温泉でビリビリ。
「あつっ、あ・・・熱いです!!!」
僕<条島要>の叫びを聞いて、キイチさん<西城輝一郎>は呆れた声を出した。
「アホ。掛け湯もしないで、いきなり入るやつがあるか。」
だって、寒かったんですもん。
外ですよ?冬ですよ?
素っ裸でお外に居たら、僕、凍っちゃいますよ。
キイチさんみたいに、立派な筋肉がついた身体なら平気かもしれないですけどね!
と、ブツブツ言いながら、近場にあった風呂桶で湯を掬って、足元から掛けた。
「あうーーー。ビリビリします。」
モタモタと、掛け湯をしている僕の横からキイチさんは、さっさと露天風呂に浸かってタオルを頭に乗せてはふーと息を漏らす。
「ああ〜。これで、酒ありゃ最高だな。」
ダメですよ。キイチさん、お酒にメッキリ弱いんですから。
「嫌々だったくせに、キイチさんだって楽しんでるじゃないですか。」
またも無理やり嫌がる(面倒だから)キイチさんを引っ張ってきた、秘湯がウリのペンションだ。
今回は、迷子になってないですよ?
ちゃーんと、(事務所で)調べたし、地図も(経費で)買いましたから!!
方位磁針まで用意しました!でも、最寄りの駅までペンションからお迎えが来てたんですけどね。
「秘湯の温泉、旨いメシ。これで行き帰りが面倒がなきゃ、言う事ないんだが。」
って、キイチさん新幹線の中で寝てただけじゃないですか。
露天風呂の後は、お楽しみの夕御飯タイム。
「キイチさん、ここの夕食も人気なんですよ!!」
このペンションのサブオーナーが料理を作っているのだが、これが美味しいと評判なのだ。
ちなみに、本日のメニューは以下。
鯛と香草のマリネ、魚介の香草焼き、鶏肉のソテー、ミネストローネにパンかライスを選ぶ。
これに、食後のデザートが付く。
キイチさんは、料理を食べると、ちょっと眉を顰めて水を飲んだ。
「カナメ、水。」
「もう。そんなに水ばっか、ガバガバ飲まないで下さいよ。」
料理を食べながら、キイチさんは水をガバガバと飲んでいた。
「頭もアホなら、舌もアホか。」
ひ、ヒドイです、キイチさん。
「何言ってるんですか、とっても美味しいじゃないですか。」
「ウマかない訳じゃないさ。あっちのカップルも見てみろ。テーブルにある水差しが、もう空だぞ。」
現在、食堂には僕とキイチさん、それからまだ若いカップルが一組いるだけだった。
食堂は、四人席のテーブルが四組あるのだが、使われているのが二つ、そして、テーブルセッティングしてある席が一つ。
セッティグしてある席に、人の姿は無かった。
一人で来る人もいるんですね。僕だったら、淋しくて無理です。
一人分のセッティングを見て、そう思った。
と、そこへサブオーナーが、デザートとワインの乗ったワゴンを押してながら現れた。
「失礼します。デザートをお持ちしました。
それと、本日は特別にワインを一杯ずつですが、サービスさせていただきます。」
といいながら、デザートとワインを配膳する。
食べ終えた食器は、勿論、下げている。
「サービスですって。キイチさん。でも、僕飲めません・・・残念です。」
そうなんです。僕はお酒が飲めないんです。
あのアルコールの味が苦手です。
キイチさんはというと、弱いくせにお酒好き。という、厄介なタチ。
あ、ほら、キイチさん、目が輝いてますよ?




