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パートナー ~竜使いと竜殺し~  作者: MK
第二章 悪食蜘蛛
47/112

1-4 開始








 歩達はひとまず簡単な依頼からこなしていった。竜使いがいるため、ランクの高い依頼も受注することができたのだが、やはりある程度は経験が必要だと思ったからだ。


 やったのはEランクの依頼。養殖場で黒蛇の世話、忘れ菜の採集、霊峰の登山清掃の三つだ。


Eランクの依頼はギルド初心者のためのレクチャーのようなものらしい。慎一曰く、依頼をこなすための基礎事項を学ぶ場として、各所と連携して利益度外視で用意しているもの

歩達に支払われる報酬は現場支給の食事だけだった。


 それらを終え、ある程度ギルドとしての活動の目途がついたのが、ギルド設立から二週間の後。


 週末、初めての本格的な依頼、『鋼金虫こがねむしの討伐』を行うために、水分高校ギルド部の面々は国境端の『うたかたの森』に来ていた。










 歩の前には夜の森が広がっていた。鬱蒼と茂った木々が月明かりを遮断しているためか、よく混ざっていない墨のような、濃淡にしか見えない。森だと判別することはできるが、これからこの中に入っていくことを考えると、なんだか背中がうすら寒くなる。


「準備はできたか?」


 森から視線を離し振り返る。慎一がいた。学校の模擬戦の時に着る、ブーツとカーゴパンツ、身体に張り付くシャツの三点セットの上に、『岡田屋』と書かれた濃い緑色のジャケットを着ている。


「装備の点検はもう一回、メモと照らし合わせながらしっかりと確かめろよ」


もう一度バッグの中身を確かめる。今日の昼飯と携帯食糧、包帯や消毒液といった応急キット、非常用の発煙筒、地図とコンパス、懐中電灯、時計、多機能ナイフ、ライターと、清潔な予備タオル。バッグにくくりつけるようにして水筒。その他もろもろ。


そしてなによりの槍。鋼金虫混じりの鉄で作られた刃と、榎田霊峰で取れた樫の木の柄を繋げた一品物だ。買って三日ほどだが、三日間の訓練のせいか大分手に馴染んできている。


「OK」

「こっちもいいよ」

「私も」

「いいですよ」


 歩、唯、みゆき、そして明乃の順に答えた。みんな学校の戦闘服を着ており、その上に歩と唯は学期末模擬戦のときにもらった特製のジャケットを、それ以外は岡田屋から借りたジャケットを羽織っている。パートナー達もそれぞれの身体に合わせた荷物と装いをしていたが、こちらは急に戦闘に入った際、簡単に外せるように量は少なめにしてある。


「そんな奥深くまで行かないけど、抜けがないようにな。何が起こるかわからないんだから」


 慎一が深い森を背景に、腰に手を当てて言った。リーダーとして、タクトを振るう姿だ。今回の討伐依頼は、慎一が中心となって行う。初めての歩には、たのもしく見えた。


「荷物が重かったら、やりくりして減らすから、言うように。行くだけで体力使いすぎたら、意味ないからさ」


ふたえ、とうとうこの日が来たか」

「感無量です。あの馬鹿ばかりしていた私達の息子が一人立ちするなんて」


 そこに茶々が入った。


「時が過ぎるのは早いもんだ。こけて泣きべそたれてた小僧だと思ってたのにな」

「全くです。先日まで鼻を垂らしていたクソガキが、こんな立派な猛者と華麗な花を伴って森に分け入ろうなんて。みなさん、どうかご無事でね。色々足りないところが多いバカガキですが、いざとなったら盾にしてでも生きてくださいね――あ、クソガキ、あんたも死ぬなよ。あんたが死んだらパートナーまで死ぬんだからね。可愛い可愛いマオを死なせたら、三代祟るから」

「――三代祟るって自分二代目なんですけど」


 妻の肩に手をかける立派なヒゲと少し豊かな腹を持つ中年男性と、丁寧だった口調に合わない、見るからに肝っ玉な中年女性。この二人が慎一の両親、岡田一と岡田二ふたえ、つまり地域で一番のギルド、『岡田屋』の社長と副社長である。足元には彼等のパートナーの白と黒の犬もいる。


 邪魔されて恨めしそうに両親に目線を向ける息子に、にやりと笑みを浮かべて父親が言った。


「まあ無理はするなってことだ。お前も今まで散々雑用やってきたとはいえ、指揮を執るのは初めてだ。危ないと思ったら、すぐに逃げろ」

「煽った後で真面目なこと言いだすとか、サイテーな親だな。ありがたく心に留めておきますよ、畜生」


 息子に訓示を終えた一が、歩達のほうに顔を向けてきた。


「不肖の息子だけど、どうかよろしく。平さん、能美さん、歩」

「こちらこそ」

「先生も無理をしないで。危なくなったらお願いします」

「はい」

「じゃ、俺達は自分の仕事に移るから。後はそっちでな。慎一、しっかりやれよ」

「はいよ。後よろしく」

「お前に言われるまでもねえよ」


 息子ににやりと笑みを投げ掛けたあと、一は妻を連れてテントの方に戻っていき、そこにいるギルド『岡田屋』のメンバー達に指示を出し始めた。彼らには歩達が狩った鋼金虫を回収、業者に移送という仕事がある。


本来ならば岡田屋がするレベルの仕事ではないのだが、慎一がお願いした。基本的には歩達がやることに手出ししないが、万が一歩達が危険にさらされた時、すみやかに救助できるようにするためだ。通常の学生ギルドでもこうしたバックアッパーがつくこともあるようだが、地域で一番のギルドがそうした仕事を請け負うことは余りない。慎一さまさまだ。


 気を取り直した慎一が皆に声をかける。


「まああんなだけど、腕は確かだから。危なくなったらすぐに来るし、安心して依頼を果たそう。それじゃ依頼の確認」


 慎一は顔をきりりと引き締めた。仕事の始まりだ。


「相手はここのところ増えている鋼金虫。固い甲殻に大柄な身体を持つ、オーソドックスな魔物だ。カブトムシのメスをそのまま大きく、強くした感じ。甲殻は少々の刃物位なら簡単に弾くから、首元を集中的に狙うように。ここまでいい?」


 歩は頷いた。事前に鋼金虫の構造は頭に入れてある。

 全員の顔を見回して確認しおえると、慎一が続きを言い始めた。


「行軍は俺とマオが先頭、二番目に歩とアーサー、みゆきとイレイネ、唯とキヨモリ。最後尾は先生、お願いします。後方警戒は難しいですが、先生が適任ですから」

「わかりました。ツクヨミの温度感知ですね」


 明乃の足元で彼女の蛇型パートナー、ツクヨミがとぐろを巻いていた。濃い緑色が斑模様を描いている身体は、とぐろを巻いても明乃の腰ほどまである。蛇としてはかなりの大型だ。時折舌をちろちろと出し入れする姿は、学校の女子生徒にはかなりの不評だ。


 蛇型の特徴に、目ではなく温度で周りを見ることがある。大きさや距離までわかるため、犬型同様、探知能力が高い。隊の最後尾に配置したのは、そのためだ。


「基本は俺が先導して鋼金虫のところへ。開けたところに出たら、アーサーが空から偵察。イレイネは皆の指示にすぐに対応、唯とキヨモリにはいざ接敵したときには、主力になってもらうから。先生は何かあったらすぐに言ってください。以上、何か質問ある?」


 慎一がすっと全員を一瞥した。誰も質問がないことを、顔でも確認しているのだろう。


「それでは、行こう。実質初めての依頼。しっかりやっていこうか」


 慎一がすっと森の中に入っていく後ろに、歩もすぐに続き、後ろからみゆきが来るのをさっと見る。


 これまで森の入口にある切り株に腰をおろしていたアーサーが肩に乗ってきた。


 『鋼金虫の討伐』開始だ。


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