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パートナー ~竜使いと竜殺し~  作者: MK
第二章 悪食蜘蛛
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2-1 宴会







 難易度C依頼 『鋼金虫の討伐』


 歩達が達成した依頼だ。難易度CとはCランク以上のギルドでなければ受けられないという意味で、通常Cランクから中堅と称されるようになることを考えると、決して低くない難易度の依頼だった。


 歩達の属する水分高校ギルド部は、学生ギルドだ。しかし特例によりいきなりC+ランクと認定された。その後、数回のオリエンテーションの依頼を終えた後、いきなり社会人のギルドが請け負うべき依頼を受け、結果、無事に達成した。


 その結果、歩達はどうなったか。


 成金だ。






 水城家のリビングにて、慎一がコップを掲げて叫んだ。


「ではでは、水分高校ギルド部、C級依頼、『鋼金虫の討伐』達成を祝して、かんぱーい!!!!!」

「かんぱーい!」


 音頭と共に、六つのグラスと、大きめのスープ皿、そして巨大なスープ皿が、音を立てた。


 歩は中身を一気に飲みほした。中身は買い出しに行った店にあった一番高いノンアルコールシャンパン。味はもちろん最高だったが、以前飲んだときより何倍も旨く感じられたのは、気のせいではないだろう。


 同じく一気に飲み干した慎一が、おっれいっちばん♪ とリズム良く叫びながら、テーブルの上に置かれたチキンを手にとり、頬張った。


「うめえ!」

「うむ、なにより。一番は我だがの」


 アーサーを見ると、両腕に肉が半分むしられたチキンがあった。至高の表情を浮かべならが、口から油を垂らしている。


「いつの間に!」

「一番槍は男の誉れよ」

「飯で張り合ってんじゃねえよ」


 そういいながら、歩もチキンに手を伸ばす。


「つまらん男め」

「なんでもいいさ! 最高の仕事の後なら、もうどうでもいい!」


 立ち上がり、慎一が声を張り上げた。


「オレの目に狂いはなかった! この面子は最高だ! 唯とキヨモリの力! みゆきイレイネの余裕のある落ち着き! それに歩の反応と、アーサーの俯瞰! そこに俺らの鼻と経験! 史上最強の学生ギルドだ! 伊達のC+じゃない!」

「最初はショック受けてたくせに」

「へいへいアーサー、細かいこと言うのはつまらんぜ!」


 見回す皆も楽しそうだ。女性陣は慎一がおどける度に笑みを浮かべ、口に運ぶ度に頬をほころばせる。キヨモリとマオはリラックスした様子でごちそうに集中している。イレイネはみゆきの背につき、みゆきが微笑むのと同期して頬を動かす。アーサーはがっついているが、会話に入ることを忘れない。


これが仕事の後の宴会か。確かに、悪くない。

心残りがあるとすれば、つきあってくれた、明乃の姿が無いこと位だ。


「それにしても、先生来れなかったのが残念だね」


みゆきも歩と同じだったようだ。


「そうだね。出張らしいけど、ほんと残念」

「また次がある! 色々買いこんだし、オヤジたちは協力してくれるって言うし! 言うことない!」


 慎一が誇らしげに言った。今回の報酬で、装備を色々買い揃えることができた。服は黒蛇製であることは変わらないが、学校で使っているものよりもっと上質なものを発注したし、こまごまとしたものも、耐久性や利便性を上げたものにした。食べ物なのか疑わしい味のする簡易食糧は、軍が使う最先端の糧食になった。武器も歩以外の三人が新しいものにした。歩は今のが慣れたばかりというのもあり、変えなかったが、いずれ返ることになるだろう。


 いずれにしろ、順風満帆だ。











 明乃は久しぶりに聖竜会本部に来ていた。


 赤い絨毯、観葉植物、そして整いすぎて息苦しい空気。全く変わりない。


 副会長の部屋の前につくと、ノックして入った。


 副会長はデスクで書類仕事をしていた。


「およびでしょうか」

「ああ、まあ腰掛けてくれ」


 促され、ソファに浅く腰掛けると、そう経たない内に副会長も立ち上がり、デスクの上にあった茶封筒を持って、明乃の対面に座った。


 すっとテーブルの上を滑らせ、茶封筒を渡してきた。


「次の指令書だ」


 明乃は受け取り、中を取り出す。さっと目を通したところで、疑問が湧いた。


「用事はこれだけですか?」

「ん? どうしてだ?」


 眉を大きくしかめた副会長に、慌てて答える。


「いえ、これだけのために、ここに呼び出したのか、と思いまして」


 指令書に特に注意しなければならない内容はなかった。それならばこれまで通り郵便を使えばよかったのではないか。


 副会長はすっと笑みを浮かべた。


「相変わらず聡い。君を選んだ甲斐があったよ」

「ありがとうございます。それで、どうしてですか?」

「まあ、様子見だ。とうとう山場を一つ越えたのはいいが、鋼金虫の際、君に危うい場面があったと聞いたからな。臆してないか、この目で確かめようと思ったのだが――どうかね」

「何も。残念なことに、彼らが優秀だったので」


 そう。残念だ。色んな意味で。


「そうか。なら大丈夫だな。潜入に戻ってくれ。ここまで御苦労だった」

「いえ」


 明乃は立ち上がろうとしたが、膝に力を入れたところで止めた。

 代わりに尋ねた。


「一つ、お聞きしてもいいですか?」

「なんだね?」


 柔和な笑みを浮かべた副会長に、思い切って尋ねる。


「お願いした件、大丈夫でしょうか?」


 副会長が豪快に笑った。似合わない、少しオーバーな仕草だった。こんな笑い方もするのか。


「何も心配しなくていい。今も君の母親は平穏に過ごしている。君が任務を達成したとき、彼女の平穏は死ぬまで続く。安心してくれたまえ」

「そうですか。ありがとうございました。任務に戻ります」


 明乃は頭を下げ立ち上がると、廊下に出た。


部屋の中にいる副会長に向かってもう一度頭を下げると、ゆっくりとドアを閉める。


息をついた。


 なんとか上手く行っている。母親も無事なのは、本当だろう。任務を終えるまで会わないとは決めたものの、いつも気になってしまう。母親の無事を聞かされると、例え副会長の口からでも、嬉しくなる。


 母親の顔を思い出す。匂いを思い出す。触れたときの手の感触を思い出す。もう二度と光を写すことのない、母の閉じられた両目を思い出す。


 覚悟がじりじりとねじあげられる気がした。


 そこに悲鳴が木霊する。


 それは幻想だ。ただし、このままでは現実に具象化する声だ。


 今ごろだと、宴会をしている頃だろう。流石に部室ではできず、水城の家にすると聞いた。明乃も誘われていた。


 参加することもできた。副会長は多忙だが、指令には平唯とその仲間と、ある程度懇意になることも含まれている。予定変更を申し出れば、可能だったろう。


 しかし明乃はそうはしなかった。できなかった。これ以上近付くと、必ず駄目になる。


 平達は本当にいい子ども達だ。あの集団に入っていると、自分もその一員になりたくなる。彼等はどこかしら孤独を抱えている。人を惹き付けるのは、そのせいだろう。孤独を知るものは、いざ他人と結びつき始めると、強固で確かな、さわり心地のよい糸を構築する。その糸に明乃も惹かれ始めていた。


 しかし。


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