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【第37話:真魔王ラウム その3】

 サクロス公爵領にあるシュガレシアの街から、冒険者の街ヘクシーへと続く道。


 その街道を配下の者たちと共に駆けているのは、勇者であり『叛逆の魔王軍』、『影狼(かげろう)騎士団』を率いるアルテミシアだ。


 アルテミシアは、馬より一回り大きい巨大な漆黒の狼に跨り、まるで風のように先頭を疾駆していた。


 アルテミシアが跨る巨大な狼は、とても美しかった。


 その毛並みは漆黒でありながら、見るものを魅了するような艶と輝きを放っており、恐怖よりも、美しいと感じる者の方が多いだろう。

 それに、かなりの巨体にもかかわらず、まるでその大きさや重さを感じさせず、優雅に、そして静かに地を駆ける様は、まるで一陣の風のようだった。


『アルテミシア様! と言うか、ライカ姉さん! あまり突出し過ぎぬようにしてよ!』


『そうですよぉ! アルテミシア様に何かあったら、うちらステルヴィオ様に殺されちゃいますよ~!?』


 そのアルテミシアが駆る漆黒の狼に、必死に追い縋り、苦言を呈しているのは、色こそ薄い灰色だが、同じく大きな体躯の美しい二頭の狼。


 そして、その背には誰も乗っておらず、巨大な狼自身が話しかけていた。


 しかし、彼ら、彼女らは、ケルのような魔物ではない。

 彼らはワーウルフと呼ばれる種族で、人族の国では人狼として名を知られており、そして……魔物でないにもかかわらず、魔物として扱われていた。


『あんたたちが遅すぎるのよ! ロイ! メシリー! ステルヴィオ様の命令を聞いていなかったの? 王命なのよ!』


 そして反論するのは、アルテミシアを背に乗せ、先頭を疾駆する漆黒の狼。


 その幻想的な美しい容姿とは裏腹に、若干残念な話し方なのは……ここでは置いておくとして、ワーウルフで構成された『影狼(かげろう)騎士団』の副団長であり、そのワーウルフの族長でもあるライカだ。


『だって~私とロイはともかく、他のみんなが付いてこれないよ~』


 メイシーと呼ばれた灰色の狼に言われて、ちらりと振り返ったライカの目に見えたのは、既に100m以上離されてしまっている部下たちだった。


「ふふふ。ライカ? 張り切ってくれるのは嬉しいけど、もう少しスピードを落としてあげて。せっかく戦いに間に合っても、みんながバテて戦えなかったら意味がないでしょ?」


『は、はいっ! わかりました!』


 そして、ライカも団長であるアルテミシアにそう言われてしまっては拒否する事も出来ず、すなおにスピードを緩めた。


『だいたい、族長の血筋の僕たちはともかく、みんなは『完全獣化』のギフトを持っていないんだから、こんなスピードで長時間走り続けるのなんて無理だよ。まだ早いから、もう少しスピード緩めて』


 ロイが言うように、ようやく息を乱しながら追いついてきた者たちは、みな半獣半身の、まさしく人狼の姿で、かなり無理をしている様子だった。


 ちなみにその姿は、皆一様に揃いのブレストプレートを身に着けてこそいるものの、ほとんどの者がその姿を見ても、おそらく傭兵団と勘違いするだろう。


 ただ、普通傭兵団がここまで統一の装備、しかも明らかに、下手な騎士団の装備よりも遥かに上等な装備をつけている事など、実際にはあり得ないだろうし、並の騎士団など相手にならない強さを誇っているのだが。


『もう……しょうがないわね……もう少し緩めましょうか』


 しかし、スピードを緩めたと言っても、その行軍速度は途轍もない速さで、馬がその背に何も乗せずに全力で駆けるよりも、はるかに早い速度だった。

 これは、元々のワーウルフとしての異常なまでの身体能力の高さに加え、ステルヴィオの眷属になった事による強化、さらには『王命』によって、その力が限界まで引き上げられたおかげだ。


『アルテミシア様。おそらくあと1時間ちょっとでヘクシーの街とやらが見えて来ると思います』


「わかったわ。ありがとう。じゃぁ、お喋りはそろそろお終いにしましょうか。あと1時間ほどなら、いつ敵と遭遇してもおかしくありませんしね」


『『『はいっ!』』』


 こうして1000人のワーウルフからなる『影狼騎士団』は、ヘクシーの街を救うべく、街道をひた走ったのだった。


 ~


 アルテミシアたちが別動隊となってヘクシーの街に向かっている頃、古都リ・ラドロアの近くに展開していた真魔王軍『天』の魔物たちは、今まさに突然現れた謎の軍との戦闘を始めようとしていた。


 ケルと、ネネネやトトトがひと暴れしたせいで、多少の混乱は起きていたが、空を飛べるという特性を生かして、一旦空に逃げて態勢を立て直していた。


 しかし、空が黒く染まるほどの数の魔物が飛ぶ光景は、普通なら悪夢そのものなのだろうが、その悪夢のはずの魔物たちの方が、謎の軍から感じる何かに、動揺し、恐怖していた。


 なぜなら、その所属不明の軍を率いているのは……、


「さぁ、ラウムにはここで退場して貰いましょうかね」


 ステルヴィオの筆頭眷属、ゼロ。またの名を、原初の魔王バエル。

 最強と最恐の象徴であり、過去にあらゆる強者が挑み、敗れ去っていった伝説の魔王なのだから。


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