電話がかかってきた。

四年一組の男子からだった。


『皐月、頼む! 学校に来てくれないか?』


 みんな皐月を待ってるんだ。


懇願してくるいまいち誰だったか覚えてないクラスメイトの声。


「何を今さら」

と受話器を置くては嬉しさに震えていた。自分宛の電話は初めてだったし、自分を待っているという予期せぬ言葉が嬉しかった。


 ドキドキしながらひと月ぶりの時間割りを見て、ご無沙汰だったランドセルを鼻歌まじりに抱き締める。そんな俺を見て帰宅した父がシャウトした。

「ついに百パーセントおかしくなったか!」

「パパ、めっ! それより凄いのよ。蒼汰明日学校に行くの!」

 母も父も、俺と同じくらい喜んでくれた。


 次の日の朝。

 本当に久しぶりに朝の食卓を両親と囲み父と共に母に玄関で見送られる。

通学路を歩き、学校内へ。

違う学年の生徒や校庭で草むしりしてる公務員のおっさんを見て泣きそうになる。

(大丈夫だ。俺はまだ、学校の一員なんだ)

 不安と期待いっぱいの入学式メンタルで自分の所属するクラス、四年一組の教室のドアを開ける。


ざわ……


 クラス三十九人ぶんの視線が一気に俺にささる。


「う、ぉはよう……」

どもってしまった。

(まずい。俺、失敗したかも)


 しかしそれは杞憂だった。


「蒼汰くん久しぶり!」

「なんだ全然元気じゃん皐月!」

「サボりかよ。羨ましいなチクチョウ!」

 え、フレンドリーじゃね?

しばらくぶりのたいして仲良くない奴にこの反応。

 普通こんなもんなのか。そんなものでいいのか!


 朝のホームルームまでクラスメイトと初めてまともな会話の応酬をした俺はもはや有頂天状態。

これからは楽しい学校生活が送れるんだと期待しまくった。

 そのとき俺はまだ気付いていなかった。

この和やかな朝が地獄の業火に包まれるまでの導火線に灯が灯されようとしてたなんて。




 程なくしてして担任の先生が入ってきた。


 ちなみにこの担任の女教師の名前も俺は完璧に覚えてはいない。関心のないものはどうしても頭に入らない。


「では、朝のホームルームを……あ! 蒼汰くん、来てくれたのね!」

 ありがとう! と礼を言うアラサー女教師。

いったい何に対しての礼なのか、なんて歯牙にもかけずその場の疑問をスルーできるほど浮かれていた。

へへ……どうも、なんて照れながらご無沙汰のイスに座って、今から始まるホームルームの議題も知らずに。


「はい。全員が揃ったということで、朝のホームルームの議題についてみんなで話しましょう」


 担任はリズミカルにカッカッとチョークで達筆な字を流れるように書いていく。


「みんなが“前回の”議論で話し合った通り、このお話はお休み中だった蒼汰くんにも来てもらうことになりました」


 それはみんな覚えているよね? ニコっとスマイル。

 先生、知りません。

あ、俺以外のみんな? おいてけぼりなんだけど俺……。


「もちろん覚えてるよ先生! ユリナちゃんが影美えみちゃんをからかって、影美ちゃんが蒼汰くんのイスを投げて壊しちゃったんだよね」


「イスのネジがポーンッて外れちゃって、でも蒼汰くんどうせ学校来ないしいいじゃんってなったけど」


「ボク知ってるよ。ユリナちゃんが“器物破損”だって言ってたもん。蒼汰くんに謝罪しなきゃいけないって 」



 初耳なんだが。


 ていうか、


「は、なにそれ……」


「そういうことなの蒼汰くん。君に影美さんが直接謝るべきか、そのままイスだけ新調しておくかで、この子達ずっと議論してたの。あ、イスは既に新しいものに替えてかるから安心してね。でも……」 

 蒼汰くんが教室に来てくれて、本当によかった!

担任が涙で目を潤ませ謝罪を述べる。

「蒼汰(皐月くん)、ありがとう!」

 

続けてクラス全員がお礼を言う。

 まるで青春ドラマの感動シーンみたいな演出なところだが、ひとついいか?



「オメーらサイッッテーだよおおぉぉおッッ!!!!」



 叫んだ。


 叫ぶしかないだろう。


イスを壊した人物の謝罪を受ける前に、俺は教室を飛び出た。


 どこからくるのかわからん感情の渦に自分が呑み込まれそうで、自我を保つように俺は唸るような叫ぶような悲鳴をあげながら学校内を駆け回った。


 そんな俺を見た四年一組のサイコパスメイトとサイコパス担任は俺を捕まえ落ち着かせようと捜索隊を編成した。捕まるのはしゃくだ。

 なんとか捕まらず、校庭の端にある飼育小屋の隣にある金次郎像の前ですすり泣いていた。

「恥ずかしい。あんまりだ。こんなのないよ……」

 やり場のない感情を隠れ蓑としている金次郎に吐露。もちろん銅像は何も返さない。薪を背負う背中が凛凛しい。

「なんだよ澄ました顔しやがって! 薪背負って本読んでんじゃねーよ! オメーも隣(飼育小屋)に入れてまうぞ!! ああ?」

「く、狂ってる……」

 金次郎から声がしたので命が吹き込まれたかと思ったが違った。


 ひょっこりと、金次郎を挟んだ正面側から少女が生首状態で俺を覗き込んでドン引きしていた。


「あ、あんたは」


見覚えのある顔だった。

ていうかさっきも教室で見た。

四年一組でイケニエに立候補している変態女子生徒の。


「え、えまちゃん?」


「惜しい、えみ。御園みその影美えみ


「ああ、そんな名前だった……」

「だったって。ちゃんと覚えなよ蒼汰くん」


 生首の正体は、覗きこんだ四年一組の生徒の一人、御園影美だった。



第二話です。ここまで読んでくださってありがとうございます。

こんな学校は行きたくないと書いていて思いました;

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