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パートナー ~竜使いと竜殺し~  作者: MK
第一章 幼竜殺し
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1-i キメラ




 ×××は目を覚ました。

 目に入ってきたのは白一色の天井。壁紙は勿論のこと、純白の蛍光兎のものを使ったのか、ライトさえも混じり気のない白だった。


 ここはどこ。そもそもなにがどうなってるのか。


 周囲を見渡そうと手をついて起き上ると、ひどいめまいがした。ふらつく身体の様子を見ながら身体を起こし、ゆっくりと周囲を覗ってみる。

 

 天井以外も白一色で、何もない。軽く身体を動かせる位の広さがあるが、置いてあるものはいま自分が寝ているベッドと、籠。そこでベッドの隣に小さめの籠があることに気付いた。

 中を覗き込んで見ると、見慣れない姿が目に入ってきた。


「キメラ?」


 口に出して思いだした。意識を失う直前に見た、自分のパートナーだ。暇だ、といった感じであくびをしている。その姿に他のパートナーを捕食して強くなる化物の面影はない。


 じっと眺めていると序々に思い出してきた。

 ○○○と十二歳の誕生日を迎え、自分の卵からキメラが生まれた。それがショックで茫然としていたところ、見知らぬおじさんに眠らされたのだ。

 

 なんであんなことをしたのか。キメラだからか。それでも何故自分が。

 意識がはっきりしてくると、疑問ばかりが浮かび始め、同時に不安と焦燥が増していく。


「起きたね?」


 おじさんの声が部屋に響いた。肉声ではない、マイクを通したひび割れた声だ。

 ×××は反射的に抱いた疑問をぶつけ始めた。


「あの、どういうことですか? ここはどこですか? なんでここに連れてこられたんですか?」

「×××君、君のパートナーは何かわかっているかね?」


 自分の質問は無視されてしまったが、答えるしかない。


「キメラ、ですか?」

「その通り。君はキメラ使いになったわけだ。だからここにいる」

「それがどうして?」

「君は、キメラ使いと会ったことはこれまであったかね? 話を聞いたり、ラジオや新聞で見たことでもいい。キメラ使いの実在を聞いたことはあるかね?」


 都市伝説としてはよく聞くが、実際に目にした話を聞いた覚えはない。


「ないです」

「それは、キメラ使いは生まれてすぐに隔離されるからだ。いまの君のように」


 意味がわからない。人権やら法律やらがまるで考慮されていない。


「それって違法じゃないんですか?」

「そうだね。でも、実際は起こっていることだよ」


 そこでいきなり声音が変わった。ねっとりした猫撫で声に、怖気が走った。


「しかし私は大変かわいそうに思っている。同情している。だから君にプレゼントを上げよう」

「チャンス?」


 突然、ガコ、という音がした。音の方を向くと、真っ白な壁の一部分がずれている。隠し扉になっているようで、そこから○○○が乗っているベッドと似たようなものが押されてくる。上にはシーツがかけられており、中央がこんもりと盛り上がっていた。

 それを運んできた真っ白い服を着た人は、すぐに元の戸に戻って行った。再びただの壁に戻ってから、自分が逃亡の機を失ったことに気付いた。


「×××君、中身を見たまえ」


 従うしかなく、ベッドから降りたって運ばれてきたものに近付いた。なにか勘づいたのか、キメラも隣によってきた。

 シーツに手をかけられる位まで近寄ると、一気に生臭い匂いが鼻に入ってきた。それになにか息使いのようなものが聞こえてくる。それらの発生源は、シーツの中のように思えた。


「どうした? 早くしたまえ」


 覚悟を決めて、勢いよくシーツをはぎ取った。

 息を呑んだ。反射的に後ずさった。


 そこにあったのは、全身ぼろぼろの狼だった。

 身を横たえ、口から血を流し、腹からは何か黒い物が覗いている。ベッドの上は一面血の海なのだが、更に地面にもぽたぽたとこぼれ落ちはじめた。


 瀕死の狼の目を見ると、敵意が伝わってきたが、身体を動かす気力もないらしく、ただこちらを睨むだけだ。

 全く展開についていけずただ茫然としていると、おじさんの声が聞こえてきた。


「さあ、そいつを食べたまえ」


 意味がわからない。食べる? 何を?

 ×××が戸惑っていると、ベッドの上になにかが乗っかった。キメラだ。その姿に先程までののんきさはなく完全に『キメラ』になっている。大きさこそ小さいものの、目は鈍く光り、牙をひんむいており、獰猛な肉食獣と化していた。


 キメラが狼のはらわたに突っ込んだ。

 狼は最後の力を振り絞り、精一杯の慟哭を吠えたが、まるで意味がない。全身に血を浴びながら、首元まで狼の腹の中に埋まっている。

 キメラが嚥下する音が聞こえはじめた。ごくんごくんという音が、×××の頭に響く。耳からではない、奇妙な感じがした。


 それを聞いていると、×××も変な感覚が強くなっていく。すこし熱っぽくなったのか、頭がぼうっとしていく。感覚だけが鋭くなっていく。濃厚な匂いが鼻腔をくすぐり、狼の荒い息使いと飲みこむ音が脳内で木霊する。全身の肌が鳥肌を覚え、口の中は唾液で満ちていく。唾液は次から次へと湧き、溢れだしそうになり、こらえきれずに一度ごくり、と呑みこんだ。


 おじさんの声が再び木霊した。


「どうした? 君も食べないのか?」


 驚愕の言葉だ。人に生のパートナーを食べろというありえない言葉。

 だがなぜか腑に落ちる。先程まで気味が悪かった目の前の狼が、ごちそうにしか見えない。


「人はパートナーの影響を受ける。ならばキメラの食欲もまた人に影響を与えて当然なのだ。もう一度言おう。食べないのかい?」


 一歩近寄った。

 狼の半死体を見る。まだ息があるのか、それとももう死んだのか。

 どちらにしろ関係ない。


 手を伸ばし、狼の瞳を抉る。

 ぐりゅりと音がして、目玉と赤い紐のようなものが持ち上がった。

 

 それを口に含む。

 キメラがどういう存在か、ようやくわかった。

 ×××は、ただ本能に従った。


とりあえずここまでで毎日投稿は終わりです。

次からは水土の週二更新でいきます。

よかったらどうぞ。


とか思ってましたが、変更。まだ毎日行きます。

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