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パートナー ~竜使いと竜殺し~  作者: MK
第一章 幼竜殺し
25/112

3-8 宴の後




 七つの色が歩達をほのかに照らしていた。


七色の火花が弾け、綺麗な円を作っていた。緑ががった黄色の光が、唯の満面の笑みを浮かび上がらせている。その隣で巨躯を窮屈そうに縮めつつも、両手と口に薄緑の花火を持ち、リラックスした表情のキヨモリ。そっくりな一人と一体はそれぞれ赤青二色に照らされ、優しげな表情を淡く色づいていた。


 しかし線香花火の命は短い。夜風にゆらされ、ぼつん、と火のしずくが落ちて、途端に薄暗闇の世界に戻された。

 これが最後の花火だ。


「終わっちゃったね」

「そうだねー」


 祭りの後、といった感じだ。花火はカバン一杯にあったが、夢中になっていたせいで、一瞬で終わった気がした。まだまだ物足りないが、もうないのだから仕方がない。


戻ろうか、と歩が言おうとしたが、先に唯の声が響いた。


「そうだ! 私、買ってくるよ! キヨモリでひとっ飛びだし! 駄菓子屋ならまだ空いてるよね?」


 確かにいつも世話になっている駄菓子屋なら、二十四時間だし、花火も置いてある。

 だが、時間はもう夜中で、人通りはほとんどないだろう。そこに唯とキヨモリを行かせるのは流石にできない。実感は余りないが、自分達は幼竜殺しに狙われている。


 それがわかっているのはみゆきも同じようで、口を開いた。


「もう時間遅いからやめよう。行くとしても、私とイレイネが行くよ」


夜中に女子学生が出歩くのはいいことではないが、まだ唯達が行くよりはマシだ。みゆき自身、少し物足りなく思っているのかもしれない。

 しかし唯は少し困ったような笑みを浮かべながら、言った。


「大丈夫だよ。この位大丈夫だって。ちょっと飛んでくるだけだから」

「それでも、危ないでしょ?」

「それに実際会っても、私とキヨモリなら負けないよ。歩とアーサーには負けちゃったけど、これまで一度だって負けたことなかったんだから」


 さすがに止めようと、歩は口を開こうとしたが、止めた。

唯の瞳が少し潤んでいるのが見えたからだ。

歩とみゆきが何も言えないでいると、唯が照れくさそうに言った。


「それにさ、楽しいんだ。本当に。私はご飯作る時も何もしてなかったし、ただ食べて、遊んだだけじゃん。参加したいんだ、私も」


 唯の声は震えていた。内心を吐露したせいだろう。それだけに、唯の言葉には真に迫ったものがあった。心からの言葉であることは明白で、歩は何も言えなくなってしまった。

 沈黙が続いた後、みゆきが口を開いた。


「でも危ないよ。私が行くよ。また次のときがあるよ」

「ごめん、みゆき。行きたいんだ。このままだと私はお客さんで終わっちゃう。私も何かしたいんだ」


 歩と同じ心境だったろうが、それでも覚悟を決めて止めようとしたみゆきも、それを聞いて黙ってしまった。

 冷たい風が吹きすさぶ中、みゆきと歩をすっと見た後、唯は言った。


「じゃあ、行ってくるよ! キヨモリ! 行くよ!」


 その場の空気を理解できなかったのか、きょとんとしていたキヨモリだったが、唯がざっと飛び乗のると、ぱっと翼を広げた。そのまま空に飛び上がり、二人の影はまたたく間に遠くなっていった。


「唯! 気をつけて!」

「危ないと思ったら、すぐに引き返してね!」


 歩とみゆきの声が聞こえたかはわからなかった。


 残された歩とみゆきはしばらくその場でじっとしていた。途中で、風を防ぐようにイレイネが身体を広げてくれたせいで、余り寒くはなかった。

 みゆきが口を開いた。


「良かったのかな」

「……さあな」

「……だね」


 唯が飛び立ってから、時がたつほどに後悔は積もっていく。


 それからみゆきと話すこともなく、風が唸る音だけが歩の耳に響いていた。花火の焦げくさい匂いは消え去り、初春というにはまだ厳しい空気が鼻を刺激する。空を見上げると、厚い雲が漂っており、月の姿はまるで見えなかった。


五分ほどたったころ、雨竜の声が聞こえてきた。


「平とキヨモリはどうした?」


声の方に振りむく。その顔は心なしか青い。

 正直に話しをすると、雨竜が片手で耳の上あたりを掻きながら言った。


「どうして止めなかったんだ!?」

「すみません」


 今になってみれば、なんとか止めればよかったと思うが、出来なかった。

 更に怒鳴られるかと思ったが、雨竜はそれ以上続けず、冷静な声で言った。


「とりあえず、私は追い掛ける。お前らは中に入っててくれ」

「すみません」

「いや、悪いのは私だ」


 そう言うと、雨竜は室内履きのまま中庭に降りると、中を抜けて外に走っていった。

 残された歩達は、待つ以外できることはない。どうか、凶報だけは届きませんように、と祈るしかなかった。



みゆきの独白部分を修正しました。

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