第2話:日の下に生きる小さな私
夜を抜けた私は住宅街を歩いていた。
夜だった先程とは違い太陽が昇っており、町全体を照らしていた。
「この時間もか……」
私は夜にも感じていた違和感を覚えた。
辺りでは蝉が鳴いている。夏なのだ。夏だと言うのに、微塵たりとも暑くない。汗の一粒も出てこない。
住宅街を進んでいくと、途中で子連れの女性を見かけた。
子供は女性と手を繋ぎ、少し後ろに隠れるようにして歩いていた。
ここで私はあることに気付く。あの人はあの病室の様な所で見た女性ではないか?あの子供はその時抱えられていた赤ん坊ではないか?
私の推測に過ぎなかったが、付いて行かずにはいられなかった。
もし、もしも親子があの時の親子と同一人物なら、あの二人は私の母親と私自身という事になる。
私は二人を追って、公園へと入っていった。
「不思議だな……」
その公園は何故か懐かしい気持ちになる場所だった。砂場も、ブランコも、滑り台も全てが懐かしく感じる代物だった。
「懐かしい?」
私の後ろからタカマガハラが突然出てきた。心臓に悪すぎる……。
「……びっくりさせないでよ」
「ごめんごめん。で、どう?懐かしい?」
「ん、そうだね。何か懐かしいかな」
「そう。その気持ち忘れないで。絶対に捨てちゃ駄目よ?」
「私の記憶に関係してるから……?」
「それもあるけど、一人の人間として忘れちゃいけない感情だと思うの」
「……そうだね。確かに、大事かも」
タカマガハラはいつの間にか姿を消していた。やっぱりあいつは幽霊なんじゃなかろうか?
そんな事を考えながら、私は私と思しき子供を見る。
あまり表情が変わらない、無愛想な子だ。他にも子供がいるのに、その輪に入ろうともしない。一人で砂場で遊んでいる。一体何が楽しいのか分からない。砂を弄るのってそんなに楽しいか?
すると、そんな小さい私の下に子供が何人か寄ってきていた。一体何を話しているんだろうか。ここからではよく聞こえない。
近付いて声を聞こうと立ち上がると、突然公園が消え、私は住宅街の真ん中に立っていた。
まただ。せっかく近くで確認しようとしたのに……これじゃあ確認出来ない。
私は壁にもたれ掛かり、ポケットに手を突っ込んだ。もう一度あの手紙を確認したかったからだ。
私は手紙を取り出すと、開いて目を通した。すると意外な事に文面が変わっていた。
「お元気ですか?
今なにやってるの?皆心配してるんだけど?
別に怒ったりはしてないからさ。戻ってきなよ。
特別にあんたが見たがってた特製マジック見せてあげるからさ。
とにかく、待ってるから。
黄昏街住人 伏木直子より 愛を込めて」
何だ?何で文面が変わってるんだ?
私は他に入っていた可能性を考え、ポケットの中を探ったが、これ以外には入っている様子はなかった。気味が悪いな……。
捨ててしまいたい気持ちもあったが、手紙に書いてある「黄昏街」というのがどうにも気になる。前の手紙にも書かれていた名前だ。この感じだと、私はこの街に住んでいたのか?
もう一つ気になったのが送り主の名前だ。前回の手紙と変わっている。苗字も違うし、完全に別人だろう。ただ、何故揃いも揃って最後に「愛を込めて」なんて書くのか。こんなクサイ台詞、よく手紙に書けるな……。
私は手紙をポケットに突っ込むと、再び歩き始めた。
場所は分からないが、幼稚園とかを探してみようか。見た感じ、あの小さい私はその位だったな。
私は影を避けながら、町を彷徨い始めた。