表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界でレースしてみない?  作者: 猫柾
第三章 ラ・スルスでの歩み
39/140

36.メカニック学科の生徒

 





 *春*






 2コーナー進入。

 俺の車のすぐ隣を、ウラクの車が掠める。


「危ねっ、またムチャなラインで突っ込んで……」


 アウトへ膨らんでいくウラクを横目に、俺はアクセルを吹かしながらクロスラインで巻き返した。

 だが加速力が足りず、まだ鼻先が並びかけたまま並走で3コーナーへ。

 今度はアウトとインが逆になり、ウラクが有利になる。


 予想通りあいつはここで勝負を決めるつもりだが――


「させねえよ!」


 ギリギリのところで粘った。

 4コーナー、再びインとアウトが入れ替わる。

 ここだ。


 俺は限界までブレーキを遅らせ、ウラクの前に出てコーナーを曲がっていく。

 ここは脱出に向かってコースのアウト側が広くなっているので、多少なら無理が効く。


「よし、入った」


 俺はそのままスムーズに立ち上がっていき、バックミラーに映るウラクに向かって口を開いた。


「まだまだ甘いな」




 俺はピットへ車を停め、ヘルメットを脱いで汗を拭った。


「あぁー、やっぱ暑いね。夏も来てないのに」


 ウラクが煮え切らない顔で俺を見ていた。


「ん、何?」


「あと1周あれば、俺が勝ってたぜ」


「そんなこと言ってたらいつまでたってもC級止まりになるよ」


「くっ、痛いところを突いてきやがった……」


 待ちに待った5年生への進級からしばらく経った朝。


 1か月ほど前のテストで俺たちにとって初めての昇格・降格テストが行われ、俺はライセンス交付時のD級からB級へと飛び級した。

 ウラク、フィーノはC級へ昇格。

 これでまたウラクに敵視される理由が1つ増えたのは言うまでもない。


「ほら授業始まるよ。今日は確かメカニック学科との合同授業だっけ?」


「そうか、お前は前半組か。頑張れよ」


 受験以来すっかり忘れていたが、ラ・スルス自動車上級校のモータースポーツ学部には、俺が在籍するレーシングドライバー学科の他にメカニック学科とレースエンジニア学科が存在する。

 今回はそのなかのメカニック学科と合同授業らしいが、一体何をするのだろう?

 先生からは「楽しいゲーム」としか伝えられなかった。




「お、フィーノも前半か」


「うん」


 どうやら実習授業らしく、俺たちはランダムに前半組・後半組へと別れた。

 レーシングドライバー学科の生徒20人に対して実習車が10台のため、1人1台必要な授業ではたまにこういうことがある。

 にしても今回は午前・午後ではなく、今日と明日の2日間行われるらしい。

 結構大がかりな合同授業なんだろうか?


 集合場所へ行くと、先生(と先に着いた何人かの生徒)が待っていた。


「あ、来た来た。これで全員揃ったかな?」


 また俺たち最後だったのか。集合時間5分前だからあまり悪い気はしないが。


「今回は、セッティング当てテストをします!」


 先生が唐突に発表した。

 セッティング当てテスト?

 馴染みのない言葉が脳内を飛び回る。


「すでにピットのガレージの中では、いつもの実習車が用意されています。何周かサーキットを走って感覚を覚えたら、今度はメカニック学科の生徒にセッティングを変えてもらいます。そしてまた走って、どこを変えたか言い当てる。これを数回繰り返して終わりです」


 あー、なるほど。


 セッティングというのは、チューニングとはまた違った方法で車を速くする手段だ。

 チューニングは車を改造して速くするのに対して、セッティングは状況や環境、車両の状態に合わせてパーツの設定を変えること。

 つまり、車を最適化して本来の性能を発揮できるようにすることだ。


 これはかなり難しいテストじゃないか?

 とりあえず、俺は指定されたガレージへ行って車に乗った。


 ゆっくりピットレーンを走り、コースへ一番乗りで合流。




 今のうちにしっかり感覚を身につけておかないと、後でどこが変わったか分からなくなる。

 いつも乗っているから大体の挙動は覚えているが、今回ばかりはそれら全てをいったん忘れて、1から体に刻みなおそう。


 一度先入観を取っ払ってみると、この車の内なるポテンシャルが改めて認識できる。

 フロントが軽くて低重心なおかげで、コーナーにスーッと入っていく。

 高剛性で軽量なボディを加速させるのには200馬力のエンジンでも十分だ。

 むしろこのぐらいのパワーの方が気持ちよく曲がれて、より運転が楽しくなる。


 セッティングって、どの程度までいじるんだろう?

 主なセッティングと言えば足回り(サスペンション)だが、もしかしたらエンジンとかの可能性もないわけではない。

 いやでもエンジンのセッティングって……パッと思いつく限りでは燃調ぐらいだ。

 ターボをいじる? いや、この車にターボは付いていない。

 ECUの最適化ならありそうだが、それってチューニングの域では?


 ダウンフォース……ルクスにはエアロパーツの類もない。

 さすがに外付けでエアロなんか付けたら、乗らずとも一発でわかるし。




 いろいろ考えつつ、走り終えた俺はピットへ戻った。

 そういえばメカニック学科の生徒が待ってるんだっけ?

 初対面の人と会うのは久しぶりだ。


 俺が乗る4号車が入っていたガレージに停め、バックで慎重に駐車する。

 バックミラーに人影がちらついたが、顔までは見えなかった。


 駐車を終えてエンジンを切り、俺はメカニック学科の生徒に会うべく車を降りた。


「運転おつかれさま。セッティングが終わるまで……あっ!」


 2人の生徒が車を降りた俺をガレージで出迎えてくれたが、片方は俺がよく知っている人物だった。


 え、なんでここに?


 向こうも俺に気付いている。






「レイ、私と同じ学校に通ってたの!?」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ