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パートナー ~竜使いと竜殺し~  作者: MK
第二章 悪食蜘蛛
52/112

2-3 その後、そして

短いです。ごめんなさい。








 キヨモリ無双の次の日、昼休み。


「平さん、今度お茶行こうよ」

「あ、うん、今度ね」

「平! 放課後模擬戦つきあってくれない!? 俺聖竜会の下部組織行きたいからさ、竜に慣れておきたいんだ!」

「うん。時間が空いてたら」

「平先輩! サインください!」

「それはちょっと……」

「平唯。俺はお前のことを信じてたぞ!」

「……どうも」


 唯が人に囲まれていた。多くが同級生だったが、無邪気な一年も混じっている。全員が全員、悪意の欠片もなさそうな顔をしている。


「大人気だな」

「これぞ大衆。もし唯が無邪気なだけだったら、人間不信なるな」


 悪戦苦闘している唯をよそに、歩は慎一と一緒になって適当なことを言っている。時折、唯の視線がこちらに来るのは分かっていたのだが、歩は自分が悪者になるつもりはない。苦笑して合掌するだけだ。


「平さん!」

「平!」

「平先輩!」


 次から次へとかかってくる問いは、みゆきがやってきてやんわりと断るまで、続いた。







「平さん! これ、どうぞ!」

「……殴るよ? キヨモリが本気で」

「それは勘弁してください」


 場所をギルド部部室に移した。


おどける慎一に対し、唯の顔には疲れが見えた。たった数分で、模擬戦の何倍も疲れているように見える。実際、疲れたのだろう。慣れないことを強制されるのは、本当に疲れる。


「まあまあ、ご飯にしようよ」


 苦笑しつつ、みゆきが重箱の蓋をあけた。


「みゆきが言うなら」

「さっすがみゆき先生! 天下の平唯を黙らせるとは!」

「……本気でなぐっとこうか」

「今度は止めないよ」

「やりすぎちゃいましたごめんなさいもうしません」


 女性陣二人の声が断定口調だったのを聞いて、慎一は即座に謝った。

 それを見て、アーサーが不機嫌そうに言う。


「コントはその位にして、飯にするぞ。我は腹が減った。のう、みゆき」

「はいはい欠食児童を放置してちゃ、保護者の責任問題なるもんね」


 アーサーはふんと鼻をならしただけで、特に反論はしなかった。


これでようやく昼食の開始となったが、今日から少し事情が変わった。歩達が材料費を出すことがなくなったのだ。これはもともと友人同士でお金のやりとりをするのに難色を示していた唯の希望で、歩達は代わりにギルド部の事務を請け負うようになっている。


「それにしても、唯の人気はすごいな」

「……まだ懲りないの?」

「いやいや、煽りぬきで。純粋に思ったからさ」


 唯はきつく睨んでいたが、慎一は続けた。


「昨日までは、真逆だったのにさー。平さん平さんって。大楽とか見た? 巨人使いで、最初にぼこられたやつ。『おれは信じてた』とか、わけわかんねえよな」


 そういえば、声が大楽のものだったような気もする。気にしてなかったので、わからなかった。


「んでさ、唯はどう思ってんのかなと思ってさ」

「どう?」

「うざいとか、変わり身ひどくない? とか」


 かなり突っ込んだ、直球な質問だ。それを軽い調子で聞く慎一が、すごいというかなんというか。

 唯はすっと答えた。


「どうも。そんなもんだし」

「悟っちゃってる?」

「慣れたって感じかな。中学時代も似たようなの受けたし」

「へえ。そうなんだ」

「そうなんです」


 そういうと、唯は平然とした顔で湯飲みを傾けた。達観しているように見える。どういう背景があって、こういう姿勢を身につけたのだろうか。













 昼食が終わった。いつもはこれから適当にだべり、時間になったら戻るのだが、今日はやることがあった。

 ギルド部の次の活動内容だ。


「それじゃ、次の決めようかね。希望ある?」


 重箱がどけられたテーブルの上には、依頼書が広げられている。全てCランクのものだ。


「Eは入門でやりがいなしだけど、Dはどうだったっけ?」

「単純な肉体労働系。山にハイキングとかもあるから、それならいいかも」

「そうか。一応見てみるかな」


 立ちあがると、みゆきは部屋の隅に置いてあった段ボールに寄った。ダンボールは二つあり、それぞれEとDと書かれている。


「私はこれかな。海亀蛇の捕獲。この前山だったから、今度は海で」

「あーそりゃきつい。海の中だし、なにより数が多い。人数多い所が、ローラー作戦でやるようなのだ」

「そうか、残念」


 唯が手にした紙を部屋隅のゴミ箱にぴっと投げると、かしゃりと音をたてて中に入った。


「歩はなんかある?」

「え? う、ん」


 先程から見ているのだが、いまいちピンとこない。魔物の討伐依頼は余りなく、ほとんどが採取や調査だった。やってもいいのだが、どうせなら槍を振るいたいというのがあった。

――いまさら気付いたが、自分はけっこう脳筋だったようだ。


「Bはまだ遠い?」

「通常は十やって、試験受けてだけど、ここの場合はよくわからない。けどBは人数いるのも多いから、試験が厳しいかもね」

「そうか」


 なんだか手づまりだ。


 それから二、三案を言い合ったが、どれもピンと来なかった。いや面白いのはあったのかもしれない。しかし鋼金虫の群れとやりあったことを考えると、どれもやり応えがなさそうに見えたのだ。


 結局、放課後に回すことになった。







 放課後。


 また依頼書を前にうなっていたが、そこに呼び出しが鳴り響いた。


 慎一が行って帰ってくると、手には大きめのファイルがあった。


「なにそれ?」

「新しい依頼書だって」

「どこから?」

「えーっと……聖竜会!?」


 ぱっと皆寄っていった。


「聖竜会が送ってくることとかあるの?」

「俺の知る限りない」

「中見てみよう」


 見守る中、慎一が一枚目をめくると、そこに説明書きがあった。

 慎一が音読していく。


「『水分高校ギルド部様。この度は鋼金虫の討伐、完遂、おめでとうございます。つきましては、竜所属のギルドの皆さまにお送りしている、竜専用の依頼書、Cランクを郵送させていただきました。こちらも依頼を受ける場合は、通常通り、ギルド連合の方で手続きするよう、お願いします」――こんなのあったんだ」

「知らなかったの?」


 慎一は頷いた。そういえば、登録にギルド連合に訪問した際、支店長が竜専用の依頼があると聞いた気がする。


「ひとまず、見てみる?」


 唯の一言を合図に、一枚目をめくったとき、歩ははっとした。さっと視線をめぐらすと、みんな同じように息を呑んでいた。


「これって」

「ああ」


 そこにあったのは、悪食蜘蛛の討伐だった。


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