笑われて行こうぜ
「お笑いの交通安全、ゆとりシグナル」
♪出囃子♪
「どぅも〜」
「どぅも〜」
(直立する阿賀井の下で斉木が左膝をついてしゃがむ)
「歩けのコットン斉木」
「止まれのロッキー阿賀井です」
「よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします!」
「同級生コンビでやってましてね」
「そうなんですよ」
「相方のコットンはですね。出身がカナダのバンクーバーなんです」
「違う、キャナダのヴァンクーヴァー」
「発音の問題かい」
「僕は(真剣なボクシングの動き)、テニスをやってましてね」
「どう見ても、ボクシングの動きやんけ」
・・・・・
「もぅ、いいよ!」
「どぅも、ありがとうございました!!」
拍手を背に捌ける二人。
先輩のピン芸人、チャンス高橋
「お疲れさん」
「あっ!お疲れ様でした」
「お疲れ様でした」
「高橋さん、今日」
「いいや、様子を見に来ただけ」
「そうですか」
「ちょっと、二人に話があってな」
「何ですか?」
「何ですか?」
「この後は?」
「あったっけ?」
「無かったと思う」
-ビルの一室にて-
「えっ!マジですか?!」
「声がデカい」
「す、すいません」
「芸人、辞めるんスカ!!」
「落ちて来たしな」
「憧れでしたのに」
「悪いな」
「辞めて何するんスカ?」
「今日、来たのはな。実は阿賀井、お前に話があってな」
「自分に?」
「お前、元ボクサーやって?」
「相方はもぅ辞めたんです!!」
斉木が珍しく声を上げた。
「そぅ声を荒げるな」
「………」
「無理にとは言わん。俺もこの道の端くれ、いつ下がるか分からん」
「斉木」
「何?」
「前、言ってたよな。芸人も副業をしている時代、一本道で走り切るのは相当な大物が出来る事。負け犬や邪道とは言わないが選択肢は増やした方が良いって」
「言ったが…」
「高橋さん」
「何だ?」
「内容によります」
「あぁ。お前らはまだ、芸歴約十年目」
「はい」
「先はまだまだ分からないが時間はある。頭の片隅にも置いといてくれ」
「分かりました」
プルルプルル
「あっ、すまん。はい!もしもし」
高橋さんは部屋を抜けた。
少し沈黙が有り、先に阿賀井が話を切り出した。
「斉木、俺やってみようと思う」
「・・・」
阿賀井は斉木の方を向き頭を下げる。
「お前が一度誘ってくれた副業の話、あの時はバカなと思ったけど、今になって分かる。俺、ボクシングが好きだ」
「・・・」
「先輩からのこんなチャンス二度と無いし、お前の気持ちも痛いほど分かる。今は俺達にとって登りの途中だ。だけど、名前を知ってもらうという事も含めて良いチャンスじゃないか?」
「漫才やコントはどうすんだ?」
「一旦、休みだ」
「・・・・・考えさせてくれ」
「勿論」
斉木はネタを作り続けたが、阿賀井があまりに腕が下がって来た。
-魚庭高等学校近くの浜田ボクシングジムにて-
ガラガラガラ
「よぅ!」
「多花見!何で此処に?」
「お前に会いたくてな」
「芸人になったんだってな」
「丁度良い、やるか?」
シュッシュッ、シュッシュッ、シュッシュッ
「おい!!」
「あぁ?」
パチン!
阿賀井は顔面をくらった。
「迷いが見えるぞ!」