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異世界でレースしてみない?  作者: 猫柾
第四章 大器晩成のルーキー
57/140

53.久しぶりのチーム

 



 *




「よーし、結果が出たぞ」


 おっちゃんの声でゆっくりとアクセルを抜き、Zのタイヤが止まっていく。

 やっとセッティングを終え、ガレージの中にあるシャーシダイナモでエンジンの馬力を測っていたのだ。


「記録は483馬力だ。まあこんなもんだろう」


 前世での記録が500馬力ちょいだったから、数字だけ見ればパワーダウンしていることになる。

 もちろんわざとそうしたのだ。


 来年出場する予定の全国選手権はクラス3規格のため、500馬力を超えるわけにはいかない。

 だからあえてピークパワーを抑え、低回転から高回転まで全域にわたってトルクが出るように調整した。

 これがどういう変化をもたらすのかは乗ってみなければわからないが。


「ねぇねぇ、なんかネコの鳴き声しない?」


「え?」


 エルマの言葉に首をかしげる。


「エンジン吹かしたときにネコの鳴き声が聴こえるんだけど」


「あー、はいはい。これね」


 合点がいった。

 俺は停車状態のままエンジンを吹かす。


 ヴォォァァァアアアァァァン!!! (にゃー!)


「ほら!」


 まあ確かに、猫に聴こえないこともない。

 言いたいことは分かった。


「これね。スーパーチャージャーの音」


 俺のZは後付けで装着したから音が大きいのかもしれない。

 しかし、猫の鳴き声ね……発想がエルマらしいというか。


「スーパーチャージャーか……なるほど。長年の謎が解けた」


「長年の謎だったんだ」


 笑いながらまたエンジンを吹かす。


 ああ、気持ちいい。これだけで生きていけそうだ。




「やけに良い音だな」




「えっ?」


 驚いて外を振り返ると、リュードが立っていた。

 そういえば卒業式以来会ってなかったな。


「リュードじゃん! いらっしゃ~い」


 エルマが駆け寄る。


「久しぶり。レイ、エルマ」


 ここに来るラ・スルスの卒業生は3人目だ。

 リュードも暇つぶしか何かだろうか?


「今日はどうしたの? わざわざ来て」


「単刀直入に言おう。レイ、今からサーキットに来てほしい」


「今から?」


「今週末は全国選手権の開幕戦だ。レイが出場しないとは噂になっていたが、ならせめて走りのアドバイスだけでもしてくれたら嬉しい」


 そういうことか。

 その為だけにガレージを訪ねてきた熱意を、俺はしっかりと受け止める。


「わかった。行こう」








 *数時間後*








「ここが南西ブロック第1戦の舞台だ」


 リュードの車に乗せられて数時間。

 やっと到着したサーキットでは、すでにコース上を何台かの車が走っている。


「あ、ネオスレーシングなんだ。なるほど」


 リュードが車を停めたのはネオスレーシングというチームのガレージ。

 最近よく話題に上がる、若手レーサー育成に力を入れている新進気鋭のチームだ。


 俺も車を降りて――


「レイ君、久しぶりですね!」


「えっ? ルーチェ……なんで?」


 ピットガレージで作業していたルーチェは、俺の姿を見て真っ先に声をかけた。


「私もネオスレーシングにエンジニアとして所属してるんですよ」


「なるほど」


 思わぬ再会だ。

 しかし、ルーチェがここにいるなら弟のシャンテがいてもおかしくないはずだが……


「あ、久しぶりっす。リュード、本当にレイを連れてきたんすね」


 いた。

 この暖かい雰囲気はさながらチーム3そっくりだ。

 ガレージ内は今週末のレースに向けて忙しいが。


「ところでリュード、改めて聞くけど」


「なんだ?」


 俺は前に停まっているリュードの車に目を向ける。


「このルクスについていろいろ教えて」


 リュードが乗っていたのは、シルバーのルクス。

 ラ・スルスで実習車として使っていたマシンだ。

 おそらくリュードは上級校で培った技術をそのまま応用するために、同じ車種を選んだのだろう。


「まずエンジンはF200からE200Tに載せ替えてある」


「へー、ターボか」


 ルクスにはもともとF200型というエンジンが搭載されている。

 これは水平対向(ボクサー)4気筒2リッターNAエンジンだ。

 パワーは若干抑えめだが、重心が低くなっているのでハンドリングが軽快になる。

 純正では200馬力。


 そして載せ替えられたエンジンが、E200T型エンジンらしい。

 これはルクス以外の車から持ってきたものだろう。

 同じく水平対向(ボクサー)4気筒2リッターだが、NAではなくターボが付いている。

 これによってNAではありえないようなパワーを出すことができる。

 しかも低重心はそのままだ。

 純正で300馬力ちょっとあったはず。


「エンジンを載せ替える資金なんてあったのか?」


「このルクスはもともとエンジンブローした事故車だった。だから安く買えたし、E200Tエンジンはオークションで落札した」


「やるなぁ……」


 たしかにそれなら納得がいく。

 しかし、チューニングはされているのだろうか。


「E200Tってたしか300馬力ぐらいじゃなかった? チューニングは?」


「もちろんやった。吸排気を整えECUセッティング、そしてタービン交換。実測400馬力」


 なるほど、かなり手がかかっているエンジンだ。

 特にタービン交換。

 ターボエンジンの要となるタービンを交換することで、一気にパワーアップを狙う手法だ。

 レギュレーションの限界まではあと100馬力の余裕があるが、さすがにE200T型で500馬力となるとエンジン内部に手を入れる必要があるだろう。


「400馬力か。なかなかいいじゃん」


「これ以上は強度に問題が出るし、俺には扱いきれないからな」


 しっかりと自分に扱えるチューニングにとどめている。

 それができるかできないかだけでも雲泥の差だ。

 とか思っていると、リュードにヘルメットを渡された。


「走るぞ」


「え、もう?」


「ほら早く乗ってくれ」


 すでにヘルメットをかぶったリュードが、ルクスのエンジンをかけた。


 シュンッ、ドロドロドロドロドロドロ……


 水平対向(ボクサー)エンジン独特のアイドリング音が響く。

 俺も助手席に乗り込んだ。


 ピットレーンをルクスが加速していく。


 ゴォォォォオオオオオッ!! (ヒュルルル!)


 ターボの音がする。





 数か月前とは比べ物にならないほど上達したリュードのドライビングを、俺はこの目に焼き付けた。






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