余白 その8
退学届を提出し、教室に現れた舞は、少しやせて少し大人びた顔をしていた。
一線を引いたクラスメイトたちの好奇の視線にもひるむことなく、ロッカーの荷物を淡々とかばんに詰め込んでいる。
舞の手から、膨らんだそのかばんをひょいっと奪うと、拓巳は廊下を歩き出した。
「……サンキュ」
舞は微笑んで、後に続いた。
「横浜の方にね、依存症治療専門の病院があって、そこにママ、入院することになったの」
校庭の端を歩きながら、ポツリポツリと舞は話した。
「許すの?」
「ママのこと? もちろん! だってママがあんな風になったのは、クスリのせいだし。ちゃんと治るまで、あたししっかり支えてあげるんだ」
「そっか……」
がんばれよ、と拓巳が言おうとした時。
「舞姉ちゃーん!」
パタパタと軽い足音とともに駆けてきた正志が、拓巳の手から荷物を奪い取った。
「ぼくが運ぶ!」
「正志、それ重いよ、教科書入ってるから!」
「大丈夫大丈夫!」
力んで言い、校門に向かってよたよたと走っていく。その先には、由紀奈が「舞ちゃん早く!」と手を振っている。
「あぁあぁもう、転びそう。どんくさいなぁ」
呆れながら、しかしその口元はうれしそうに綻んでいた。
「りんご園に戻るの?」
拓巳が聞くと、舞はきっぱりと首を振った。
「ママの治療費とか生活費とか、お金結構かかるし、働こうと思って。あの人のお店で」
正志から荷物を受け取って車に積み込んだ男性を、舞は指した。
「桂木英輔さんていうの。ママの恋人。ママは、クスリのせいでなんか勘違いしちゃってたみたいだけど、英輔おじさんはね、ほんとにママのことが大好きなの。今回も弁護士さんとか病院とか、全部調べてくれて。ママがよくなって退院したら、わたしたち家族になって、今度こそ一緒に暮らすんだ!」
有無を言わせぬ明るい笑顔に拓巳は口をつぐみ、「そんなにうまくいくかな」というつぶやきを、口の中で苦く溶かした。
「いろいろありがとね、新条。元気でね」
小さくなっていく車を、拓巳はいつまでも見送っていた。




