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異世界でレースしてみない?  作者: 猫柾
第四章 大器晩成のルーキー
67/140

63.苦しみを呼び覚ます

 



「……んぐっ……いっ……ううぅ――――――――!!!!」


 絶えず押し寄せる痛みの中で、チェッカーフラッグを視認できたのは奇跡と言っても過言ではないだろう。

 シノレの真横でフィニッシュした。勝てたのかどうかは分からなかった。

 それよりも。


「あああぁぁぁっ! ……はぁ……はぁ……」


 身体の中身を締め付けていたような痛みからようやく解放され、息を切らしながら無線に繋ぐ。


「じゅ……はぁ……順位は……?」


『惜しかったー! 0.014秒差で2位!』


「2位……2位かよ……」


『大丈夫? 焦らずゆっくりピットまで帰ってきてね』


 結果は2位だった。

 あとたったの0.014秒差? それがどうした。

 その0.014秒に届かなかったのならば、価値はない。あるはずがない。

 俺は何のために……必死で……


 !?


 身体が痺れてくる。


 熱い、指先から心臓まですべてが熱い。

 まるで燃えているみたいな……だが実際に燃えているわけがないことは火を見るよりも明らかだ。


 熱い、なおかつ冷たい。

 全身の血管に冷却水と溶岩が同時に流れているような錯覚を覚える。

 痛みはさっきに比べればだいぶマシになったが。


 もういい、何も考えるな。

 まずはピットに戻るんだ。






 *






「――――――――――――え……?」


「あ、起きた? おつかれー」


 気付いたら俺は、Zの助手席で揺られていた。

 隣で運転しているのはエルマ。


「なんで……」


 窓から見える景色は真っ暗、夜も更けてきた頃だろう。

 車が少なく閑散とした高架道路から、道路のつなぎ目をまたぐタイヤの音が一定間隔で聞こえてくる。


「覚えてないの? 寝ちゃってたから運転代わってあげたよ」


 寝ちゃってた?

 言われてみれば、ここ何時間かの記憶がない。


「あ、ありがとう……実を言うと、記憶が混乱してる」


「まだまだ家までかかるから、あんまり無理しないで」


「無理?」


 それはどういう――――


「うぐっ……! いった……いっ!? 痛い痛い痛い痛い!!」


 決して絶好調とは言えない身体に突如として濁流のようにぶつけられた、痛み……というか痺れ?

 まるで全身に電流を流されながら数千本もの針で何度も何度も刺されているみたいだ。


「大丈夫!? なるべく動かないで!」


「な……はぁ……はぁ……」


 ほどなくして痛みはどこかへ消えていった。

 今のは一体何だったんだ?


「ああ、思い出してきた」




 現在に近い記憶から思い出していったので、その順で追っていこう。


 まず、俺はなぜ寝ていたのか。

 いつだったかは忘れたが、レースが終わって後片付けやら何やらに追われている間にZに座って少し休憩していたら、知らぬ間に寝ていたようだ。

 そうするともうずいぶん時間が経っていることになるが……?


 次に、レース後何があったのか。ここに関してはあやふやだ。

 表彰台(ポディウム)でトロフィーを受け取った記憶は鮮明だが、その前後がさっぱり抜け落ちている。

 時間が経って思い出すといいが。

 ああ、そう、この時『史上3番目に僅差で勝負が決まったレース』だとか何とか言われた気がする。


 そして最後、この痛みの原因はなんなのか。


 おそらくレースのファイナルラップで何か良からぬことが起きたのだろうが、見当もつかない。

 俺がしたことの中で特に理由は見当たらないし……何か病気の前兆などではないことを祈る。

 ――――とは言っても、冷静に考えて、だ。

 この世の終わりみたいな痛みが体中を駆け巡った時点で、ある程度の悪いことは覚悟していなければならないだろう。


 まったく、気が滅入る。

 気分転換に楽しいことでも考えよう。


 ポイントの話だ。

 クラス3全国選手権はレースの結果によってポイントが加算され、上位6名が最終戦に招待される――――というのは以前に説明した。

 ポイントは1位から10位まで獲得でき、上から順に25-18-15-12-10-8-6-4-2-1点。

 俺は2位だったので18ポイント獲得となる。

 まだ第1戦だからなんとも言えないが、ひとつひとつのレースを着実にこなしていくしかない。






 *






「ただいま」


 およそ2時間後、俺とエルマはガレージに帰り着いた。


 俺が起きた時点でエルマは既に相当な距離を運転していたため、俺は近くのパーキングエリアで運転を代わろうとしたが、『私の心配はいいから休んでて』と頑なに断られてしまった。


 長距離を運転するのは想像と違って、結構根気が必要だということを忘れてはならない。

 適切な巡航速度をキープし、後ろから来る車と前を走る車に神経を使い、目的地へ確実に着く――――それがどれほど大変かは実際にやってみなければ分からないことだろう。


「今日はありがとう。運転任せちゃってごめん」


「私が好きでやったんだし、謝ることじゃないよ。それより、今日は早く寝て疲れを取ってね」




 エルマの気遣いに心から感謝し、布団に入る。




 疲弊した精神は、いとも簡単に夢の世界へ持ち去られていった。




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