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パートナー ~竜使いと竜殺し~  作者: MK
これまでのあらすじとこれからのあらすじ
112/112

これからのあらすじ その3









「ごめんなさい疲れてしまいました。続きは明日に」


マザーの一声でその日は終わった。自分たちをこの場に連れてきた龍に先導され、アーサーの元へ。


道中、戦線の様子が気になり、聞いてみると、紺碧の龍は意外そうな声を上げた。


「図太いやつ」

「恥ずかしいことだけど、こういうのには慣れた」


竜殺しの竜とか太古の昔の兵器だったとか、ここに来るまでに色々聞かされすぎたし、考えすぎた。いざアーサーの生まれや過去が確定しても、驚きより納得のほうが強い。


「それで今起きてる戦争の状況は?」

「残念なことに、今の戦争については大したことを知らない。マザーに聞いても同じことだ」

「龍も一枚岩ではない。龍殺しの竜については、マザーの強い希望故、情報が来ただけだ」

「別の一派がいるってこと?」

「お前らには関係ない」


しゃべりすぎたとでも言うように、それから紺碧の龍は一言も発さず、アーサーの元へ着いたらすぐにどこかへ飛び去った。天然の洞窟を用いた牢屋で、武装龍の見張り付きだが、藁が敷かれた床は居心地が悪そうではない。アーサーは手乗りドラゴンモードで落ち着いている様子。


「やつらに何もされなかったか?」


体調はどう、と尋ねたら、質問が返ってきた。

ただ色々説明を受けただけ、というと、そうか、本当に気を使われておるのだな、と呟くように言った。言われてみればそうだ。誘拐されたとき、アーサーは首を噛まれて失神させられたのだが、今アーサーの首に出血は見られない。


『気を使われている』。


「この後に及んで、俺たちになにがあるんだろうな」

「聞かなかったのか?」


歩はマザーに聞かされた内容をアーサーに話した。龍の存在、マザー、人類と龍の戦争、DSシリーズの誕生。


アーサー=DSベータは確かに兵器として生まれた、と告げられたとき、アーサーはほとんど動揺しなかった。驚かないんだな、と聞くと、戦争相手の話なぞ真に受けられるか、と吐き捨てたが、多分実際は自分と同じだろう。慣れた。


「で、我らを連れてきた理由までいかず、また明日と。相変わらずお前はバカだな」

「お前は役立たずだな。一撃でやられて寝てただけ」


いつものやりとりでその日は終わった。


翌日。武装龍に連れられ、マザーの元へ。昨日と同じく、紺碧の龍とマザーとの三者面談。


「あまりショックを受けていないんですね」


マザーが不思議そうに言う。これも『気を使われている』のか。

慣れていますから、というとマザーは、そうですか、とだけ柔らかい口調で言った後、前日の続きを話し始めた。


「ヒトが生み出した狂気の兵器DSシリーズ。その一つ目のDSアルファは機械兵でした。盗んだ宝玉そのものではなく、その解析結果を元に製作した炉を搭載した代物です、それまでの兵器とは隔絶した出力を備えていました。実際、彼らの登場で戦況は拮抗しました」


「しかしそれも一瞬だけでした。欠陥が多すぎたのです。力をフルに発揮したときは私たち知恵ある龍とも互角に渡り合いましたが、その機会は戦争を通して数度だけ。いつもどこか故障、しかし製造には非常にコストがかかって他が疲弊、なのに炉はダメージを受けるとすぐに爆発……カエルの子はカエル。コピー品でも彼らには扱い切れないものでした」


「私たちにとっても手こずる相手でしたが、それ以上にあなたたちは手を焼いたようで、戦線はむしろ開発以前より後退しました」


「そして次に着手されたのがDSベータ、つまりあなたのパートナーであるアーサーです」


そこでマザーは一度言葉を切った。探るようにじっと歩を見つめてくる。思うところは何もありません、続きを、と促すとマザーは前と変わらぬ語りを始めた。


「正直、アーサーが現れて初めて、私たちはまだまだヒトを侮っていたことに気づきました。彼らの文明が生命の創造にまで達していたなんて、誰も可能性すら思慮の内になかったのです。DSアルファで自壊していく姿を見て、この程度と知らぬ内に決めつけていました。ヒトの文明の発展力は私たちの創造を遥かに超えていました」


「技術と材料があれば、宝玉からDSアルファを作りだした彼らが、龍からアーサーを作る発想に至ったのは自然でした。唯一殺せた私の子の一部から、どうやったのかわかりませんが、龍と戦うとき以外は無力化する機能までつけて、龍殺しの龍を作り出したのです」


「これがあなたのパートナー、アーサーが生まれるまでに至った経緯です」


質問はありますか、というマザーの問いに、少し整理をする時間をくださいと言うと、マザーは目をつむってその場にうずくまった。


――いくら経っても大きくならない手乗りドラゴン

――龍への敵意をあらわにしたときだけの、龍殺しの龍モード

――絶えない龍への食欲

――インテリジェンスドラゴンは一体だけ、アーサーは一体だけの種族

――太古の昔、龍との戦争で狂気に暴れた

――知恵ある龍の末弟、そのコピー品


だいたいの疑問に答えが返ってきた。牙がヒトに向けられないようの安全装置、逆に牙を龍に向けるための餌、龍殺しの龍の過去、そして生まれ。ここ数年、腹の中にあったしこりが消化されていくような気がした。腹の奥底に向かってすっと消えていく。視界はクリアになり、音は澄んで聞こえる。なんだかすっきりとした。ただし以前の光景と音とは違っていた。目も耳も、影ばかりを追ってしまう。


「龍殺しの龍が量産されなかった理由はわかりますか?」


マザーからの返答はなかった。代わりに紺碧の龍が、わからない、当時、我らも同じ疑問を抱いたが、確実な答えは手に入らなかった、と答えた。


「予測を聞いても?」

「――我らは量産できなかったと結論づけた。それくらいしか、理由がない。まともに育ったのは一体だけだったと」

「アーサーは強かった?」

「所詮は一体だけ。ただ戦争の最後まで前線の一番前にいた」


はっきりとした答えではないが、理解した。つまりはそういうことだ。負けたやつは最後までその場に立つことはできない。歩はなんだかほっとした。なぜかはわからない。


「質問は以上です。続きをお願いします」

「意外です、自分たちの源流にかかわる疑問への答えを聞かされて、そんなにさらりと流すなんて」


嘘だと否定もせず、悲嘆にもくれないとは、というマザーに、歩はマザーとの問答を思い出した。


『なぜ俺たちをここに連れてきたのか、先に聞いても?』

『私の話の後で言います。すべて知ってから、聞いてほしいの』


多分、慣れだ。これまでいろんな事件に巻き込まれてきたからわかるのだ。

これから先の話が、これからの自分たちの運命を決めると。

他にかまっているうちにも自体は進んでいく。より悪いほうに。

今優先すべきはこちらだ。


歩は何も言わずにマザーに話の続きを促した。マザーもまた何も言わず、話を再開した。


「DSベータ、つまりあなたのパートナーであるアーサーの力は本物でした。知恵なき龍をよせつけず、知恵ある龍と伍する力。ヒトの劣勢は緩和され、戦争は膠着状態になり、一年ほどの間、大きな変動なく戦争は進みました」


「ですが、後になって考えたら、このときが最も戦争が変質し始めていたころでした。成功したことで、さらなる軛を解いて加速する人類と、種族の絶対的地位を脅かされた龍。あらゆる関係者が極限の切迫感を抱いて日々を送っていく中で、徐々に生まれてくる感情がありました。そしてその象徴がDSガンマです。それはあなたも既に対峙したことがあります」


「『狂気』。その感情を源泉に生まれたのは、龍だけでなくあらゆる生物の能力を取り入れた、最強の生物兵器でした。彼らは食べることで、相手の能力を奪うことができたのです」


歩は運命を呪いたくなった。

すべての始まり、アーサーが初めて龍殺しの龍となったあの騒動。

あのとき、四つあるDSシリーズの内、三つがそろっていたのだ。


「キメラ。それが戦争を最も悲惨なものに仕上げた、三番目のDSの名前です」


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