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【第29話:馬車は往く】

 ステルヴィオたちは、夕刻になっても馬車を走らせ続けていた。

 食事も簡単なものをそれぞれ馬車の中で取り、休憩もとらずに……。


「うぉぉぉぉ!! 漲ってきたぁぁ!」


 御者台で手綱を握り締め、雄叫びをあげているのはアグニスト王太子の馬車を操る御者のドリアス。


 決して頭がおかしくなったわけではない。


 もう限界だ、無理だ、死ぬと泣きわめきだしたドリアスに、ゼロが強化魔法をかけたせいだ……。


「なんなら、このまま一昼夜走り続けることだって出来ますよ!」


「少し黙れ……アグニスト殿下が少しお休みになられておる」


「あ……すんません……」


 護衛騎士のギムに注意され、ようやく少し静かになったが、それでも目を輝かせ楽しそうに手綱を振るう。


「ははは。かまわないよ。ドリアス。寝ようと思ったが、さすがにこの揺れる馬車の中で眠るのは無理があったようだ」


 ゼロの魔法によって馬車自体の強度が大きく上昇し、振動なども衝撃吸収効果によって激減しているのだが、それでも街道自体があまり整備されていないため、かなりの揺れを伴っていた。


「起きてるなら、少し邪魔しても良いか?」


 影移動で馬車から馬車へと移動してきたステルヴィオの声が聞こえ、気が付けばドリアスの隣に座っていた。


「うっはぁ~!? びっくりさせないで下さいよぉ~! おっどろいちゃうじゃないですかぁ!」


「な、なんかゼロの強化魔法で、えらくハイになってるな……」


 御者のドリアスが若干おかしな方向にいってしまっているが、手綱さばきは変わらず見事なので、馬車自体は安定していた。


「まぁドリアスは置いておくとして、どうしたのだ?」


 最初は苦笑しながら、最後は少し真面目な表情に変えて、アグニスト王太子がそう尋ねると、


「おそらくだが、戦闘が起こっている」


 同じくステルヴィオもその表情を引き締めてそう答えた。


「戦闘と言うのは……」


「あぁ、おそらくだが、逃げたっていう王様じゃないかと思っている」


 ステルヴィオの言葉に、今までの少し弛んだ空気が緊張を帯びる。

 ギムはその表情を悔しそうに歪め、アグニスト王太子は数秒ほど目を閉じていた。


「それは……その戦いには間に合いそうなのか? いや、それ以前に君たちで勝てるような相手なのだろうか……情けない話だが、君たちが頼りだからな……」


 アグニスト王太子からすれば、戦っているのが国王たちなのなら、何が何でも駆け付けたいところだった。

 だが、実際に戦いになれば、戦うのはステルヴィオたちだし、強大な敵なのが分かっているだけに、あまり強くは出れなかった。


 だから、この少ない人数で勝てる相手なのかと、つい(・・)聞いてしまった。


 しかし、そのアグニスト王太子の言葉に、不敵な笑みを浮かべたステルヴィオは、


「ははは。勝てるかどうかで言えば、勝てるさ。そもそも勝てないなら、なんでこんな急いで向かっているんだって話になるからな」


 まるでそれが確定事項のように言い切ってみせた。


「だが、間に合うか間に合わないかで言えば、間違いなく間に合わない。このまま仲良く並走していたらな」


「そ、そうか……ん?」


 間違いなく手遅れになると言う言葉に、一瞬、辛い表情を見せたアグニスト王太子だったが、その後に続いた言葉に顔をあげる。


 そして、ステルヴィオの「このまま仲良く並走していたら」という言葉に対し、アグニスト王太子が、


「じゃぁ、君たちが先に向かえば間に合うという事か?」


 と尋ねると、ステルヴィオは大きく頷いてみせた。


「それでは……頼む。どうか、国王を……我が国を助けてくれ」


 狭い馬車で限界まで頭をさげて頼むその姿に、ステルヴィオは、ニカっと笑みを浮かべると、当然だとばかりにもう一度大きく頷いた。


「あぁ、任せてくれ。間に合いさえすれば何とかしてみせるさ。とりあえずオレは『影移動』というスキルを使って単独で先に向かう」


「なっ!? お独りで向かわれるのですか!?」


 ステルヴィオの単独で向かうと言う言葉に、今まで静かにやり取りを聞いていたギムが思わず驚きの声をあげた。


「その方が早いからな。魔王が出張って来てなければ何とでもなるさ」


「し、しかし、ステルヴィオ殿に何かあっては取り返しのつかない事態に……」


「心配には及ばない。それにケルも足が速いから遅れて向かって貰うつもりだ。そうそう。こっちの護衛はアルと、ネネネとトトトの三人に任せるから安心してくれ。あと、向こうの魔王が予想外の動きを見せた場合に備えて、ゼロには待機しておいてもらうつもりだ」


 自信満々にそう言うステルヴィオに、それ以上ギムも何も言えず、ただ一言「わかりました」と言って引き下がった。


「アグニスト殿下もそれで良いよな?」


「承知した。それで……私は何をすれば良いのだ?」


「はは。話が早くて助かるよ。アグニスト殿下には、ちょっと一筆書いて貰えないかと思って。オレはともかくケルが現れると敵だと思われるだろ? だから、味方だって、な」


 話を聞き終わると、向かいの席で控えていた執事が素早く筆と紙を用意して差し出す。


「おぉ……さすが本物は違うな」


「い、いや。ステルヴィオ殿、ゼロ殿と執事を比べるのはどうかと思うぞ?」


 そう言いながらもアグニスト王太子は、素早く一筆窘めて封をすると、それをステルヴィオに手渡した。


「助かるよ。それじゃぁ、先に行ってくる」


「こちらこそ、父を頼む。そして、ステルヴィオ殿自身も気を付けてくれ」


「あぁ、問題ないさ。……ケル! オレが先行するから、後から少し遅れて来てくれ!」


『は~い! ご主人様~!』

『……がってん……』

『わぁってるよ!』


 ケルが魔法音声でそう答え、並走する人形馬車から飛び降りた瞬間、その身体は見上げるほどに大きくなり、凄まじい速度で駆ける馬車をもあっという間に置き去りにして先に行ってしまった。


「ったく……オレが説明する前に着いちまったら、一筆書いて貰った意味がねぇだろ……」


 そして、ステルヴィオもその言葉を残し、影に溶け込むようにその姿を消したのだった。


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