0-i 遥か過去
一番古い記憶は、母さんの幸せそうな顔だ。それに続いて、じいさまがやってきたときの嬉しそうな顔が浮かび上がる。じいさまの顔は、今よりは少しは若かった。
生活は安定していた。歩達が驚いていたソファも、生まれたときから使っていたものと同質だ。おそらく値段もそう離れていない。
母さんのパートナーは精霊型だった。名前はシズカと言った。姿が使い手である母さんに似ていたのはみゆき達と同じだが、水を媒介にしたイレイネとは違い、風を媒介にしていた。
自分にとってのゆりかごは、母さんではなく彼女の手の中だった。彼女の手は柔らかかった。風だから当然だ。優しく身を包む感触はどんな布団よりも温かく、優しかった。
じいさまは月に三度ほど家に来た。特に優しくされた憶えはないが、彼が来ると家がなんだか暖くなっていた感覚を覚えている。母さんの関心がじいさんに向くのがさびしくて、纏わりついてはしきりに泣いたが、じいさまは怒ることなく、柔らかな笑みを浮かべて私を見ていた。
ただ素敵な時間だった。みゆきや歩と出会うまで、忘れていた位に。
情景描写無しで、『私』の名前も出してませんが、雰囲気重視で。
うっすらわかる感じになってるといいのですが