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パートナー ~竜使いと竜殺し~  作者: MK
第三章 貴族からの刺客
78/112

2-4 不器用









 屋上に出て見えたのは後ろ姿だったが、歩はそれが誰か一目でわかった。

 黒絹のような長髪に、すらりとした肢体。

 ストッキングに包まれた細すぎない足がスカートから伸び、なだらかな曲線を描いて茶色の靴に納まっている。

 殺風景な屋上には不釣り合いだと思わせる凛とした姿。


「みゆき」


 思わず声をかけると、黒髪がくるりと翻り、驚いた様子のみゆきの顔が見えた。

 少し疲れているのか、頬の色が薄く、目元には微かな影がある。


「どうしてここに?」


 歩の問いに答えようとしてか、みゆきの口は一度ぱっと開かれたが、途中で止まり、ゆっくりと閉じられた。

 目を見ると、微細に震えている。困惑しているのだ。

先に見ていたから落ち着いていられたが、自分もいきなり声をかけられればこうなっていたかもしれない。


 しかしそれもすぐにおさまり、頬にはいつものやわらかい微笑がはりついた。


「恵子に言われて――クラスの友達ね。歩は?」

「おれは唯に言われて」

「二人とも、本当に仲良くなったんだね」


 感嘆したように言った。妙に演技臭い言い方だった。


「その恵子さんはなんで呼び出したか言った?」

「いや、有無を言わせないって感じだった。唯もそうだったんじゃない?」

「マジおねがいだった」

「ほんと、いい二人だね」


 それから少し間が空いた。何を言えばいいかわからなかったからだ。

 それはみゆきも同じだったようで、表情こそ落ち着いていたが、実際は言葉を探しているのだと、長い付き合いからわかった。


「えっと、ひさしぶり」

「ひさしぶり」


 仕方なく、歩から切り出した。


「どん位話してなかったっけ? 二週間位?」

「かな。忙しかったからね、お互い」


 忙しかったのはあいつと一緒にいたからだろう、と言いそうになってやめた。

 代わりに何か当たり障りのないことはないか探し始める。

 しかしそれもすぐにやめた。


 リズに本当の告白をされたときのことを思い出す。

 あのとき、歩が今まで色んなことをなあなあで済ませ、逃げてきたことを知った。

 今もそうだった。

 もう立ち止まっている時間はない。


「あいつとは?」


 みゆきの顔が一瞬ゆらいだ。

こうして見ると、いつも微笑を浮かべているみゆきの顔にも素の感情が出ているのがわかる。


「あいつって?」

「いつも一緒にいる、なんだったかな。悪魔使いの」

「財前敬悟?」


 フルネームかよ。


「そうそう。最近よく一緒にいるじゃん。この前放送で婚約宣言してたけど」

「聞いてたんだ」

「聞いてないやつのほうが少ないんじゃない?」


 歩が軽い笑みをうかべるとと、みゆきも軽く笑うように息をもらした。


「それで、どうしてそんなことに?」

「おかしい? 健全な高校生でしょ、私達?」

「婚約、それも付き合い始めて二週間、ってのはおかしくない?」

「たしかに」


端的な言葉だったが、濃い自嘲の色が見えた。

 みゆきはくるりと身体を真横に向け、空に向かって叫ぶような姿勢で、ぽつりと言い始めた。


「私が貴族だってこと知ってるよね」

「ああ。幼竜殺しのときに。それまで知らなかったな」

「あまり知らせたいことじゃないしね。特にアーサーをパートナーに持つ歩には」


 知らせたくないのは、歩のためか、それとも自分のためかはわからなかったが、ひとまず置いておくことにした。


「それで何かあった?」

「お父様がね、お見合い相手だって彼を紹介してきたの。それなりの相手を見つくろってきたから、って」


 お父様。お見合い。それなりの相手。

 それまでただの称号でしかなかったみゆきの元貴族が、少しだけだが現実のものに感じられた。


「いきなり?」

「それどころか相手づてよ。私が知ったのは、彼に呼び出された体育館裏でよ。『能美殿から預かった』って言われて、封筒の中見て、なんだか笑っちゃった」


 そのときのことを再現するように、さげすんだ笑みを浮かべた。

 みゆきには珍しい、他人に見せるには好ましくない笑いだ。


「ずっと連絡もなかったのに、いきなりそれだからね。父親っていうかなんていうか、へん」

「それで受けるの?」


 嫌な感じがして遮ると、はっとした後、みゆきは元の微笑に戻った。


「まだ保留中」

「だけど拒否はしてないし、外堀はどんどん埋められていっている」

「そうね」

「このままじゃ承諾したってなるけど、いいの?」


 しばらくしてぽつりと言った。


「父には逆らえないから」


 その余りにも痛々しい声に、思わず言い返す。


「親の言いなり? それもいままでずっと放置されてきた相手に? 相手もなんかうさんくさいのに?」

「歩にはわからないよ」


 思わずカチンとした。


「んなのわかるか! そんなの放っとけよ!」

「歩もわからないといけないよ」

「なんでだよ!」

「竜使いだからだよ」


 思わず黙ってしまった。予想外だった。


「今まではよかったかもしれないけど、社会に出たら竜だってことは嫌でもついて回るよ。わかるでしょ、何度も竜の世界の話に巻き込まれたんだから」

「俺E級だし」

「変わらないよ。竜使いだよ、歩は。将来のこと考えてる? もう三年も中盤だよ。そのまま大学に進むつもりだろうけど、本当にそれでいいの?」

「お前はどうなんだよ」

「大学行くけど、ちゃんと選んでる。将来のためにね」

「相手の家に入る嫁入り修行かなんか? 楽でいいね」


 説教臭さに思わず言ってしまったが、後になって失敗したことに気付いた。

 みゆきの顔が大きく歪んだ。目が大きく開かれ、口がわなわなと動く。

 怒ったようにも、泣きだしそうにも見えた。

 それらは像を結ぶ前におさまり、代わってきっと凄みのある嫌らしい笑みに変わった。


「いずれはそうなるかもね。彼、稼ぎはいいみたいなこと散々言ってるから」

「あ、そう」

「『父はこの町の署長で、俺もその後継ぐ予定』なんだって。『給料はそんなでもないけど、色んな特権があるんだ』ってさ」

「馬鹿みたいだな」

「歩はどうなの? 最近転校してきた外国の人と仲いいみたいだけど」


 いきなり話が飛んで、何気なく答える。


「リズのこと?」


 みゆきの鼻がぴくりと動いた。


「呼び捨てなんてずいぶん仲がいいのね。どういう関係?」

「スカウト」

「なんの?」

「婿」


 みゆきの口元が大きく歪んだ。


「受けるの?」

「保留中」

「それなのにいつも一緒にいるの?」

「お前と一緒じゃん」


 終わった、と思った。もう話すことはない。できないし、必要もないし、する気もない。

 それはみゆきも同じだったようで、しばらくした後、どちらからとも言った。


「「それじゃ」」


 階段を下りて行くと、階段の真ん中にアーサーがいた。


「着いてきてたのか」

「パートナーだから余り離れるのもよくなかろう。して結果は」

「相手知ってんのかよ」

「相談受けておったからな」


 唯と見知らぬ恵子さんのか。


「言う必要ある?」

「ない。顔を見ればわかる」

「ならいくぞ。明日は大会だ」

「それにしても」

「なんだ」

「お前ら、ほんと不器用じゃのう」


 歩はふんと鼻を鳴らしただけで済ませたが、しばらくその声が耳の中で響いていた。


三章2-1修正しました。


あまりにもアレなミスでした。


気付いた方、ほんと申し訳なかったです。


そうない方、作者の精神衛生的な理由でスルー願います。

マジでお願いします。




次回iです。

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