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パートナー ~竜使いと竜殺し~  作者: MK
第一章 幼竜殺し
29/112

4-1 隠しごとと計画

のっけからですが、3-9の最後のほうを一部変えました。

目を通しておいてくださると、嬉しいです。



 夕日で真っ赤に照らし出されている廊下で、歩は慎一に声をかけられた。


「歩、今日も図書館行ってたのかよ」

「まあね」

「何この優等生。この前の模擬戦勝ったからって、いまさら何真面目ぶってんだよ~ 仲良くカンニングの研究に勤しもうぜ。いつものように」


「勝手に共犯者にするな」

「なんだよー。俺達友達じゃん?」

「おう。お前が捕まったときは声を上げて笑ってやるよ」


 慎一の隣には、彼のパートナーであるマオの姿があった。わしゃわしゃと首を撫でてやると、嬉しそうに目を細めた。尻尾をぱたぱたと振っている。なんとも可愛らしい。


 パートナーの可愛らしさを五分でも分けてもらえていたら、もっとなんとかなってるであろう慎一が、演技がかった口調で言った。


「なんてひどいやつだ。これだから竜使いは。いきなり昼飯の友じゃなくなったと思ったら、女のところ行ってるし。しかも平と能美の高嶺の花ツートップ。ぐれるぞちくしょう」

「俺はいつからお前の保護者になったんだ。友達じゃなかったのかよ」

「友人であり、保護者であり、唯一無二の親友。いいねえ。オンリーワンな関係じゃん?」

「はいはい」


「流すなこらー。もう少し親友との歓談を楽しめー。んで頼みを聞けー」

「紹介しろ、とかなら断らせていただく」

「言葉にせずとも分かりあえるとは、まさに親友!」

「はいはい」

「ナンダカツメタイネー ワタシ、カナシイヨ」


 片言になった慎一を笑み混じりに無視して、マオの首を撫で続けた。首周りの皺がなんとも柔らかく、気持ちがいい。

 慎一が更にいじけるのを見て、苦笑しながら言った。


「まあ口通し位ならしよう」

「本当か! 言質はとった。いざめくるめく官能の世界へ!」

「やっぱやめるか」

「ピュアボーイ宣言をさせていただきます」

「よろしい」


 区切りがついたところで、歩は立ち上がり、慎一たちに分かれを告げた。


 それから仮の宿になっている宿直室に戻った。


 宿直室のドアを開けると、ちゃぶ台を三つの影が囲んでいるのが見えた。


「ただいま」

「おかえり」


 みゆきが視線をちゃぶ台の上に乗せた資料から動かさず言った。

 歩は畳に上がり、ちゃぶ台の空いている席につく。抱えている荷物を脇に下ろした。


「収穫はあったか?」


 アーサーもまた視線は資料に向けたまま質問してきた 歩はいくつか手応えのあった資料をカバンから出しつつ、答える。


「いや、ない。やっぱもうあらかた探しつくした感があるな」

「大分読んだからね。もう当分活字は見たくない気分だ」

「そっちはどう?」


 みゆきは持っていた鉛筆でモミアゲの辺りを掻いた。


「ちょくちょくって感じかな。同じ記事も間をおいてもう一回見ると、感じが変わるね」


 そう言うとみゆきはふうと重い息を漏らした。ここのところずっと泊まり込みで調べ続けていたから、疲れが溜まっているのだろう。目も少し充血している。


「とりあえずお茶入れるから、三人とも休め。今夜から始めるんだから」


 直接調べているわけではないが、イレイネもずっと動いていた。アーサーの手の代わりとなりページをめくったり、みゆきの持ってきた新聞を運んだりしている。一つ一つの仕事は大したことないのだが、腕を文字通り伸ばし、マルチタスクをこなしているため、疲労度はそう低くない。


 部屋の端に移されていたコンロに近付き、火をつける。その上にヤカンを置き、急須と茶飲みの準備をしながら、歩は今日の夜行う予定の決戦に思いを馳せた。




 唯とキヨモリが襲われてから三日が経った。


 唯達はまだ入院中だ。唯は特に怪我をしていないが、キヨモリの傍から離れようとしなかったからだ。パートナーが傷ついた人にはままあることなので、病院も学校も許可を出している。雨竜も病院に泊まり込んで唯達の護衛の任を果たしているらしく、この三日間授業も全て休んでいた。


 一方の歩達はというと、幼竜殺しについて調べていた。身に迫った危険はなかったため、幼竜殺し自体についてよく知らなかった。相手するとなれば、まず相手のことを知らなければならない。


皮肉なことに、学校に泊まり込んでいることが幸いした。図書館にある新聞や雑誌を自由に見ることができた。古いものは立ち入り禁止の地下書庫にあったのだが、竜使いの特権はそこでも通用した。


 昼間は普通に授業を受け、放課後から寝るまで新聞と雑誌で幼竜殺しの情報収集、そして軽いトレーニング。その生活を二日続けた。

 そして今日。

 当初決めた期限だ。


 歩は淹れたお茶を三者に出した。みゆきには渋いお茶を、イレイネには薄めのお茶を、アーサーには中間の濃さのものを小さめの湯飲みで。

 適当に注いだ自分用のものをちゃぶ台の上に置いたところで、歩は皆に話しかけた。


「じゃあ最後のまとめしようか」


 伸びた腕が差し出してきたのは、大まかな幼竜殺しの犯歴と主な報道をまとめたファイルだ。これは歩が調べたもので、昨日までにおおかたまとめてある。


 最初の一ページ目は、新聞をコピーして抜きだした切りぬきだ。表題は『首都で竜殺し発生』


「最初の事件は今から十三年前。全焼したレストランから当時十七歳の竜使いの少年の遺体が発見された。竜の身体が跡形もなかったため、竜の身体を目的とした竜殺しと認定だれた。


 それから半年、立て続けに発生。竜使いの遺体だけが発見され、竜の身体が消え去っている事件が八件。その相手がまだ若い未成年であったこと、竜使いの死因がパートナーを殺されたことによるショック死だったことから、一連の事件は同一犯だと警察が発表し、『幼竜殺し』と呼ばれ始めた」


 十三年前というと、歩は幼稚園位か。

 それから十三年も経っていると思うと、ぱっと思い浮かんだ幼竜殺しの姿は、おどろおどろしい中年の男になった。


「幼竜殺しが特別なのは、人ではなくパートナーを狙うことにある。フィードバックを受けているとはいえ、人は竜よりも狙いやすい。竜の身体を狙っているのなら、綺麗に確保するという意味で人を殺して竜を回収するのが一般的だ。


しかし、幼竜殺しは人には見向きもせずに竜を直接狙っている。未だに捕まらない位完璧な犯行を重ねているということと合わせて、幼竜殺しが有名な理由だ。俺のは以上」

「じゃあ次私ね」


 代わってみゆきが口を開く。みゆきが担当したのは、幼竜殺しの犯行そのものの詳細だ。


「まず、幼竜殺しはその名の通り十八歳未満の若い竜を狙ったのが特徴。犯行については、時間と場所両方に規則性が見つからなかった。夜が圧倒的に多いけど、昼間の犯行もあった。捜査が難航したのはここも理由だね」


「昼間の犯行は山だったか? 林間学校でサバイバル訓練していたが、集合時間になっても見つからず、捜索したところ、遺体で発見。どうやったにしろ、一目につかないところでの犯行か」


「アーサー、みゆきの役目奪うなよ」

「暇だったのだ。仕方がなかろう」


 アーサーが眉間にしわを寄せながら口を挟んだが、みゆきは苦笑しつつ続けた。


「歩も言ったように、幼竜殺しは必ず竜そのものを狙うんだけど、それで竜殺しの傾向がかなり絞れた。


一般に、竜殺しの意図は四パターン。一、組織間のパワーバランスに関する政治的発想、二、竜の希少な身体を狙った金銭狙い、三、特定の人物および竜に対する怨恨、後は精神異常者による無差別テロだとかだね。

政治関連、金銭狙いは非効率な殺し方から除外。被害者に関連が見つからなかったことから、個人に対する怨恨もなし。後は竜全般に対する怨恨と異常者の犯行。


そうなると、組織的な犯行ではない。幼竜殺しは単独、もしくは少数による個人的な動機による犯行であると断定されるに至ったわけだけど」


 そこまで言い終えると、みゆきがちらりとアーサーは見た。それを受けて、憮然とした表情のアーサーが口を開く。


「そこで我の担当、警察の動きに関してだが、まるで何もなかった。神出鬼没で国内を転々としているため、出現位置の先読みは不可能。遺留物も特定できるものはない。

目撃証言は一つだけあったが、それもあやふやだ。二件目の犯行の際に、空を飛んで現場から去る影を第一発見者が見かけたらしいが、深夜だったため、よく見えなかったようだ。輪郭も覚えていなかったようで、わかったのは身体がかなり大きめだったこと、飛行可能なこと位しかわからなかった。

故に十三年たった今でも全く逮捕できておらん。賞金首にもなっておるのに、情報すら出てこないのだからな。大したものだ」


 幼竜殺しを褒める言葉とは裏腹に、アーサーは不機嫌そうに鼻をならした。成果が上がらなかったせいだろう。

しかしそれも当然だ。警察が捜査方法まで詳しく発表するわけもないし、そもそもが未解決事件だ。報道する側としても警察との協定で、捜索の邪魔になる情報は明かせない。結果が出てみてから考えると、初めから徒労に終わる可能性は強かったのかもしれない。


 歩は口を開いた。


「それで現在につながる。犯行が一時小康状態にあったりしたんだけど、最近になって一件あって、直後にハンス=バーレ、そして唯」


 キヨモリのもがれた翼と唯の能面を思い出す。なんとも言えない思いが湧きおこった。

 歩の内面を知ってか知らずか、みゆきがいつもと変わらぬ様子で言った。


「間が空いたことで模倣犯も考えられたけど、やはり人ではなく竜そのものを狙うのにデメリットが大きいことで、その可能性はない。捜査のかく乱だけじゃ釣り合わないね」


 竜の強さを目の辺りにしたことがあるものなら、おそらく皆同じ結論に至るだろう。歩も異論はない。

 ひとまず、仇は十年前からの幼竜殺しであることは確定したわけだ。


 だが。


「……三日調べてわかったのはこんくらいか」


 調べて歩達の計画に使えそうなのは、幼竜殺しの犯行の手口位だ。人気の少ないところ、飛行すること、それなりに大きな身体。その位のものは、全部初日にわかった。残りの二日間は前日の焼き増しを繰り返しているようだった。初日から手応えの無かったアーサーがいらつく気持ちもわかる。


「まあ、詳しく調べたおかげで手口に関してはわかったしね。それだけでも十分な収穫だよ」

「それはそうなんだがな」


 どうにも割り切れない、みゆきがまとめるように言った


「ひとまず最低限必要な情報はあるね。これで次の段階に移ることができる」


 おおよその犯行時刻、現場の状況、襲われた被害者の共通点。

 深夜、人気のないところ、それから未成年の竜。


「ああ」

「初めから駄目もとだったしね。これだけわかったなら、十分だよ」


 歩は頷いたが、実は他に調べていたことがあった。


被害者の大きさだ。アーサーのようなE級の身体の持ち主も被害者に含まれるかが気になったのだ。狙われたのは全て竜とはいえ、アーサーのような竜ではないとも言えるE級も狙うのか、心配になったのだ。


だが、それをアーサーがいる前では言えなかった。だから一人で調べた。


 いまその結果は、持ち込んだカバンの中にある。五番目と六番目の竜は、どちらもE級とまではいかないが、アーサーより少し大きい位だった。おそらく大丈夫だろう。


 本当に最低限だが、一応は情報が揃った。

 後は決行の時を待つのみだ。


 だが歩はここで一つ切りだした。


 アーサーの顔を向き、呼んだ。


「アーサー」

「なんだ」


 アーサーも歩の目を見てきた。大きな緑色の瞳には陰り一つない。強い意思を放っている。


「幼竜殺しに何故勝てるか、聞いたが答えなかったよな。ここまで来ても言わないか?」


 答えなかった。アーサーの瞳にも何も変化がない。

 ここに至ってまだ言わないか。


「言わないのは、計画の都合上言えないのか、他の理由か」

「後者だ」

「ならば周りのためか、それともお前個人のためか」


 ここで、アーサーの瞳に初めて不純物が混ざり込んだ。一直線に放射していた意思が、弱々しくぶれ、戸惑いの色を見せ始める。


 数秒止まった後、それでも歩から目線を話さないまま、アーサーははっきりと答えた。


「後者だ」


 歩は盛大にため息をついた。アーサーは変わらず歩に視線を向けてきていたが、先程までとはまるで違っている。気丈に胸を張ろうとしていたが、いつにもまして小さく見える。


 歩はアーサーを見たまま、みゆきに言った。


「みゆき、だってよ。死ぬかもしれない戦場に向かうのに、こいつは勝算を語ろうとせず、黙ったままだ。それも自分のためにだ。どうする?」

「どうするって?」

「本当に計画を実行するかどうか。今なら引き返せるぞ」

「やるに決まってるじゃん」


 みゆきは即答した。それを聞いて、アーサーの顔がゆるむのが見えた。なんとか強く、気丈にあろうとしていた糸が、ほつれたように。


「ここまで来てはないよ。それに、アーサーがどうでもいい理由で話せないとは思ってないしね。アーサーの個人的な理由にしても、聞けば肯定はできずとも否定はできないと思う」


 アーサーのすこし間抜けな顔を見て、歩はにやりと笑みを浮かべた。


「なら仕方がないな。よかったなアーサー」

「分かってたくせに。そう言う歩はどうなの?」


 みゆきのどこか楽しげな質問に、こちらも即答する。


「やるしかないでしょ。分かれ道はとっくの前に過ぎた。後は進むだけだ」

「また偏屈な答えしちゃって」

「パートナーのが写ったんだよ」

「意趣返し、すんだ?」


 アーサーの瞳の奥の虹彩が大きくなった。口が薄く空いており、よだれが垂れてきそうな感じだ。

 その口から、ぽつりと漏れる。


「そういうことか」


 歩は満面の笑みを浮かべて答える。


「なにがあろうと、ここでお前が理由を話さないのは、流石に駄目だ。このまま重大な隠しごとをされたまま黙って計画に乗るのは、色々違和感がある。この位、お前も追い詰められないとやってられんよ」

「意地が悪くなったな」

「お前につきあってるからな」


 茫然とするアーサーに向け、最後に強く言った。


「この場はこれですますが、終わったあと話せよ」


 アーサーは答えなかった。ただ歩の瞳を見てきていた。


「では始めましょう」


 みゆきの開始の言葉を合図に、歩達は計画を実行に移した。




長々と改稿を続けてすみません。

勝手なことですが、改稿したかったのはここらへんが理由だったりします。


この後の展開も前作とは少し変わってくるので、よかったらどうぞ。

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