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第5話 女嫌いのわけ

「夕ご飯を作るつもりだ。何がいい?」

「あ、準備はしてあるんです。」

 さっき、直樹に電話したりしている時にキッチンへ入ってると思っていたら準備したらしかった。買ってきたものを上手に使って煮物におひたし、見事に和食になっていた。

「おばあちゃんとの暮らしが長かったもので…。すみません。アキには似合わないですね。」

 おばあちゃん…。そういやそんなことを直樹が言っていた。煮物に箸をつけようと手を伸ばすと、あの〜と声がした。

「なんだよ。」

「いただきますを…。」

 またか…と正直うんざりした顔をする。

「晩ご飯はまだしたことないです。」

 心を読んだような発言に大人の顔色ばかり伺って育った自分の幼少期と重ねてしまう。

「なんだよ。じゃ今回で終わりだな。」

「あの…。」

 まだ何か言いたそうな遥に少しイライラする。自分を、自分の嫌な頃を見せつけられているような気がして嫌な記憶が蘇る。

「毎日、毎食するのが憧れなんです。」

 すまなそうに言う遥にうんざりして、仕方なく手を合わせた。

「いただきます。」

「いただきます。」

 うんざりしているし、嫌な気分になっているのに、遥が望むことをすると自分も胸が温かくなる。変な気分になって、黙々と食べ進めた。

「あの…。」

「まだ何かあるのか?」

 遥の態度にイライラする。女だからじゃない。女への嫌な気持ちとは違うものだった。やはり自分の過去を見させられる感覚だ。

「いつも食べ方も立ち振る舞いも綺麗だなって…。」

 ガタン。急に立ち上がった晶に遥は目を見開いて晶を見る。

「俺に綺麗だとか可愛いだとか、女を形容する言葉を使うな!」

 晶は乱暴にそう言うと部屋へ行ってしまった。


 晶はベッドに体を預けると天井を仰いだ。脳裏にショックを受けた遥の顔が浮かぶ。

 クソッ。晶はベッドをたたくと起き上がってダイニングへ戻った。バツが悪そうに顔に手をあてながら話す。

「悪い…。あんなのただの八つ当たりだ。」

 怯えた瞳が晶をとらえた。ここに来てから全然そんな素振りを見せないから忘れてたが、男性恐怖症のやつに怒鳴るとか何やってんだか。

 女は嫌いだが、取り乱したことなんてなかった。ただ冷淡に無視するか、ただ仕事を進めるかだった。

 さきほど立ち上がった席にもう一度座ると素直に非を認めた。

「悪い。怒鳴って悪かった。…こんなの言い訳なんだが、俺の母親の話をしていいか?」

 コクンとうなずいた遥を確認してから話し始めた。

「俺の母親を語るには、どうしようもない父親から話さないといけない。」

 こんな話、酒に飲まれてうっかり直樹に話しちまったくらいで、他で話したことなんてなかった。

「父親は最低なヤローさ。外に女を作ったんだ。その女とも会ったことはある。いやらしい卑しい女さ。気持ち悪い視線が体じゅうを這うような感じがして吐き気がした。」

 嫌な気持ちを思い出して、気持ちを整えるようにふぅーっと深く息を吐いた。

「それで母親は父親を許せなかった。たぶんその許せない気持ちが俺に向かったんだな。俺は…女として育てられたんだ。」

「え…。」

 ビックリした顔をする遥にハハッと嘲笑した。

「笑っちゃうだろ?子どもの頃はチビで痩せててな。髪を伸ばしてれば完全に女さ。それを毎日可愛い可愛いってな。腐ったババアだろ?」

 つらそうな顔が一段と歪んで続きを話した。

「で、この通りの声変わりで捨てられたのさ。」

 そう女とは思えないこの声で。なのにこいつはこの声でさえ男に思えないという。それを昔なら喜べたかもしれないが、今は嫌悪感を感じるだけだ。

「だから俺のことを綺麗だとか言われるのは、ちょっと…。いや。それでも怒鳴ったのは悪かった。」

 静かに聞いていた遥が口を開いた。

「私は…。隣のお兄ちゃんにイタズラされたんです。」

「は?」

 突然の告白に言葉を失う。

「な、何された。」

 しばらく返事がない遥からハァーハッハァーと激しい息づかいが始まった。ハッとして袋を持って急ぐ。

 何やってんだ。もろに二次被害だろ。今の質問。一番聞いちゃいけない質問だ。

「大丈夫か?悪かった。思い出させて。何も考えるな。ゆっくり息を吐くんだ。俺の呼吸に合わせろ。細くでいいから吐くんだ。」

「ゆっくり、ゆっくり」との低い声と背中をさする大きな手は不思議と遥の心を落ち着かせた。

 なんとか袋を外せるまでの呼吸になって、さすっていた手を離す。

「わりーな。触ると蕁麻疹でるよな。」

 晶に言われて、ふと遥も思い出して不思議に思った。晶とのことで何も変化がなかった。

「アキなら、私、大丈夫…です。」

 遥の言葉に晶は胸がギュッとつかまれた感じがした。

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