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パートナー ~竜使いと竜殺し~  作者: MK
第二章 悪食蜘蛛
60/112

3-i 幸せ

3-4の最後に手を加えました。


よかったらみてください。



以下内容







――竜殺しの竜。水城歩とアーサー。あの奇怪な竜もどき。そしてもう一つのターゲット。


会長は任せろと言っていたが、それはできない。あれは忌避すべき存在だ。竜を殺すために生きる竜など、存在そのものを抹消しなければならない。


 故に今回の任務でも表だって狙いと伝えたことはない。やつらの死は平唯の余波を受けてのものだとおしか、誰も考えていない。そう意図して計画をすすめた。何故やつを狙わなければならなかった、とも思わせてはいけないのだ。


会長にも知らせていないのはそのためだ。存在そのものを、できるかぎりの少数人数に抑えなければならない。それは会長ですら、会長だからこそ知らせてはならない。


聖竜会において、現会長は象徴だ。英雄だ。そして歪な形をした聖竜会をまとめる巨大で荘厳な器だ。だからこそ、その器にひびを入れるような存在は、出来る限りの力でもって排除しなければならない。器に入れるものの選別こそ、歴代副会長の役目だ。


 平唯、キヨモリ、水城歩、アーサー。すべていらない、排除すべきものだ。


 さて、処分は完了しただろうか。







 私が反抗した理由はなんだったのか。


 今でもなぜかわからない。黒い粉雪が降り積もったような、それまでに積み重なった貴族への嫌悪はあった。気持ち悪い空間にいることが耐えられなかったのかもしれない。キヨモリがいたからかもしれない。


 言ってから私は覚悟を決めた。自分の運命を握っているじいさまへの明確な反抗だ。目下の者に逆らわれた経験など、ほとんどなかったにちがいない。どんな怒りが向けられるのか、のどの奥を固くして待った。


 だがじいさまは怒らなかった。その目には純粋な悲しみしかなかった。


 じいさまはどうして、と聞いてきた。辛そうな顔をして。


 その顔に母親の面影を思い浮かべた瞬間、私は内心を吐露していた。淡々と、しかしはっきりとした口調で。


 途中からじいさまの目には涙が浮かんでいた。


 最後まで言い終えると、今度はじいさまが語りだした。


 じいさまは本当に何も気付かなかったらしい。母さんが何を思い死んだのか、私がなぜ凍りついたような表情をしていたのか、どうすれば解消できるのか。小学生時代、私がいじめられていたことを知り、犯人を見つけ一応の始末をつけたが、それ以上何をすればいいかわからず、ただ見守ることしかできなかった、と言った。あの中学に通わせたのも、それしかできることがなかったからのようだ。


 じいさまは生まれたときからの貴族だった。藤原の直系の長男として生まれ、何不自由なく育ち、竜使いとなり、訓練を経て軍に入り、竜使いとして最前線で戦いに明け暮れ、常に貴族の中核にいたじいさまにとって、雑事は全て他人に任せるもので、じいさまが労することではなかった。そう思っていたのだ。


 事実、それでうまく回っていたようだ。生まれたころは親が、学校では取り巻きが、軍では副官が、家では妻が、妻が死んでからは秘書が、全てフォローしていたようだ。それでよかったのだ。ただ一つ、愛人とその子どもを除いて。唯に言われ、ようやく気付けたのだ。唯に教育を施したのも、唯のためになるからだと思ったからのようだ。


 じいさまは謝らなかった。立場上、そんなことはできなかった。


 ただ、唯は貴族の高校ではなく、今の高校に入学した。それまで受けていた教育も、唯の希望により内容が改められた。頻度は少なくなり、政治や謀略はごくたまになった。代わりに武術と、自由に本を読む時間が増えた。


 そして、時折二人とそれぞれのパートナーだけで話すようになった。といっても、お互い何を話せばいいのか、相手が何を望んでいるのかわからず、談笑になっていなかったが、なんとか会話はしていた。


 今の唯は、対外的にはかなりややこしい話にしているらしい。同時期にあった、もう一人の後継者の死亡も重なったことも事態を複雑化させた。少なくとも、唯が望んで今の学校にいることは、貴族関係者にはほとんど知られていない。


 継承権を私からはく奪することも考えたが、しなかったようだ。直接言いこそしなかったが、私には才能があると教育を受け持った人達が認めており、彼等の反対があるようだ。それにじいさま自身も、私に継いでほしいと思っていると、自身のエゴだと認めながら話した。将来、私の選択肢として残しておきたいという思いもあるようだ。


 雨竜の件もまだ聞けていないが、おそらく何らかの政治的取引と、雨竜の人柄を考慮してのものだろう。それもじいさまが倒れて、狂ってしまっているようだが。


 じいさまが倒れたと聞いたとき、思いのほかショックだった。今ではだいぶ持ち直したようだが、以前の覇気はなくなってしまっているようだ。周りの反対に負け、唯との面会も果たせないでいる。唯に好意的な人達も、自分の仕事に忙しく、なかなか動けないようだ。


 会えなくてさみしく思うときもあったが、生きているならそれでよかった。またいつか会えるし、一人ではない。キヨモリもいる。


 そうしてゆっくりと過ごしていたが、序々に空虚になっていっていたころ、みゆきと歩に出会った。


 幸せだった。幼竜殺しの事件で、キヨモリの翼を失ったりもしたが、それでも幸福だった。担任が幼竜殺しだったことも、藤原の謀略も、どうでもよかった。キヨモリもそう感じていたようだ。友だちができたのだ。


最近になって慎一も増えた。初めは竜使いに媚売る輩かと思い、自分だけでなくみゆきや歩のためにも警戒していたが、それもないようだ。楽しかった。


 これから更に増えるよ、とみゆきは言ってくれた。実は模擬戦以前に、少し話しをした人達がいた。内容は取るに足らない雑談だった。ただのクラスメイト同士がするような、他愛のない世間話だった。みゆき曰く、最近の険呑とした雰囲気になる前には、私と話してみたいけど、勇気が出ないといった人達がいたらしい。打算抜きの純粋な興味で。それもいじめの対象となりかけた空気の中では、なかなか二の足を踏めずにいたらしいが、それでもほんの少しだけ、声をかけてくれた人もいた。それも空気が一変した今なら、容易くなる。

 しかし。


 私は自分の都合にみんなを巻き込んでしまった。


 もう潮時なのかもしれない。


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