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パートナー ~竜使いと竜殺し~  作者: MK
第一章 幼竜殺し
22/112

3-5 宴




 買い出しは予想以上にあっさりと終わった。

 教師達に見つからないよう表からではなく、学校の塀を乗り越えて外に出ていったのだが、誰にも咎められなかった。当初はキヨモリに乗って、空を飛んで行こうと考えたのだが、飛行禁止令がでているらしく、断念した。幼竜殺しの一件らしく、普段飛行許可をもらっている唯には話が来ていたらしい。


 近くの商店街に行き、買い物を済ませた。顔見知りの八百屋のおじさんに、両手に花と言われたり、唯がちんちくりん扱いされたりしたが、特に問題は起こらなかった。問題なのは、アーサーが酒を買ってきたこと位か。


 帰りも行きと同じようにしたのだが、難なく帰りついた。本当に呆気なかった。


 そして今、料理をしている。コンロと大きい鍋があったので、冬も過ぎかけていたが鍋にした。手軽だし、キヨモリの分も作りやすいからだ。キヨモリには学校に置いてある専用の肉があったが、やはり一人参加させないのも寂しいだろうからという判断だ。分量の問題もあり、肉のほうも食べるが、やはり食べた感覚位はキヨモリも欲しかろう。


 まな板代わりの厚紙の上で、果物ナイフが次々とより分けていく。地鶏の堅い肉質を、ちゃちな果物ナイフで切れるか心配だったが、みゆきはなんなく捌いていた。包丁の事を失念していたが、なんとかなりそうだ。イレイネがところどころ補佐をしながら、効率よくどんどん肉類を小分けしていっている。

 歩も手早く野菜を水にさらしていく。きのこ類は表の汚れだけをぱっと拭い、葉物を適当にちぎっては皿に盛り付けていった。


 そして唯はというと、おろおろしていた。

 ちらっと見ると、自分にすることは何かないかと言った感じで挙動不審になっている。料理ができず、自分が役に立てていないのを申し訳なく思っているのだろう。


「唯、これ持ってって」

「あ、うん!」


 盛り付け終わっている皿を唯に渡した。元気よく受け取ると、唯はちゃぶ台の方にぱぱぱ、走っていき置いた。歩の受け持ちは終わったので自分で持っていってもよかったのだが、唯の顔を見ると頼んでよかったように思う。


「こっちも終わったよ。唯、アーサー、お願い」

「うむ」


 みゆきが唯に皿を渡した。肉が山盛りになったものと、切り分けた野菜の二つだ。洗い場にはまだまだたくさん残っているが、全部持っていくと邪魔になるからだろう。


「じゃあ、私、鍋の方に移るから」

「よろしく」

「アーサー、できた」

「うむ、至極の出来だ」


 アーサーはちゃぶ台の上でタレを作っていた。舌が肥えているアーサーは、細かい味見が得意で、ソース作りなどは類も任せることがある位だ。

 まだわだかまりのあるアーサーを横目に、歩も自分の仕事を再開する。まだ大量に残っている具材の内、痛みそうなものだけ冷蔵庫に移した。使った厚紙や包丁を水で丁寧に流し、壁に立てかけておく。


 ざっと後始末を終え、ちゃぶ台に戻った時、既に準備は完了していた。

 醤油と酢を混ぜて作ったポン酢の入った小皿と取り皿が並び、中央の鍋の中では、昆布で出汁を取ったのだろう、ほんのり黄色に色づいた液体がゆだっていた。火の通りにくいものは既に投入しており、ぐつぐつと煮えていた。


「じゃあいただきますか」


 適当に座る。歩とアーサー、角度を変えてみゆき、その後ろにイレイネ、歩と対面になる位置に唯。キヨモリは目をしぱしぱさせて唯の後ろに座っている。


「ではいただきます」


 みゆきの掛け声で、一斉に箸が動いた。鍋に入れられた箸の数は四つ。イレイネとキヨモリを除いた数だ。

 さっと豚肉を取り、ポン酢に着け、口に含む。美味だ。


「美味しい! やっぱみゆきって、ほんと料理うまいね!」

「あんま手はかけてないけどね」


 イレイネにだし汁を注いだ器を渡しながら、みゆきが言った。

 唯が美味しそうに鍋に箸を突っ込んでいると、唸り声が聞こえてきた。

 キヨモリだ。


「ああ、ごめんごめん」


 唯は忘れていた、と笑いながら立ち上がると、冷蔵庫の方に走っていった。

 中から取り出したのは、巨大な肉の塊。帰って来てから、キヨモリの待機室から取ってきたらしい。歩が野菜を洗っている時にそれを持って戻ってきたのだが、その量を見た後、一日分といった唯の言葉に納得しながらも圧倒された。


 それをキヨモリの前にどん、と置いた。下はそのまま皿になっており、キヨモリはそこに口を突っ込んでむしゃむしゃと食べ始めた。


「キヨモリの分も鍋あるから、食べ終わったらあげるね」


 巨大な鍋は、今なかに入れている分だけでも四人が満腹になる量がある。洗い場や冷蔵庫にまだ大量に残っていることを考えれば、確かにキヨモリの取り分はそう少なくない。


「ごめんね、キヨモリが大食らいで」

「いえいえ」

「たまにはよかろう」


 隣でアーサーがほくほく顔で白菜を口に入れる。至福そのものといった表情を浮かべた。器の隣には封を開けられたウィスキーの瓶があり、小さめのグラスまで用意されてある。


「飲み相手がいると最高なんだがな。誰か呑まぬか?」

「ここには未成年しかいねえよ」


 思わずアーサーに突っ込みを入れた。


「イレイネやキヨモリならよかろう」

「お一人でどうぞ」


 アーサーがしょぼん、と肩を下ろし、熱い地鶏を口にして目を白黒させている。それを見て、笑いが巻き起こった。


 それからは和気あいあいとした時間が過ぎていく。

 途中、アーサーがイレイネにも酒を飲ませ、輪郭がぶよぶよになってしまったり、鍋の入れ替えを待てないキヨモリが残っていた弁当を、本人はこそっと動いたつもりのようだが、実際には豪快に一気食いして唯に怒られたり、楽しいことばかりが起きる。途中、歩はアーサーへのわだかまりを忘れていつも通りツッコミを入れている自分に気付いた。


 不謹慎かもしれないが、竜殺しに対する感謝の気持ちすら起こりはじめた。

 それくらい楽しい時間だ。



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