思い出のあの丘に
子供の頃の火災で障害を負った女の子が幸せになるお話し。
ちょっと下ネタを書こうと思っただけなのに気がついたらややこしい話になってました。という。
ヒロインが身体に障害持っていたり色々アレなので、そう言うのが苦手な方はご注意ください。
「私がリオ兄ちゃんのお嫁さんになってあげる」
「ありがとう。嬉しいけどルーミナはまだ8歳だから結婚は無理だなぁ」
「なんで?」
「結婚は大人同士でするものだからだよ。そうだなぁ、10年したら確認するから、その時まだボクの事を好きでいてくれたら、お嫁さんになってね」
「うん」
小さい頃の夢を見た。
目を覚ますと、外はもう明るくて鳥のさえずりが聞こえる。
ベッドの上で起き上がった時のままの姿勢でしばらくぼーっとしてしまう。
あんな夢を見たのは、あの丘になんとか言う男爵のお屋敷が建ったらしいと言う噂を聞いたからだろうか。海が見える丘の真ん中に大きな木が立っていて、その木陰で私はリオお兄ちゃんに告白をした。
私はアレからあの丘に行くことはなかったが、もうあの木は切り倒されてしまったのだろうか。
リオお兄ちゃんとは8つも歳が離れているから、あの頃すでに16歳。この国では成人済みで、平民は早いと15で結婚する者もいたわけで、だからそんな話をしたのかもしれない。
私はリオお兄ちゃんの事が好きだった。
「ルーミナ、起きてる?」
「あ、はい」
「………」
部屋に入ってきた母がジト目で見下ろしている。
「あの…」
「なんかよそよそしいのよね、貴方。娘に「あ、はい」とか言われる親の気持ち、分かる?」
「ごめんなさい。…でも、なんかお嬢様っぽいでしょ?」
ちょっとふざけた感じで言ってみたつもりだけど、うまく笑えたか分からない。
私は3人兄弟の末っ子で、兄も姉も家を出てて、私だけが家に残っている。
私も家を出て生きていければ良かったのだけれど、そうも行かない。
「はいはい、お嬢様、着替え手伝うから起きちゃってね」
「うん、お母さん」
今から8年前。10歳の頃に大きな火災があり、私は大怪我を負った。
火傷の跡が残り、手足が不自由になった。倒れてきた柱に挟まれたのだ。
その後遺症なのかいまだに体が弱く遠出も出来ない。
今は、母の内職を手伝ったりしているが、本当に役に立っているかは定かではない。
あの時、一命を取り留めた私にリオお兄ちゃんはそばに居てやれなくて済まなかったと泣いた。すでに働きに出ていて近くにすら居なかった人にそんな事を言われても申し訳なさしかなかった。
「そう言えばリオくん、この冬は帰ってこないのかしらね…」
「どうだろ。なんだかいつも忙しそうだし。と言うか、リオくんはないんじゃない? もう26歳なんだし」
「そんなもんよーっ」
私用にリオお兄ちゃんが作ってくれた背もたれと肘掛けの付いた椅子に座って縫い物をしていたら母が噂する。この身体は普通の椅子では手仕事も難しいのだ。
あの事故から、リオお兄ちゃんはそれまで以上に忙しくしている様で、帰ってきてもいつも疲れた様子で作り笑いを浮かべていた。だんだん、滞在する日数が減り、終いには他で宿を取る様になってこの家に泊まる事すらしなくなっていった。
そんなある日、アパートの前に綺麗な馬車が止まった。
馬車の事はよく分からないけども、貴族の人とかああ言う馬車に乗るんだと聞いた事がある。こんなところに何の用だろうかと少し思ったが、あまりじろじろ見ているのも良くないと聞くので気にしない様にしていたら、リオお兄ちゃんが帰ってきた。
「ただいま、ルーミナ」
「おかえりリオお兄…ちゃん?」
久しぶりに見たリオお兄ちゃんは高そうな服を着て髪を綺麗に撫で付けていた。
貴族様だと言われたら信じてしまいそうだ。
「身体の調子はどうだい?」
「相変わらずよ。無理は出来ないけど、悪くもなっていないわ」
「そうか。それは良かった。…君に、確認したい事があって飛んできたんだ」
「確認?」
椅子に座る私の前にしゃがんだリオお兄ちゃんが私の手を取る。
「あの日の約束は、まだ有効だろうか?」
緊張した面持ちで、そんな事を言った。
「あの…」
「すまない。こんな言い方はダメだな。やり直させてくれ」
「えっと…」
「ルーミナ、私と結婚してもらえないだろうか」
息が詰まりました。
真剣な眼差しで見つめるリオお兄ちゃんの顔が涙でぼやけます。
「えっと、兄弟は結婚できないですよ?」
「え? そこから?」
リオお兄ちゃんは我が家で育てられただけで血は繋がっておりません。
「ご、ごめんなさい。嘘です。と、突然だったので、その」
「突然ではないと思うんだが。10年も待ってしまった。いや、待たせてしまった。本当なら15の誕生日に言いたかったくらいだ。もっと側に居たかったのに、さすがに成人した女性のいるアパートに泊めてもらうわけにもいかなくて、だいぶ辛かったんだぞ?」
「えっと、あの、でも…」
私の答えを待たずにリオお兄ちゃんはさっと立ち上がりました。
「体調が良い様だったら出かけないか? 見せたいものがあるんだ」
「え、ええ」
あの馬車に乗せられて、少し離れたところまで連れて行かれた。
いわゆるお姫様抱っこで馬車から下ろされると、そこは大きなお屋敷で執事やメイドさんが迎えてくれる玄関に入って行った。抱き抱えられたままで。
中に入ると広い吹き抜けの広間で、正面の階段を登って2階に上がり、部屋を素通りしてバルコニーに出た。
「え? ここ…」
海が見える丘の上、庭にはあの木が立っていた。
「君がプロポーズを受けてくれたら、ここに住むことになる」
「え? でも、私は何も出来なくて…」
「大丈夫、メイドや料理人を雇ったから、君は居るだけで良い」
「そんな、え?」
「ちょっと大げさになったが、これがオレが今日まで頑張ってきた努力の結晶だ」
リオはこの10年、廃村寸前だった港町の開発事業に携わっていた。
港を拡張して大きな漁船や輸送船が停泊できる様にした。
町を大きくして、街道の整備もした。
その功績で男爵位を授かったのだ。
「と言っても、俺1人の実績じゃないし、誰でも良かったんだけど、貴族相手に商売をするために必要だから、お前がやれって、仲間から押し付けられたんだけどな、ほぼ」
「えっと、でも、ほら、私、こんな火傷の痕が、気持ち悪いでしょ…」
「そうだな、ちょっと気持ち悪いかもしれない」
「え…」
「オレのちんことか見る?」
リオお兄ちゃんが、自分の体を見回してから、そんな事を言い出す。
「え? ちん? は?」
「女性とか見慣れないからか気持ち悪いって言い出すやつも居るらしい」
「あの、そう言うのは冗談でも言ったらダメです」
「すまんすまん。でも、見慣れないものが気になるのは仕方がない事だし、オレだって人に見られないように隠しているモノがある。そんなもんだ」
「子供も、産めるか分かりません…」
「そもそも一代限りの爵位らしいから、後継とか気にしなくて良い」
「そう言う事じゃ…」
「卑怯な言い方になるが、オレが今日まで頑張って来れたのも、全部君が居たからだ。もし他に好きな奴が居るとかじゃなければ受けてほしいんだが…」
もう涙と鼻水で上手く話せそうにない。
私の気持ちを尊重している様な事を言っている癖に、手放すつもりは初めから無い様だ。
それはそれで嬉しかった。
それから結婚式だ何だと忙しく、少し寝込んだり、驚いたリオお兄ちゃ、いえ、リオが仕事に行きたく無いとか言い出したり、母にも一緒に住もうと言ったのだけど、仕事や近所付き合いがあるからと断られたり色々あった。
結局、リオの仲間や母の友人たちも集まって賑やかな日が多かったわけだけども。
以前に比べたら格段に良い生活をさせてもらったおかげか、娘を授かる事ができ、どうやら学園で王子さまと一悶着あった様だけれど、それはまた別のお話し。
リオの心情とか何やってたのかとか書けたら良いんだろうけど、男とかどうでも良いんで思いつかん(オイ