第5話:神言
街を歩いていると、小さな神社を見つけた。ボロボロになっており、長いこと手入れされていない事が分かる。
「ん、折角だし寄ってくか」
私は鳥居を潜り、敷地内へ入った。賽銭でもしようかとポケットに手を入れたが、入っているのはあの手紙だけだった。私は思わず顔をしかめる。
そうだ。彼らは私を受け入れた。死んでしまった私を。あの時は自分が死んだ事に気付いてなかった。自分の事を忘れてしまって、不安だった。そこに彼らはつけこんだ。仲間を増やすために。
私は手紙を引っ張り出す。あいつらの事も思い出すために。
「お元気ですか?
どうして私達から逃げるの?
こんなにもあなたの事を愛しているのに。
あなたの事を受け入れてあげたのに。
目覚める事は地獄なの。眠る事は救済なの。
戻ってきて。ここはもう安全だから。
また皆で一緒に夕焼けでも見ながら花火しよう。
黄昏街より あなたに愛を込めて」
今度は街そのものか。いよいよ余裕が無くなってきてるな。
しかし、私の記憶が正しければ、彼女……由紀はあの街を消そうとしていたはずだ。そして、由紀に協力するために、私とあの子は動いた。
そう……そしてあの時、私は二度目の死を迎えた。
私がここにいる事を考えると、やはり私の能力が発動していたという事か……。
あの街には、特殊な能力を持っている奴が何人もいた。私もその一人だった。
不老不死。それが私の能力。決して終着することの無い人生。皮肉なもんだ。自ら飛び降りて死を選んだ私があの街に入って不老不死になるなんて。自分から終わりを選んだって言うのに……。
私は顔を上げる。
行こう。あの子が待ってる。一人ぼっちのあの子が待ってる。
私は神社に向かって手を合わせ、頭を下げると、敷地内から出た。
どこに向かおうか。あの子の家?行った事がないから分からない。あの子の学校?分からない。
私はとりあえず、町を歩く事にした。
町を歩いていると、見知った顔を見つけた。
「おい。久しぶり」
「…………あ、この前あった子だね。探してるものは見つかった?」
「探してるものは分かった。ただ、場所が分からない」
「んー…………お手伝い、しようか?」
「どうやって?」
「妖怪さんに頼むの。妖怪さんの中には探すの得意な子もいる」
思いもしない提案だった。
「じゃあ、頼もうかな」
「分かった。…………八重事代様、お願いします」
ああ……聞いたことのある名前だ。私が、あの街で親しくしていたあの子がそう名付けられていたな……。作られた、神。犬見花子。あいつもあの街から出られたのか。
「…………分かりました。ありがとうございます」
「何て?」
「君が持ってるお手紙。あれに書いたって」
私は急いで手紙をポケットから出す。すると、そこに書いてある文は明らかに私が知っているものと変わっていた。
「お久しぶりっス!
迷ってるんスよね?でも大丈夫っスよ!
海辺の方に向かって欲しいっス!そこに養護施設があると思うんで、そこに入ってください!
そこに探してる子がいる筈っスよ!応援してるっス!頑張ってください!!
犬見花子より」
やっぱりあの子だ。意図的に作られた神。八重事代と呼ばれた少女。そういえば、あの子の隣にいつもいたサキモリは大丈夫だろうか?
「答え、出てた?」
「うん。ありがとう。これでもう迷わなくて済む」
「…………八重事代様も喜んでる。嬉しいって言ってる」
「そっか……。ねえ、ちょっと八重事代様に聞きたいことが他にもあるんだけど、良いかな?」
「……いいって言ってる」
「あのさ、サキモリはどうなったの?」
「………………サキモリ?さんが逃がしてくれたって言ってる。八重事代様寂しそう……」
「そう、か……」
何となく想像通りだった。まあ、あいつならそうするよな……。
「分かったよ。ありがとう。私はそろそろ行くよ」
「待って。その前に名前、教えて?」
「私は……黄泉川縁。君は?」
「奈々……御七夜奈々って言うの」
「ナナか。良い名前だね」
「ユカリも良い名前」
「……じゃあ、ね」
「うん。探し物見つかるといいね」
私はナナと別れ、町を歩いていった。向かうべき場所へ向かって……。