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異世界でレースしてみない?  作者: 猫柾
第四章 大器晩成のルーキー
58/140

54.所属という証明

 



 *数日後*




 先日、南西ブロックの第1戦を観客席で見届けた俺は、走行欲が湧き上がっていた。

 レースはまさに圧巻の一言。

 あれほど白熱した勝負が今まであっただろうか。

 あんなものを間近で見せられれば、こっちだってサーキットかどこかを走りたくなってくるというものだ。


 しかしエントリーもしていないのに真昼間からサーキットを走りこむのは気が引ける。

 そこで首都高に通おうと決めた。


「行ってきまーす」


「気を付けてな」


 深夜10時ごろ、寝ているエルマを起こさないように気を使いながら俺はガレージを出た。


 この前ナンパした奴とバトルした後に聞いたのだが、ここでは走り屋たちが毎日のようにバトルを行っているらしい。

 それは俺にとって好都合だった。

 相手はいくらでもいるということになる。




 しばらくZを走らせて、走り屋の溜まり場となっているパーキングエリアに到着した。

 以前もそうだったが、駐車している改造車の多いこと多いこと。


 なるべく目立たないような場所に駐車したつもりだったが、車を降りてすぐ誰かに話しかけられてしまった。


「君、噂の500馬力だろう? バッチリ見ていたさ」


 覚え方が馬力なのは若干癪に障るが、振り返って見上げたところに彼の顔はなかった。

 今は深夜だが暗闇のせいではない。


 彼は仮面を被っていた(・・・・・・・・・・)


 仮面といっても顔全体が隠れているわけではないので、表情は微かに見て取れる。

 俺ってそこまで噂になるようなことしたか?


「んー、人違いじゃないですか?」


 とりあえず切り抜けようとするが、仮面の男は確信していたらしい。


「自己紹介がまだだったな、すまない。俺の名は……幽霊。よろしく、ふっ」


 幽霊と名乗る彼は仮面の下に笑みを浮かべていた。

 しかし、幽霊? 通り名か何かだろうか?


「君はいつから首都高を走っているんだ?」


「え? あぁえっと、今日が2回目です」


「ということは前のバトルが初めてだった、と?」


「そうですね」


「ふっ、なかなかいいセンスだ。よければ俺のチームに案内してやろうか?」


 チーム……そういえばナンパの奴が、走り屋チームのリーダーだとかほざいてたな。

 やはりここではチームを組むのが基本なのだろうか?


「ぜひお願いします」




 して連れてこられた先には、やはり改造車が並べられている。

 全車フロントガラスの端に貼られているステッカーはチームの証だろう。


「ここが俺のチーム、エヴァーミタだ。ふっ」


 幽霊が案内したパーキングエリアの一角、そこで話をしていた人たちは幽霊の姿に気付くと一礼した。


「どうだ500馬力よ。エヴァーミタに入る気はないか?」


「あの、500馬力って呼ぶのやめてもらえますか」


「別にいいが、他に呼び名がない」


 ごもっともだ。俺は名乗ってないし。

 だがそれには理由があって、下手に話が広がっても困るのだ。

 俺はただドライビングテクニック追求のために走りに来てるし。


「……あと、誘いは嬉しいですけど遠慮します」


「ということは、他のチームに入るつもりか? それともソロで走るつもりか?」


「当分はソロで走ろうかと」


 そもそも俺はムダに人間関係を広くしたくないので、ソロでも何ら問題はない。

 というかチームに貢献できるほどの器でもない。


「ふっ、そうか……そう言うなら仕方がない。好きにすればいい」


 とりあえずは一人で首都高を走っていくことにしよう。

 にしても幽霊、事あるごとに『ふっ』の一言を欠かさないな。


「だが、気が変わったら教えてくれよ。エヴァーミタに来るならいつでも歓迎するさ、ふっ」


「ありがとうございます。ふっ」


「それ俺の」




 車を停めたところに戻り、自動販売機でコーヒーを買った。

 俺がそれを飲んでいる間にも何台かの車がパーキングエリアを出て行き、また何台かの車がパーキングエリアに入ってきた。

 茂みから出てきた野良犬もそれを見守っている。


 深夜の街を照らすライト――――


「あああああぁぁぁぁっ!!!」


 え、何?


 声がした隣を見ると、炭酸飲料の缶が噴出……ウラク。

 どうしてウラクがここにいるのかは置いといて。


「炭酸を自販機で買ったらすぐには開けるなって何回言えば……」


「うるっせぇな、んなこと分かって……あれ、レイ!?」


 向こうもこちらに気付いたようだ。


「久しぶり。ウラクも走りに来たの?」


「ああ、っても最近初めて来たんだけどよ」


「俺も。どっかチームには入ってる?」


「いや、ソロだ」


「だと思った」


 俺があることを閃く。


「せっかくだし二人だけでチーム組まない?」


「ハハハ、いいんじゃねえの? あんまメリットはなさそうだけどな」


「とりあえずどっかチーム入っとけみたいな風潮あるじゃん」


 ある意味、走り屋チームに所属していること自体が実力の証明みたいなものだろう。

 ソロが冷遇されていたとしても不思議ではない。


「じゃあ、決まりだ。これからよろしくな」


「よろしく」




 ひっそりと首都高を攻め続ける、たった二人だけの走り屋チーム。



 パーキングエリアの街灯が俺たちを照らしていた。




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