むかしむかしあるところにおじいさんがいました
昔々あるところにおじいさんがいました。
このおじいさんは力も衰え、貧乏でしたがひとつ自慢がありました。それは驚異の俊足でした。それはかつて天下一競走会でぶっちぎりの一位を獲得し、賞金でうはうは、女の子にちやほやされたほどでした。
しかしこのごろはかつての栄光は何処へやら歯も抜け髪も抜け、若い者達にカツアゲされて泣かされることもあります。
妻にも先立たれ子供は独り立ちしたっきり帰ってこない。誰にも敬われなくなったおじいさんはこのままでは孤独死から白骨死体として発見のコンボは免れまいと一念発起、今年の天下一競走会に参加することにしました。
試しに近所を一回り走ってやろうと出かけたら、十歩も走らないうちに若い者達に追いかけられカツアゲにあいました。ところがおじいさん貧乏なうえ買い物に行くわけでもなかったため所持金はなし。脅されど跳べどチャリンの音一つも出せません。
若い者達が呆れてなにをしに出かけているのか尋ねたためおじいさんは天下一競走に出て勝つしかないのだというと、若い者達はひとしきり笑ったあと三人がそれぞれ一人百円ずつくれました。
おじいさんが若い者達の応援がありがたくて涙を少しこぼしこぼし走る練習を続けていると。だんだん喉が渇いてきて、ちょっと川で喉を潤していこうと思いました。
川の前までたどり着き、さて水を飲もうと川を覗き込むとドーン。
川から突然巨大な蛇が現れ、この水は特別だからただじゃやれないとおじいさんに迫りました。
仕方がないので全所持金三百円を出すと呆れて蛇は川の中に消えました。
おじいさんが水を飲むととても美味しく、しわが薄くなり身体中のはだがみずみずしくなったように感じました、もう一口飲むと髪の毛が生え、もう一口飲むとふたたび歯が生えました。
おじいさんはガブガブ水を飲み、喉が潤うと去り際に川におしっこをしてからまた走って家に帰りました。その時のおじいさんの走りの早いこと一瞬で帰り着いたかと思うほどのスピード帰宅でした。
おじいさんは天下一競走会はぶっちぎりました。
出場した若い者達に粘着してさんざん嫌がらせを働いても余裕で優勝するほどでした。
おじいさんはまた元気になった足腰のおかげで賞金でうはうは、女の子にちやほやされましたとさ。