怒鳴るオーナー。
「くどい!何度、同じ事を言わせるんだ!!」
オーナーの声でしょうか。
食堂から出て、部屋へ戻ろうとしていたところに、激昂した怒鳴り声が、キッチンの奥から聞こえてきた。
食堂の隣にキッチンは、ある。
食堂は扉で区切られているが、キッチンは扉がなく、長めの暖簾で目隠ししているのみだった。
そのため、中のやりとりがストレートに聞こえてしまっていた。
オーナーは、ズカズカと怒った足取りでキッチンから出て、更に奥にあるスタッフルームに入って行った。
と、唖然と眺めていると、キッチンから出て来たサブオーナーと目が合ってしまった。
う。き・・・気まずいです。
ついでに、酔っ払って凭れかかってくるキイチさん、邪魔です。重いです。
「大変、失礼しました。お客様に大変お恥ずかしい所を・・・。」
サブオーナーの優しそうな顔は、今は困った、というように眉をハの字にしていた。
「ちょっと、怒りっぽくて。ああ、お客様に対しては、紳士な奴ですから。」
思わず出てしまった愚痴を、無理やりフォローした感じだ。
「はあ・・。」
僕は、曖昧な返事になってしまった。
なんとなく気まずくて視線を彷徨わせると、談話スペースの大きな柱時計が目に入った。
ちょうど九時半を指すために、長針が動いた所だった。
ボーン。
レトロな音が、動き出す切っ掛けをくれる。
「あ、ぼ・・僕たち、部屋に戻ります。ご馳走様でした。」
僕は重たすぎるキイチさんを、どうにか引っ張って部屋まで帰ったのだ。
キイチさん、重すぎです。僕、限界です。
キイチさんは、フラフラとベットまで行くと、パタリと倒れこんでしまった。
「ちょっと、キイチさん、もう寝ちゃうんですか!?」
何を言っても、うーだのあーだのしか帰ってこない。
キイチさんのバカーーーーー。
・・・・・。
「眠れません。」
僕は、身体をむっくりと起こして、隣のベットを見る。
ついでに見た時計は、十二時を回ろうとしているところだった。
「キイチさん・・・。うるさいです。息を止めてください。」
ガーガーと気持ち良さそうに爆睡するキイチを恨めしげに見遣る。
フガッ・・・ガー。
腹いせに鼻をつまんでみるが、一向に起きる気配がない。
なんなんですか、もう。
それにしても、ちょっと暑いです。
出てきた汗を手で拭って、空調機のリモコンを探す。
各部屋での温度設定は、出来なかったため、空調を弱めた。
「あ〜ノドが渇きました。あ、さっきお茶を全部飲んじゃったんだ。」
テーブルの上に放置された空のペットボトルを見つめながら、一人でブツブツと呟く。
「聴こえてないと思いますけど、キイチさん?下の談話スペースの自販機でジュース買ってきますね。」
ンガー。
それに返事でもするかのように、一際大きな鼾を掻いた。




