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黄昏からの目覚め  作者: 鯉々
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第3話:黄昏への誘い

 町をぶらぶらと歩いていると、幼稚園生と思しき子供達を見つけた。皆母親に連れられ、どこかへ向かっていた。

 私は幼稚園を目指し、後を追った。


 辿り着いた先は確かに幼稚園だった。だが、門の所にある幼稚園の名前が見えない。まるでそこだけもやが掛かっている様だった。

 私は幼稚園の門をよじ登ると、園内へ侵入した。

 最初はばれないかとドキドキしていたが、他の人間には私が見えていないという事に気付いた。

 何故見えてないのだろうか?さっきから不思議な現象が続いているし、もしかしたらここは現実じゃない可能性もある。まさか私が幽霊ということはあるまい。


 園内では教室で子供達が絵を描いていた。私は中に入り、私の絵を見てみることにした。

 まあ酷いものだ。本人は猫でも描きたかったのかもしれないが、こんなに色んなクレヨンを使ったら何の動物か分かるわけない。それでも、先生は私の絵を回収すると他の皆の絵と一緒に飾ってくれていた。感謝しろよ、私。

「可愛い絵ね」

 またタカマガハラが急に出てきた。こいつのせいで心臓が止まって死にそうだ……。

「どこが可愛い絵?嫌味で言ってんの?」

「違うわよ。本心で言ってる。人が一生懸命描いたものを馬鹿にしたりしないって」

「……どうだろうね。世の中にはそういう奴沢山いると思うけど」

「素直じゃないなぁ。ほら、見てみなよ」

 そう言うとタカマガハラは小さい私を指差した。

「何さ?」

「あんなに嬉しそうに笑ってるじゃない。先生に褒められたんだよ」

「お世辞でしょ。私、お世辞はあんまり好きじゃない」

「本心だよ。子供の方がお世辞とかに気付いちゃうもんだよ」

「だから先生は嘘をつかないと?」

「つく事もあるかもしれないけど、少なくともあなたを傷付ける様なことは言わないと思うよ」

「……どうだろうね。覚えてないから分かんないよ」

「あの笑顔が証拠じゃない」

 再び小さい私を指差す。

 小さい私は笑っていた。その口からは歯が覗いているが、何本か抜けているのが分かる。私は思わず噴出してしまった。

「あ、笑った」

「ちが……今のは、ふふっ……」

「ちゃんと笑えるじゃない。そっちの方が可愛いのに」

「ふふ……お世辞はいらないって、ふふふふ……」

 私は思ったよりもツボに嵌まってしまい、しばらくは笑いが止まらなかった。

 私が落ち着きを取り戻した頃にはタカマガハラの姿は見えなくなっていた。


 一通り幼稚園の中を見た私は再び門をよじ登り、外に出た。

 外はすっかり夕方になっており、外では子供を待つ父兄の姿が確認できた。

 私はポケットから手紙を取り出し、再び見てみた。すると、やはりというか、内容が変化していた。


「お元気ですか?

 どうして戻ってきてくれないんですか?

 由紀さんも他の皆さんも心配していますよ?

 この街は素晴らしい場所なのです。きっとあなたはその事を忘れてしまっているのですね?

 由紀さんから指令を授かりました。

 あなたを連れ戻します。

 逃がしません。

                          黄昏街住人 天願好子より 愛を込めて」


 また違う人間の名前だ。だが、それよりもこれは何だ?「逃がしません。」?どういうことだ?

 そう思っていると、私の周りにいた人間が一斉に消え、辺りは一瞬にして夜になっていた。

 嫌な予感がした。私の後ろから何かの気配がする。振り返る必要などない。

 私は一目散に逃げ出した。今回のは明らかに、私を狙ってきている!目的は不明だが、黄昏街とやらに連れ戻すつもりらしい。こんな事をする奴らだ、絶対にまともじゃない!

 

 私はとにかく逃げ続けていたが、どんどん追い詰められていた。

 走れば走るほど体力は奪われ、どんなに入り組んだ場所を走っても付いてくる。酷い時には先回りまでしてくる。あまりにも執念深すぎる。

 いよいよ袋地に追い詰められ、最早これまでかと思ったその時、突然眩い光と共に怪物の咆哮の様なものが聞こえた。


 目を開けると夕方に戻っており、目の前には着物を着たおかっぱ頭の少女が立っていた。その目は真っ直ぐ前を向いているものの視線が合わず、どこを見ているのか分からなかった。

「……大丈夫?」

「君は一体……」

「…………あなたと同じ所から来た。って言ってる」

「は……?誰が……?」

「妖怪さん」

 ああまたメンドクサイ人間だ。見えちゃってるタイプの子か。こういうの地味に怖いから止めて欲しい。

「あー、で?何してるの?」

「妖怪さん達はあの街に閉じ込められてた。皆言ってた。外に出たいって。だから、私がお手伝いして一緒に出てきた」

「あの街?もしかしてそれってこの街の事?」

 私はあの手紙を開き、目の前の少女に見せた。

「…………そうだ。って言ってる。でもその紙何か変。って言ってる」

 手紙を見てみると、確かにまた文面が変わっている様だった。


「お元気でででですか?

 指令を実行しま      エラー              エラー

 エラー              エラー        ##############

 [検閲済み]                 エラー

         エラー                        [削除済み]

 逃がさない逃がさない逃がさないニガサナイニガサナイニガサナイニガサナイにがさない

        にがさないにがさない  にがさないにがさない

  どこにいるの?         

                          黄昏街住人 天願好子より 愛を込めて」


 私はそのあまりのおぞましさに思わず、手紙から手を離す。何だこれ……異常すぎる……。

「どうしたの?」

「いや、どうしたのって、見れば分かるでしょ!?こんなの誰でもビビるよ!」

「……ごめん。私目が見えなくて、妖怪さんに見てもらってるの。でも妖怪さん、手紙の内容教えてくれない」

「そ、そう。見えないのか。悪かったね……キツイ言い方して」

「いいよ。何とも思ってないから」

 私は落とした手紙を拾い上げ、ポケットに入れた。

「いいの?それ危ないものじゃないの?」

「手紙で警告が来るだけマシだよ。急に来られたらホントに逃げられないし」

「……そう?」

「それより、君はどこ行くの?」

「あなたと同じ。失くしたものを探しに行くの。後、妖怪さんのお家探し」

「そう。じゃあ、気を付けなよ。君には妖怪さんとやらがいるから大丈夫だろうけど」

「うん。気を付ける。またね、ばいばい」

 そういうと彼女は夕焼けの町へと歩いていった。

 私は新しい私の記憶を探すため、私の家を探す事にした。

 そのために私は幼稚園に戻り、母さんと一緒に私が出てくるのを待つことにした。

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