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パートナー ~竜使いと竜殺し~  作者: MK
第三章 貴族からの刺客
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4-1 決着① はじまり









 決勝の組み合わせは敬悟、みゆき組対歩、リズ組になった。

 かたや華麗な戦いを見せ、竜使いをも破った英雄。

かたや竜使いながら、人メインと竜騎士という一風変わった竜使い。

否が応でも盛り上がる展開だ。

実際、観客の盛り上がりは相当らしく、観客席に移った唯と慎一は席を探すのに苦労したようだ。


「ま、そういうことで、席の確保で動けない慎一の分も負って、私だけ来たんだけど、みんな頑張ってね」

「おう」


 歩は軽い笑みを浮かべて答えた。

既に準備は万端で、ベンチに深く腰掛けて待つ態勢だったが、どこか身体が昂っている。

 なんとなく落ち着かず、棍を両手でころころと転がしている。


「任せよ。竜使いの威厳を見せつけてやろうではないか」


そんなパートナーを尻目に、アーサーはいつも通りだ。

ベンチにちょこんと座っている。

饒舌なのもいつも通り、隣で大剣に切れ味防止用の黒い布を巻いている、リズに話しかけた。


「相手は知り合いといえど、今は戦のとき。存分に戦おうぞ、なあリズ」

「うん、任せて」


 リズはそう毅然と答えた。先程歩に断られた様子はなく、いつも通りに見える。

 それは歩に遅れて控室に戻ってきたときも同じで、唯と慎一に軽く問い詰められても困った顔で、後で、と答える様子に、ふられた様子は見られなかった。


 だが流石の歩も、ショックを隠して強がっているだけだということはわかっている。

 リズが強いから耐えられているということも、そう仕向けたのは自分であるということも。

 そして、自分にできることは、もう何もないということも。


 視線を戻すと、どこかリズの顔を覗う唯が見えた。

 やはり何かあったと勘付いている。

その視線が時折自分に向いていることからも、何か、も察していることもわかる。

 歩は唯と目を合わせられなかった。


 結局、唯は何も言わず、出て行った。


 控室に残されたのは、ベンチに腰掛けた歩とアーサー、そして準備をしているリズとリンドヴルム。


 歩はなんとなく周りを見回した。

 少し蒸す位だった熱気は消え失せ、殺風景な部屋の端には弁当や紙くずが転がるだけになっている。

 祭りの後、と言った感じで、自分にねばついた視線を向けていた人達さえも、懐かしくなってきた。


「歩」


 リズの声に、歩は身体がびくっとなってしまった。


「な、なに」

「それぞれの相手、どうする?」


 実務的な内容で、どこかほっとした。

 だがどこか慌てて返す。


「えっと――精霊使いと悪魔使いか。相手の動き次第だけど、リズはどっちがいい?」

「どっちでもいいよ。コンビ組んでくる可能性もあるけど」

「……それはないんじゃない? ビンタしてたらしいし」


 それにもうみゆきは敬悟と組まないんじゃないか、と思ったが、それは言わなかった。

 ただすれ違い間際の、みゆきの何かを決めたような目を思い出した。


「俺が精霊使い、悪魔使い、お願いしていい?」

「わかった」


 そう言うと、リズは立ち上がった。準備ができたようだ。

 丁度よく呼び出しも入り、無言のまま歩達は廊下を進みはじめた。


 控室と同じく、廊下はがらんとした殺風景な空間になっていた。

道中には他の選手は残滓もない。どこか酸っぱい空気だけが、ここに戦士達がいたことを証明している。


リズが先頭にすたすたと、続いてリンドヴルムが同じくすたすた、しかし巨体故に地面を揺らすようにしながら、そして最後にアーサーを肩に乗せた歩が進んでいく。


リズの背中を見る。毅然としたその姿は、なんだか妙に小さく見えた。

そう仕向けたのは自分。仕方のない結果かもしれないが、しかし目の前の人は自分のせいで傷ついている。

そう思ったとき、反射的に名前を呼んでしまった。


「リズ」

「何?」


 返答に、しかし何も言えなくなった。

 言葉を探している内に、会場に直接繋がる廊下についてしまった。

そこにいたスタッフらしき若い男性は、歩達がつくなり、丁度です、すぐに始まります、ご入場ください、と言った。


歩は従い、石畳に変わった廊下に足を踏み入れる。


「歩」


 思いのほか、その声はやわらかなものだった。

 面食らってしまうと同時に、どこかほっとし、そのことがどうしようもなく恨めしかった。


「私、しっかり戦うから、歩も頑張って」

「おう」


 そうとしか返せなかった。


 序々に歓声と光が強くなっていく。

 会場の熱狂ぶりがわかる。唯、キヨモリとの一戦を思い出した。

 あのときは挑戦者だった。しかし今回は違う。

 おそらく、どちらが挑戦者でも王者でもない、純粋な戦いになる。


「歩、決着をつけよ」


 アーサーの声を背に、会場に踏み入った。


 歓声。野太いものも黄色いものも混じり、なんとも言い難い腹に響く怒声だ。

 天気は快晴、太陽が眩しいほどに照りつけ、足元の砂地をきらめかせている。


 周りを見回すと、悠然とたたずむキヨモリの巨体が見えた。

円形の観客席の一番前に陣取っている。

竜だからか、関係者だからか、誰かが譲ってくれたのだろう好位置だ。

隣には見るからにテンションの高い慎一、少し抑えて唯、はっはと舌を出しているマオ、そして何故か母親の類の姿もあった。

明日行けるかも、と書き置きがあったが、本当に来たようだ。

自信に溢れた顔で、慎一と同じくはしゃぐ母親の様子に、なんだか恥ずかしくなってきた。


 それから視線を会場をなぞるように進め、正面に向く。


 みゆき、イレイネ。いつも通りの姿。視線はきりっと自分に。少し微笑している。

 その隣に悪魔使いの敬悟。観客に向かって手を振っている。

先程の形相は面影もなく、ヒーローと呼ばれた顔のままだった。

しかし歩には本当にどうでもよくなったが。

二人が人三人分位離れて立っているのも、確信になった。


 審判が来て、確認事項。観客の歓声に、大声になっていた。

 それからアーサーと、リズを乗せたリンドヴルムが飛び上がる。

 みゆきの背中に張り付いていたイレイネが離れ、宙に浮き、悪魔型も軽く浮かび上がった。


 コールが入る。


「では、決勝戦! 始め!」


 決着をつけよう。


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