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パートナー ~竜使いと竜殺し~  作者: MK
第一章 幼竜殺し
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3-1 模擬戦の顛末




 歩は唯達との模擬戦に勝った。

 だがもう一つの勝負には負けた。

 その代償がいま歩の手の中にある。


「歩、買ってきたか?」

「……おう」


 手にもった紙袋は、昼休みになるなり、校外へひとっ走りして買ってきたものだ。教室棟四階にある空き教室で待っていたアーサーに、それを差し出す。

 アーサーは両手で受け取るなり机に飛んでいき、紙袋を破り開けた。


 中身は特製の肉まん。小学生との一件もあった駄菓子屋のものだ。大きさは通常の半分もないのだが、値段は一つで五倍以上。『ネタでつくった』らしく、値段を考えずに材料を吟味したとのことで、前日の予約必須の非常にプレミアムな代物だ。


 それが紙袋の中に五つ。勝った代金は全て歩持ち。

 アーサーが袋から肉まんを取り出すと、デフォルメされているような三頭身の身体で、短い両手を必死に伸ばして肉まんを取り出し、大口を開けてかぶりついた。

途端に大きな目が蕩けた。見ている方までも嬉しくなるような、そんな素直な反応だ。こういうときに限って、こいつは小動物特有の愛らしい反応をする。本当に卑怯だ。


「ふむ、上手い。勝者の味よな」

「……クソババアめ」

「誓約書は絶大よのう」


 模擬戦は歩もアーサーも働いた。直接キヨモリと戦って勝った歩は勿論、アーサーの指示はいつもよりキレていたし、最後唯に炎を吐く機転は、悔しいながらも見事だった。


 そうなると歩とアーサーの話し合いで決着がつくはずもなく、勝者は類、みゆき、慎一にゆだねられた。

 みゆきと慎一はお互い頑張っていたで棄権した。少し不満ではあったが、まあ仕方がない。


 残された類が決めた勝者は、アーサー。歩が不満をいうと、類はきっぱりと答えた。


「『いつもより働いた』って仮定なら、アーサーでしょ」

「でも! 相手竜だよ!? 直接戦った俺だって」

「まず決定打を生み出したのはアーサー。指揮官として、勝ち目のない戦いに機転でもって勝機を生み出したのは、十分特別な働きだね。対するあんたは、竜相手に対峙して勝った。確かに十分以上の戦果」

「なら」

「だけど、あんたが傷だらけになるのも、自分より強い相手と戦うのも『いつも』でしょ。強さの度合いは違うけど、『いつも』死に物狂いでやってるあんたなら『働き』一点で考えるなら『いつも』との違いに関してはアーサーに劣ってしまう。アーサーは『いつも』は物理的に戦うことはないんでしょ?」

「いや、でも」

「恨むなら馬鹿な前提呑んだ自分を恨め」


 肩を落とす歩とは対照的に歓喜にわくアーサーは、特製肉まんをリクエストしてきた。


 歩も金欠だったため、奢りは一週間後の今日まで伸びたが、その分アーサーの要求は強いものになった。


 今日の昼食は、白米+たくあんだけという時代錯誤なもの。冷蔵庫にそれしかなかったのだ。


 馬鹿だった自分と類と目の前のアホを呪いながら肩を落としていると、落した肩にぽん、と手を当てられた。


「私の弁当、少し食べる?」

「……みゆき……ほんとに?」


 みゆきだった。

 少し楽しげに苦笑していたが、今は素直に嬉しい。

救いの手が差し伸べられたと思った矢先、アーサーが口を挟んできた。


「賭けに負けた分際で、他人に憐れみを乞うか。敗者ならば粛々と罰を受けるのが道理ではなかろうか?」

「別に憐れんでるわけじゃないよ~」

「どちらにしろ救われているのに変わりない。昼飯を抜いた位では死にはせん。そもそも賭けごとという勝手きわまりない行為で受けた罰だ。なのに助けを乞うなど、いつから腑抜けになったのか」


 肉まんから決して手を離さず、にやにやしながら煽ってくるアーサーを見て、伸ばしかけた手を止めた。腑抜け云々はともかく、これから当分このネタで煽られるのかと思うと食べられないが、やめたところでアーサーの手のひらで踊っているようで気持ち悪い。

 歩は悩んだ結果、みゆきに丁重に断りを入れた。


 ひもじくたくあんにかじりつく。

 敗者の味がした。


 呆れたような声が聞こえてきた。


「あんたら、いつもこんななの?」


 口に物を詰め込んでいた歩とアーサーに変わり、みゆきが愉快そうに答えた。


「面白いでしょう?」

「面白いとはなんだ。野郎のプライドをかけた熱い戦いであろうに」

「はいはい、分かりづらい冗談はやめようね」

「我は冗談など言わぬ」


 アーサーの言葉をみゆきが流したところで、近くにあった机が二つ歩のそれにくっつけられ、そこに二人の女生徒が座った。


 一人はみゆき。後方には液状の栄養剤をもらっていつもより張りのあるイレイネ。

 もう一人は――


「唯さんも私の弁当つままない? 今日少し量多めなんだ」

「あ……、ならちょっとだけ」

「どうぞ」


 後ろにキヨモリを控えさせた竜使い、平唯だった。


短めですが、きりがいいので

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