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パートナー ~竜使いと竜殺し~  作者: MK
第三章 貴族からの刺客
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1-i 転落






 当時の私は何も考えずに日々を送っていた。

 優しいがダメなことは厳として認めない使用人頭のじいやに、気兼ねなく遊んだ貴族の友人。

 貴族としての、理想の生活だった。


 そんな日々を過ごせたのは、幼小でも関係なく蠢くはずの醜い権力争いに、ほとんど巻き込まれなかったのだ。

 小学四年生のことにじいやに聞いたところ、それは能美家の地位によるところらしかった。

 じいやは能美家の地位を上流中層と称した。

他の貴族からしてみれば子分になるには低く、逆に子分にするには高すぎるという、半端な位置。


 誰も利用しようとせず、それでいて地位を維持できるため、希望すれば権力闘争の荒波から、そっと抜け出ることができる。

 能美家は代々その地位を望み、現在もそれを維持している。

 それがじいやの説明だった。

 当時の私としては理解できない話だったが、一つ確かだったのは、私がおだやかな日々を送っていたということだ。


 しかし私は知らず、気付きもしなかったが、その裏で父と母は苦悩の日々を送っていた。

 まず私の同じ色をした両目は、片側のみの色つきコンタクトレンズで対外的には通した。

 私には決してそのコンタクトレンズを外さず、万が一外れたときは、決して目を開かないことを強く言いつけた。


 各種検査も行われた。

 遺伝子検査も行われた。

結果は、私が父と母の子どもである可能性はほぼ百パーセントというもの。

 だからといって私の目がオッドアイになることは、勿論なかった。

 その他の検査結果も、全て白だった。


 科学的には白。しかしオッドアイという伝統には黒。

 その間に立たされた両親の内情は、想像すらできないほど苦しく、割り切れないものだったに違いない。


 その苦悩から二人が解放されたのは、私が十一になったときだった。


 貴族の中でも上層の一部のみで共有されている秘密に、パートナーの誕生前選別がある。

 通常、卵を破り出てくるまでわからないパートナーの種族を、竜かそうでないかだけ判別できる、預言者のような存在がいるのだ。


 私の卵を判定したのは、まだ若いが、青白い顔に今にも叫び出しそうな笑みを浮かべた、近寄りがたい雰囲気を持った男だった。


 面会したのは、ネズミ色で乱雑に塗られた壁に囲まれ、粗末な鉄製の椅子が置かれただけの、刑務所のような一室。

 拘束着を身にまとい、両腕を自分の身体を抱きしめるように張りつけられた男は、私を見るなり、にやついた笑みを浮かべた。

 ねちゃりと音を立てながら口を開き、ひび割れた声で男は言った。


「大変心中お察しする結果ではありますが、竜ではありませんね」


 後ろから私の肩を掴んでいた父の手に大きな力が入り、私は痛いと漏らした。

 父ははっと身を震わせ手をどけたが、私を見るその目には明らかな嫌悪感が覗いていた。

 続いてカタンという音がして、そちらを振り向くと、両手を頭の上に組んで突っ伏す母の姿があった。

 今にも消え入りそうな声で、違うの、違うの、と何度も繰り返し呟いていた。


 それからの一年間、父が家に帰ってくることはほとんどなかった。

 私に声をかけることは、ただいまやおはようさえも、一度もなかった。

 母親が笑うこともほとんどなかった。最初の一カ月は、全く表情がなかった。


 何が起こっているのか、断片的にしかわからなかった私だが、すぐに暗くなりがちの家を明るくしようと頑張った。

 使用人の名前は全て覚え、明るく挨拶をした。

 にっこりと笑みを浮かべて返答してくれるのが半分、もう半分はなんとも言い難いあやふやな表情で、小さく頭を下げてきた。


 夕食の席では、学校で起こったことを楽しげに話した。

 母は聞いてくれたが、反応はささやかな笑みを浮かべる位しかなかった。

 テストの点は基本満点を維持し、交友関係にも全く問題を起こさなかった。

 家庭訪問に来た教師からは、絶賛の声しか上がらないようにし、実際そうなった。


 私のそうした目論見はほとんどが成功した。

 しかし何も変わらなかった。


 そして私の誕生日の一カ月前、事件は起きた。

 私自身にはほとんど記憶はない。ただ出来事として記憶されているのみだ。

 私は母に右目を炙られた。


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