第1話:輝かしい誕生
あらすじにもある様に、これは「黄昏に沈む」の正当な続編です。前作を読んでおられない方は、前作を読んでからこの作品を読む事を強く推奨します。
私は眩い光で目を覚ました。
辺りを見渡すと、木や草しか見えない。ここは、林?山だろうか……?足元には短くなった蝋燭が転がっている。
私は……一体誰だったのだろうか?名前、年齢、好きなもの。何も思い出せない。
ここで私は疑問に思った。さっき眩しいと感じた筈なのに、辺りは真っ暗だった。つまりは夜だ。さっきの光は一体どこからのものなんだろうか?
そうやって混乱している私の前に一人の人間が現れた。いや、人間と言ってもいいのだろうか?背中からは羽根が生え、頭の上には輪っかの様なものが浮かんでいた。まるで、子供が考える天使の様だ。
その人間は見たところ女性であり、いきなり話しかけてきた。
「やっと目覚めたのね」
「あの、いきなりで悪いんだけどさ、君、誰?」
「……覚えてないのも仕方ないのかもしれないわね。あなたも私も、あの街から来たんだから」
「いや……一人で納得されても困るな。質問に答えてよ」
「私は高天原愛子。あなたと同じ場所から来た者」
「タカマガハラ?変わった苗字だね」
「……そう?まあ、いいわ。あなた、何で自分がここに来たか分かる?正確には、何故戻ってこれたか分かる?」
「ん……だからさ、さっきから言ってる事の意味が分からないんだよ。何の事を言ってるのさ?」
「そう……忘れてるのね。じゃあ、答えは自分で見つけるしかない」
「は?ちょっと何、丸投げするの?」
「一つだけ忠告。夜はいつでもあなたを攫いに来る。捕まらないようにね。二度目はないから」
そう言うとタカマガハラと名乗った女性は消えてしまった。一体なんだと言うんだ。私には訳が分からない。
イライラして思わずポケットに手を突っ込むと、中に一枚の紙が入っていた。
それを広げてみると、そこには文字が書いてあり、手紙になっていた。
「お元気ですか?
今どこにいるの?皆探しています。
あなたがいなくなったら、あの子に申し訳が立ちません。
この手紙を見たら、すぐに戻ってきてください。
皆が待っています。
黄昏街代表 木船 由紀より 愛を込めて」
何だ?黄昏街?聞いた事の無い街だ。それに木船?この人は私の知り合いなんだろうか?ということは、私の苗字は木船なのか?
私にはよく分からなかったが、じっとしていても仕方が無いので、とりあえず歩く事にした。いまいち、あのタカマガハラが言っていた事が引っ掛かるが、とにかく前に進むようにした。
ある程度進んでいくと、小さな地蔵があった。地蔵の側には綺麗な花が咲いており、薄汚れた地蔵を綺麗に彩っていた。
「……君は幸せものだな」
その様を見て思わず顔が緩む。この闇夜の中でも分かるくらいに綺麗で幻想的だった。
私は地蔵に背を向け、再び歩き始めた。
辺りでは虫が鳴いており、今の季節が夏だということが分かる。
ここで私は奇妙な事に気付いた。何故、暑くないのかということだ。
普通、夏と言うのは昼も夜も暑い筈だ。場合によっては涼しい事もあるだろうが、涼しさも感じないとはどういうことだろうか。
そんなことを考えていると、何者かの気配を感じた。この感じ人間ではない。しかし、野生動物かと言うとそんな感じもしない。この気配は何だ……?明確な形の様なものが感じられない。
私は身の危険を感じ、走り出した。
あの気配は危ない感じがする。それに私の頭にタカマガハラの言葉が思い起こされる。
『夜はいつでもあなたを攫いに来る』
まさか、これがあいつの言っていた事なのだろうか。
しばらく走っていると、先程までの気配はなくなり、また静かな夜に戻った。
私には何が起きているのか分からなかったが、道なりに進んでいくと、白い部屋、病室の様な物が見えた。
そこには夫婦と思われる男女がおり、女性の方は赤ん坊を抱えている。二人とも嬉しそうな笑顔をしている。
だが、その光景はあまりにもこの場所に似つかわしくなく、不気味であった。
突然、赤ん坊が泣き始める。すると、目の前にあった病室はそこにいた夫婦ごと、ボロボロに崩壊した。
あまりの出来事に驚愕していると、私の前にタカマガハラが再び現れた。
「今のは、一体……」
「今のは記憶。あなたが持ってる最初の記憶よ」
「私の……?じゃあ、あの赤ん坊は、私?」
「そう。あなたは望まれて産まれて来た子。両親の愛によって産まれた子。赤ちゃんは、皆望まれて産まれてくる。私はそう信じてる」
「何が、言いたいの……?」
「何があっても、あなたの味方は必ずいるってこと。だって、あなたは愛されてるんだから」
「ん……そう」
「少しは元気出た?」
「まあね。自分の記憶が無くて不安だったけど、ほんの少し元気出たよ」
「それは良かった。そろそろ夜が明けるから、もう一つ忠告をしておくわね。なるべく影や暗闇には近付かない事」
「……要は夜と同じって事だね?」
「そういうこと。それじゃあね」
そういうと、彼女は眩い光に包まれ姿を消した。
それと同時に、辺り一体が光り、気が付くと私は朝方と思われる時間帯の住宅街に立っていた。
どうすればいいのかはもう分かっていた。とにかく前へと進めばいいのだ。
私は力強く地面を踏みしめ、歩き始めた。