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パートナー ~竜使いと竜殺し~  作者: MK
第三章 貴族からの刺客
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4-5 決着⑤ 幕切れ

一個前の決着④を改稿しました。

よろしければ、そちらからご覧ください。









 決着はすぐそこ。


 それがここにいる全員の総意であることは、朦朧としている歩の頭でも理解していた。


 ちらり、と一瞬だけ背中のほうに視線をやると、ゲル状の塊が地面に転がっているのが見えた。


 それがイレイネか、大規模な雨の後、人を切り裂ける刃をもった巨大な錐を作ったのだ、力尽きるのも当然か、と思考を済ませ、目前にみゆきに視線を戻す。


 一対一。ここにきて、アーサーが入ってくることもない。


 そう確認するように、視線を交じあわせる。


 みゆきの顔には笑みが張り付いている。

歩がずっと見てきた気取った笑みではない。

幼竜殺しとの一戦で見せたような、堅苦しいものを全て脱ぎ捨てた笑みに、何かとちくるったものを付けた笑みだ。


 結局、みゆきも馬鹿だったのか、と思いつつ、棍を握りしめる。

 もう一つの相棒。本来の穂先はないことに慣れ、槍であることを忘れたかのような得物。

 アーサーみたいだな、と思いつつ、それを両手で握り、構える。

 背中を伝う熱い液体が、痛みを伴って流れているが、もう少しと無視した。


 みゆきも剣を構えた。少し右手が下がっている。歩の一撃で力が入らない、実質左手一本。

 一瞬それで自分と撃ち合えるのか、と思ったが、肩と背中の痛みに現実を思い出し、徒労だったと思いなおした。


 今の自分なら、アーサーにも負けそうだ。


 どちらか、と言う感じもなく、足を踏み出す。


 ざっざっざ、という音。

 振動と筋肉の動きに、肩と背中は悲鳴を上げる。

 足の動きは鈍い。気を付けなければ、つま先をつっかけて転んでしまいそうだ。

 軽く動かした腕はそれ以上に鈍く、棍を振り被ったらすっぽぬけそう。


 みゆきと目があう。

 同じだ。走るだけでも億劫そう。

 そうか、己から一歩先んじたほうが勝ちか、と思うと、嫌なことが全て吹き飛んだ。


 始めは小さな音。


「ぅぉぉ」


 唸るように。舌の奥底の部分が細かく振動しただけ。


「うおお」


 次は喉を動かす。吐く息に、音を少しだけ混ぜ込むように。

 続いて、息を吸い込む。これが最後と、次は吐き出すのみと。

 そして、叫ぶ。


「うぉぉぉぉおおおおおおお!!!!!」

「はああああ!!!」


 少し高いみゆきの怒号と交わる。

 剣を振り被るみゆきに対し、歩も同じように棍を動かす。


 音はない。痛みもどこかへ消え失せた。雑音ばかりだった身体からは、力の確かな流動が聞こえ、全てがクリアになる。


 澄みきった水のような、透き通った瞬間。


 みゆきの顔には笑み。おそらく自分の顔にも。

 全てがクリアな中、澄んだ感情だけが残る。言葉にならない、するのが億劫な感情。


 今はどうでもいい。ただ身体を動かせ。


 振り下ろす。


「歩!」


 そこにアーサーの声が響いた。


 視線だけで音の方を見ると、すぐそばに悪魔使いがいた。

 目は血走っている。自分達とは別の狂気がのぞいた。

相手をめちゃくちゃにしたい、それだけを凝縮したような、暗い喜びの光。


 棍は止まらない。身体はそのためだけに終始していた。いきなり止まれない。

 いや、それも散漫になってしまった。とまれ、そう一瞬思った自分の反射が、ただ動きを鈍くするだけの結果をもたらしている。


 みゆきの剣と交わる。渾身のはずだった一撃は意外と澄んだ音を立て、両者すぐに跳ね返った。みゆきも驚いていたようだ。


 剣と棍、双方とも手から離れ、砂地にざっと落ちた。


 目の前のみゆきとばんと衝突し、二人とも跳ね返った。

身体が現実に戻り、衝突した痛み以上のものが、肩と背中で鳴り響く。

なんとか悪魔使いを避けないと、という思いはあった。

だがそれも思いだけで終わり、身体には伝わらなかった。

なんとか立っているだけ、今にも倒れそう、それが今の限界だった。


 剣が見えた。悪魔使いの渾身の横薙ぎ。横から背中を狙った一撃。


 避けられない。


 触れる。やられる。


 そう思ったとき、悪魔使いが消えた。

 消えたとしか思えない速度で、跳ね飛ばされた。


 数瞬遅れて眼で追うと、地面に描かれた溝の先に、悪魔使いの身体があった。


 動かない、動けないのがわかった。全身を投げ出した姿に、意思は見えない。


 その横に、ばさりと大きな影が降り立った。

 リズとリンドヴルムだ。巨竜と、その背に乗った女騎士。

 リズが下りた。抱えるように持った大剣を地面に突き刺し、腰に差していた、剣を抜く。


 剣を片手に構えた態勢で、悪魔使いの身体を転がした。

 歩から顔は見えなかったが、全く動かない悪魔使いの姿に、気絶しているのは明白だった。


 歓声が鳴り響く。同時に起こる試合終了のコール。


 振り返ってみたみゆきの顔には、仕方がないなあ、という諦めまじりの笑みがあった。

 歩はその場に座り込んだ。


 なんて呆気ない幕切れ。せつないなあ、と思いつつ、気を抜いた瞬間、顔が砂まみれになり、あ、倒れちゃったと言う間もなく意識が飛んだ。


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