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パートナー ~竜使いと竜殺し~  作者: MK
第一章 幼竜殺し
34/112

4-6 裏話

4-4と4-5に大幅修正を加えました。

そのため、展開が大分変わっているので、続いてみてくださっている方は、少し戻って見てください。

 この衝動は本能だ。


 生まれついて持っていた、衝動。唯一無二の異常な感覚。

 衝動が抑えられないほど強くなると、目の前のそれは獲物にしか見えない。


 毎日のように学校で顔を合わせ、談笑し、交流を深めた間柄。それは小柄な身体に、何か秘めたものを持った、不思議な存在だった。絶対的な強者の雰囲気を身に纏っていた。


 今、自分はそれを獲物としている。否、昔からそうだった。それと顔を合わせる度、内心で湧きおこる途方もない欲求を押し殺していただけだった。


 今もそうしていた。これしかない機会に遭遇し、後は本能を解放するだけだった。しかしそれもできなかった。自分の中の何かが、それを押しとどめていた。時間をかければかけるほど、危険だということがわかっていても、なおできなかった。


 だがそれも限界だ。もう猶予はない。これ以上は危ない。

 何度も悩んだ。親しくなる度、相手を殺したくなる自分を殺したくなった。


 しかしできなかった。どうしてもできなかった。


 そして今、やらねばならない事態に陥ってしまっている。


 いつしか目の前の獲物しか目に写らなくなっていた。もう我慢できない。


 後は解放するだけだ。本能を。呪われた血を。血ぬられた宿命を。


 自身の不明をあざ笑いながら。









 歩は身がまえたが、内心途方に暮れていた。


 相手は幼竜殺し。つい先日までただの教師だと思っていた、可愛らしい女性とそのパートナー。たった一人と一体だけの、社会からの逸脱者だ。見た目だけでは覗い知れない、歩の人生最強の相手だ。


 対する味方は壊滅状態にある。意識は大分戻ってきたようで、藤花を驚愕の瞳で見つめているが、抱えているみゆきの身体からは微細な振動が伝わってきている。その背中に張り付いたイレイネも散々無理をしたせいか、体積はいつもの五分の一もない。まともな技を繰り出すことは不可能だ。


 雨竜はというと、まだ動けていなかった。顔色は青を通り越して土気色になっており、復帰は難しそうだ。そのパートナー、サコンは雨竜が生きているため、命はあるのだろうが、身体が完全にばらばらにされてしまっている上、燃料はほとんど尽きてしまっている。


 残るは歩とアーサー。しかし歩は左肩を怪我している上、相手は通常時でも格上である藤花にユウがついている。そしてアーサーは行方不明と来た。生きているのだろうが、この事態にどこへ行ったのか、何か秘策があるのか。歩と命がつながっていることと、アーサーの気性を考えると、逃げたわけではあるまいが、一体何をしているのだろう。


 藤花の視線がいきなり自分に向いて、歩はびくりと身体を震わせたが、藤花は微笑むだけで何もしてこなかった。


 ひとまず最後のあがきにと、抱えていたみゆきを横たえ、起き上った。槍は藤花に放られたまま回収していなかったため、仕方がなく徒手空拳で構える。雨竜が来たとき、拾っておかなかった己の不明を恥じるしかなかった。


 藤花は視線を歩から雨竜に向け、ユウに「捕まえてきて」と言った。ユウは即座に反応し、尾を太さはそのままで伸ばしていく。雨竜は反応してはいたが、やはり身体が満足に動かないのか、呆気なく捕えられた。


 縛りあげられた雨竜は、そのまま強引に引っ張られ、歩と藤花との間に三角形を作る位置に、叩きつけられた。


 雨竜の拘束を解かせることなく、藤花は口を開いた。


「それでは、いくつか質問に答えていただきましょうか。軍人さん」


 雨竜は口をつぐんでいたが、藤花がちらりと歩達に視線を振ると、顔を歪めた。


「それでは、始めます。あなたは何故学校に来たんですか?」

「平唯の護衛だ」

「どうして? そもそもなんで唯さんはこの学校に?」

「そこは平のプライバシーにかかわる」

「時間稼ぎ、したくありません?」


 藤花がにこやかに、だが冷たく言い放つと、大人しく雨竜は語りだした。


「平唯の一族は、祖先に聖竜会の会長がいる位の由緒正しき家系だ。現在の家長は一世紀近く生きている老人で、聖竜会の顧問のような役職についており、権力は推して知るべし。平唯は、その家長の実子だ。平の年から逆算しても、かなりの年寄りだが、これは確証があるらしい。お盛んなこった」

「そこはいいです。それでどうして唯さんはこの学校に?」


 藤花の声はぴしゃりとしていた。その話題はいらない、ということか。

 雨竜は語尾を変えず、淡々と続けた。


「問題は、平唯がいわゆる妾腹だったことだ。年老いた権力者の、愛人の娘。一族の権力闘争がそのまま反映される貴族の学校において、かなり異質な存在だ。本家のやつらからの干渉はなかったようだが、保護されることもなかった。直接的ないじめはなかったが、存在を半ば無視されるような状況だったようだ」


 歩には馴染みのない話だ。映画のストーリーを聞かされているような気がする。

 しかし唯はそんな映画の世界に住んでいたのだ。まるで想像がつかないが、学期末模擬戦以前の孤高の姿と、花火をしていたときの本当に嬉しそうな顔が浮かびあがってきて、何も言えなくなった。


「中学まではそれでも通っていたが、高校に入る直前、平の異母兄弟にあたる後継者が、急死したことで状況は変わった。平の異母兄弟はいることはいたが、どれも子を産む前に早世し、その後継者と平の二人しか残っていなかった。

 そうなると当然家の継承は平に向かう。しかし妾腹の子が家長になることを、一族が許すはずはなかった。それを事前に読みとった平の父が、圧力をかけた一般の学校に転校させた上で、懇意にしていた軍部、俺のいた後方支援部隊にお願いをしたというわけだ」


 後方支援部隊。一時期話題に上った、情報収集及び伝達のエキスパートたちの揃う軍隊だ。雨竜はそこの出身だったのか。たしか現在の第一陸戦部隊の隊長が以前所属していた。


「どうしてそこに? わざわざ軍ではなく、腹心の部下なりを送り込めばよかったのでは?」


 藤花の質問に、苦り切った顔で雨竜が答えた。


「腹心の部下でも、平が後継者とするのは反対が多かったらしく、ごく一部を除いて信頼することはできなかったらしい。そのごく一部は本業に使うため、平には回せない。だから関係があったうちに依頼してきた。おそらくレーダー持ちを使いたかったのもあったろう。襲撃者を事前に察知できるからな」


 雨竜は自嘲するように笑みを浮かべた。現実は失敗してしまったがな、と言外に言っている。


「まあ私もレーダー、ステルス持ちですからね。例外に当たってしまったわけです」

「それだ。見たところ、あんたのパートナーが機械型には見えない。何かあるのか?」


 藤花は無視して更に質問を重ねた。


「そこまで深い繋がりがあったんですか? 子の安全を任せる位。それとも何か見返りがあったんですか?」


 藤花の問いに、雨竜の顔は更に歪んだ。


「見返りだが、その結果はお前らも知っている。うちの部隊に関連して、異例なことがあっただろう?」

「第一陸戦部隊隊長、ですか」


 歩の頭にどす黒い風が吹いた。

今まで竜使いで占められていた第一陸戦部隊に入隊、それも隊長になった現隊長。

その裏側には、そんな大人の汚いやりとりがあったのか。

歩は特別尊敬していたわけではなかったが、それでも気が滅入ってしまった。


「わかりました。では後ろめたい理由はありますか?」


 雨竜は観念したようにすぐに口を開いた。藤花とやり合っていた際、監視していたんじゃないかと指摘された瞬間、歩でも分かる位雨竜は動揺した。ないと答えた瞬間、藤花が動くとわかっているのだ。


「あんたの監視をやれと言われたのは、半年ほど前だ。依頼主は聖竜会。難航していた幼竜殺しの捜査だったが、ようやく共通点が浮かび上がった。数年前からだが、現場から一日かければ移動できる範囲で竜に関する講演があった。普通ならそんなこと気付くはずもなかったが、あんたの熱弁を覚えているやつは多くてな。それで気付いたわけだ」

「やりすぎましたか」


 藤花に特に後悔した様子はなかった。自分が追い詰められるきっかけになったというのに、まるで人ごとだ。どんな思考をしているのか。


「うちに依頼が来たのは、俺が潜入しているからだ。更に続けて潜入させると、あんたが勘づいて逃げるかもしれない。それは避けたかった。すくなくとも、あんたが幼竜殺しだと確証が出るまでは」

「それでどうして監視を? 唯さんの護衛はどうしたんですか?」

「中止の命令は受けていない。だが『幼竜殺しの監視をしろ』と言われた。も、ではなく、を、だった」


 その意味は、幼竜殺しの監視を第一にしろということ。

 つまり監視が唯の護衛よりも優先される事態になったわけだ。

 

「隊長さんが変わったんですか?」

「いや、違う。今は第一陸戦部隊の隊長をやっているが、実質的には後方支援部隊の隊長も担っている。現在の隊長は逐一連絡して指示を仰いでいる状況だ」

「平さんの父親の権力が弱まったんですか?」

「倒れた。回復したが、以前の威勢はなくなってしまっている。表に出せない契約なんて、そんなもんさ」


 なんとどす黒い世界だろう。

 そんな世界に生まれたときから巻き込まれ、成す術もなく踊り続けるしかなかった唯。

 結果が、キヨモリの翼。

 なにかに突き放された気がした。

わかりづらかったかもしれません、申し訳ない。

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