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ふたりぼっちの箱庭革命  作者: 秋月流弥
第二章
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第十二話:再会

 四年生のクラスが連なる四年生フロアまで来たとき、廊下を歩いていたミカゲと花梨が歩む足を止めた。

「ねえ、あれ」

 花梨が俺の袖をクイクイと引っ張る。細い指が示す方向に、子供の影が見えた。

 廊下に座り込む小さな影。

 よく見ると小学校低学年くらいの男の子だった。

 男の子は俺たちに気がつくと声をかけてくる。


「お兄ちゃんたち、一緒に遊ぼう」


「え……?」

 男の子はふわり、とこちらへ寄ってくる。

 ふわり、と。その足は透けていて。膝から下は全く足の形を確認出来なかった。

 男の子は無邪気に笑う。

「何十年経っても遊んでくれるお友達ができなくて寂しかったんだ」


「つまり、君は幽霊ってことか?」


 こんな非現実的な質問をすることはこの先一度もないだろうなんて頭の片隅で雑念が過る。

 思ったより自分は余裕があるらしい。

「? ……うーん、遊んでた子達がね、僕を置いて帰っちゃったの。かくれんぼしてたのに。そしたら、いつの間にかこんな姿になってた」

 しょぼんとする男の子。情報から推測すると、かくれんぼで遊んでいた際、何らかの事故で死んでしまって自分が死んだことに気付かず、幽霊となって遊び相手を探しているらしい。


「じ、自殺じゃないんだ。ていうか、本当に幽霊出てくるなんてヤバイよ荒津小学校」

「しっ。落ち着け花梨。しかし酷いな。ほぼいじめで殺されたようなものじゃないか」

「どこがいじめなんだよ」

「鈍いな君は。友達とかくれんぼしてたと言ったろう。ならなぜ途中で置き去りにして帰る」

「気づいてなかったかもしれないじゃ、」

「全員が? ひとりくらい気づいた奴が声をかけるか探すかするだろう」

 男の子はミカゲの言葉にぴくり、と反応する。


「僕、いじめられてたの? 殺されちゃったの?」


 あ。傷つけちゃった。


「いや、俺たち当事者じゃないし、違うかもしれないぞ」

 慌ててフォローに入るが、少年の様子がおかしくなった。

「おい、大丈夫か」

「僕、井戸に隠れたんだ。しがみついて隠れてるから早く見つけてほしかったのに、夕方になっても誰も来ない。様子を見に行こうとしたときに足がすべって……」


 井戸。

 俺が小学校に来たとき聞いたことある話があった。

 その井戸は昔生徒が井戸に隠れたところ足を滑らせ事故死してしまい、それから井戸は埋められ新たに飼育小屋として再利用され、小動物たちを飼っていた。

 何故かそこで飼うウサギや鶏は寿命が短く、何度新しい動物を飼ってもすぐ死んでしまった。

 一時、飼育小屋の祟りとして昔井戸であったことが生徒に多く知られたのだ。

「遊んでくれる友達が欲しくて、一緒に遊んだだけなのに、すぐ動かなくなっちゃうんだ」

 男の子の表情は段々と暗くなるにつれ喋る声は黒く渦巻く怨念のように禍禍しいものへと変わる。

「僕だけひとりぼっちなんて許せない。お兄ちゃん達も幽霊になって遊び続けようよ!!」

男の子の声に呼び寄せられるように、彼の周りには何十人もの小学生くらいの子どもたちが暗闇から這いつくばるように出てきた。その表情は暗く淀み、深い怨みを孕んだ瞳でこちらを見ている。


 ユルサナイユルサナイユルサナイ……


 ぞろぞろと呪いを吐くようにこちらを睨んでいる。

「まさか、この子たちも」

「自殺した生徒たちってことか」

 男の子が悲鳴をあげた。

 叫ぶ声は獣の咆哮のようで、廊下側と教室側の窓ガラス両面にひびが入った。亡霊の生徒たちは男の子に纏わりつくと、吸収されるように男の子の身体の中へ吸い込まれていった。

 怨霊たちを吸い込んだ彼の眼は紅に染まり、口には抉るような牙が生えて幼い少年の姿から鬼のような禍禍しい姿になった。

「鬼ごっこしよう。僕がお兄ちゃん達を捕まえたらずっと遊んでねッ!」

 少年だった鬼は俺に向かって手を伸ばした。

 俺は触れられないように咄嗟に避ける。

 ドゴン、と俺が居た場所には穴が空いていた。

(捕まるどころか触れられた時点でアウトだろ!)

 恐怖で身がすくみながらも他の二人に声をかける。

「とりあえず逃げるぞ。捕まったら殺される!」

 俺が二人の方向を見て叫んだ時には既に二人は俺より遠いところまで全力ダッシュして逃げていた。

「あ、ありえねーー!」


 鬼の手が再び俺に伸び、俺は必死に避ける。

 何回も、何回も伸びる手は一番近くにいる俺ばかりを狙ってくる。例えるならドッジボールで運動神経が悪い奴をターゲットにして集団リンチする卑劣な場面、などとイメージを膨らませてしまうのは呑気だからではなく、迫り来る死から逃れたいための現実逃避からだ。

 体育の授業でも走ったことないくらい記録的な速さで裏切りコンビに追い付く俺。こちとら走るのに最適なジャージ。やっぱ着てきて正解だった。

「ぜぇ……お前らっ、はぁ……俺を囮に逃げるなんてっ卑怯者!」

「私たちは走りにくい服装なんだぞ……ハンデだ許せ」

「そうよ! あんたまさか不利なか弱い乙女たちを残して逃げるつもり!? 」

「「さいってーっ!!」」女子二人が俺へ罵倒。さっきまでの友情が嘘のようだ。少しでも己の身に危機が迫ると誰も自分以外への思いやりなんて忘れてしまう。それが人間の性か。死神もいるが。

 伸びる鬼の手は巨大化して俺たち三人まとめて掴みかかろうとする。

 もうダメか。全員が諦めかけたとき、

「こっちよ!」

 グイ。

 俺たちは曲がり角から伸びた別の手に引っ張られ、窮地を脱した。


 曲がり角に入り、俺たちは突然別方向から現れた誰かの手に導かれ夜の暗い校舎を走った。

 手を引く人物はまるで荒津小の校舎を熟知しているように階段や廊下の位置を把握し駆けていく。

ミカゲと花梨も不思議に思いながらも、それにならい俺の後を着いていった。

 おかげで何とか鬼からの追跡をかわすことが出来た。

 荒い息を吐く俺たちは一時の避難場所として一階の図書室に隠れる。

 小学生の頃は大きな本棚の羅列が妙に威圧的で苦手だったこの場所も、今の自分には小さな書庫にしか見えない。それでも屈めば全員身を隠すことが出来る。夜の校舎で命を懸けたかくれんぼとは笑えない。

「鬼ごっこからかくれんぼと大忙しね」

「あの、ありがとうございました」

 俺たちを助けてくれた謎の人物が初めてこちらを向いた。


 暗闇の中月明かりだけの儚い光を頼りに見えたその顔は。


滝里たきざと先生……!?」


 俺たちを窮地から救ってくれたのは、荒津小学校四年一組の担任教師、滝里たきざと杏奈あんなだった。



第十二話です。ここまで読んでくださりありがとうございます!

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