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パートナー ~竜使いと竜殺し~  作者: MK
これまでのあらすじとこれからのあらすじ
110/112

これからのあらすじ その1






「私も一緒に戦う!」


歩は小型の龍に包囲されていた。小型といっても二メートルほどで、武装しており、槍を人のように巧みに扱っている。数はおそらく百単位。


そんな中で自分に何ができるか? そう思いながら、みゆきはその中に飛び込んだ。私がすべきなのは、歩の味方であり続けること。誰かを説得するなんておこがましい。私にできるのは、歩の傍に居続けることくらいだ。たとえ彼が殺龍に狂っていたとしても。


当初、歩はみゆきを避ける素振りを見せていたが、そんな余裕はない。だがそれはみゆきも同じかそれ以上で、自分のパートナーであるイレーネと二人で凌ぐことしかできず、歩を庇うどころではない。


また失敗した、せめて足手まといにならないように。そう思って必死に戦っていたみゆきだったが、龍の数と力は強大で、次第に追い詰められていき、囲まれた。イレーネも剥がされ、槍が自分の体を貫く、その瞬間、みゆきを助けたのは、歩だった。


「バカ」「お互い様」


そう言って背中を預け合わせた二人。やれる。そう思ったみゆきの上空に、大きな影が差してきた。龍殺しの竜モードのアーサーだった。隣にはリズとリンドヴルムの姿もある。


「周りを片付ける」「もう少しだけ頑張って」


アーサーが空中から地上に紅蓮をまき散らし、その邪魔に来る翼龍をリズが対応する。その下で、みゆきは歩と背中合わせに戦っていく。人のそれとは思えない歩の動きに、みゆきは楽に呼吸を合わせることができた。みゆきのよく知る歩の戦場の舞踏、その延長線上にあったからだ。


この歩は私の知るのとは違う。でもまるっきり違ってもいない。


状況はいつ死んでもおかしくない。命から指五本ほど先を龍の牙が通り過ぎていく。何度も、何度も。でもみゆきは負ける気がしなかった。


しばらく戦った後、アーサーとリズに助けられ、歩とみゆきは離脱した。




ひとまず休憩にと離れた森の一画に一同は降りた。アーサーは元の手乗りドラゴンに戻った。どこかこそばゆい時間が流れ、全員の息が平常に戻ったころ、リズが問うた。


「何があったか教えて」


歩がアーサーをちらっと見た後、言った。


「アーサーの記憶が蘇った。龍殺しの竜として、戦っていたころの」






そのころ、遠く離れた地にて。


聖竜会の一員になった唯は、竜使いの重鎮に秘密を打ち明けられていた。


「なぜ聖竜会が龍の実態を隠していたか、頑なに旧態依然としたままでいるか、その問いに答える」

「契約があるのだ。今我らが戦っている龍の親玉との。四十年前に、現会長がやつらと交わした契約が」

「四十年前、我らは完膚なきまでに思い知らされた。やつらには絶対かなわないと」

「やつらには秘めた力がある」






「龍殺しの竜としてのはっきりとした記憶はない。感覚だけがはっきりと残っている。龍の血と泥の味が、痛みが」


重い口を開いたアーサーの横で、歩は口の中に湧いてきた唾液を飲み込んだ。

アーサーの記憶は歩にはまったくない。だが感覚は歩にも伝わってくる。龍の血をかぐと、腹が鳴るのだ。


「我は太古の昔、龍と戦っていた。喰らっていた」

「おそらく、戦争だった。後ろには人間がいて、前には龍がいた。横にも後ろにも竜はいなかった。我は唯一の人間側の竜であった」

「理由はわからない。覚えているのは一つだけ、龍の肉と血の味のみ。我が糧は同族の血肉だった。呪われた存在だったのだ」


「だから俺たちはここで生きることにしたんだ。俺たちができるのは龍を殺すことだけだと思ったから」

「でもさっき思い知らされた。俺たちはそう思い込んでいただけだ。悲劇に酔っていた」


なら戦争の場から離れるのか、というリズの問いに、歩はアーサーと無言の確認の後、首を振った。この戦場を放置することなんてできない。


「ただ桐谷に話をする」

「我らを誘拐した犯人だ」


みゆきとリズが息を呑んだ。桐谷は有名だ。機械部隊の隊長、竜社会の中に唐突に頭角を現した非竜使いとして。


「彼が、どうして誘拐なんて?」

「やつは太古の昔、龍と人とが全面戦争していたころの情報を持っていた。その中にはDDS――ドラゴンオブドラゴンスレイヤーのものもあった」


「DSとは太古の人類が龍に対抗するために開発した生ける兵器だ。絶滅寸前の人が作り出した、あらゆる禁忌を破った人類の砦。そして現在はパートナーの一部として、人とともに生まれてくる。機械族と我だ。DDSとは龍を殺すための龍、という揶揄を込めた呼称らしい」

「隊長の機械族のパートナーにはその情報が残っていたらしく、独自にDSシリーズを集めていたらしい。話が竜使いたちには都合の悪いからと」


「我と歩を誘拐したのは、会長の庇護下から連れ出すため。なにやら聖竜会の会長は我らを戦いから遠ざけようとしているらしい。隊長にも接触を禁じていた。だが『隊長』は戦争の激化を予感したため、手段を選ぶ暇はないと強襲誘拐に至った」


アーサーから説明を受け、二人は納得したようだった。龍殺しの竜と同系統ならば、突然の出世もおかしくない。

だが、そう話した当人、アーサーは彼を胡散臭く感じだしたようだ。


「何かまだ隠している。裏があるとしか思えない」


何はともあれ、彼に話をしてみよう。今までの無理な戦い方を変えてもらい、まだありそうな秘密に探りをいれる。




十分な休憩をとった歩達は、陣地へ戻ることにした。


「龍の大群を抜けることになる。疲れているだろうが、気を付けて」


いろいろ準備をして飛び立った歩達に、しかし龍が襲い掛かってくることはなかった。見える龍の姿は地に伏した屍のみで、残るは蹂躙された大地。無数にいたはずの飛竜も影すらなくなっていた。歩達を難なく陣地へ戻れた。


陣地ではすでに戦後処理が始まっていた。あれほどの負け戦の後、被害は甚大と覚悟していたが、予想より被害は少なかった。どうも龍たちは途中でいきなり引き返したらしい。


「やつらいきなりビタっと引き返しやがった。わけがわからねえ」


味方の救出や、陣地再構築の手伝いなど、歩達もそれぞれ戦後処理に参加する中、二つの情報をそれぞれ手に入れた。


一つはここには機械部隊の隊長はいないこと。そしてもう一つは、機械部隊そのものがいないこと。


歩はまだまだ続くであろう「先」に身構えた。まだまだ終わりそうにない。


それから一週間は何も起こらなかった。龍の再襲来もなく、いなくなった機械族の居場所もわからないまま。竜使いの部隊の立て直しだけが遅々として進み、歩たちは動こうにも動けない。緊張の糸が解けそうになる、そんな日々は唐突に終わった。


聖竜会会長が現れた。





その日、朝から竜使いたちが浮足立っていた。年配の人が特に顕著な様子だった。


「会長が来られるらしい」


中でも特に興奮した様子の初老の人に聞いたところ、昔、会長が前線に立っていた姿を見たことがあるらしい。竜使いの中の竜使い――史上最も前線を押し上げた人物にして、最強の竜使いにして、竜使いの王。


歓声が上がる中、部下を引き連れて陣に入ってきたのは、初老の男だった。中背で白髪にくたびれた肌で柔和な表情、だが立ち姿は周囲の竜使いの誰よりも芯が通っている。後ろには、唯の竜、キヨモリを一回り大きくしたような竜。隔絶した威厳を持っている。周りの歓声に応える姿は、まさしく王だった。


それから少しして、その王に歩は呼び出された。ついてくるのはアーサーのみで、リズとみゆきとは分断されるた。指定された場所は、ぼろぼろになった前線。そこには他の竜使いと同じく、戦闘衣装に身を包んだ会長がいた。首から上と肌以外は、闘士のそれだ。


「なぜ我らを庇護するのか」

「聖竜会会長がここに来た理由は二つある」


アーサーの問いに答えず、会長が言う。


「一つはここの鼓舞。もう一つは被害を確かめるため」

「だが、実は私個人の理由もある」

「私と戦ってほしい。竜と竜、人と人、それぞれで」

「見極めなければならない。竜殺しの竜の価値を。こちら側に引き留めることが人類にとって益となるかそうでないか」

「私に勝ったらすべての疑問に答えよう」


慇懃な口調に、歩達は首を縦に振った。


正直、負けないだろう。そう思って受けた歩だったが、実際に戦ってみて自分のおこがましさを知った。龍を屠ってきた自分と、目の前の老人は完全に渡り合った。突き出した槍は完璧に受けられ、振るわれた剣はすんでのところでしか避けられない。それは竜殺しの竜として変異したアーサーも同様だ。食竜の衝動を抑えながらの戦いではあったが、目の前の老人と老竜は今まであったどんな竜使いよりも強かった。


決着はいつまでもつかなかった。歩は次第に楽しくさえ感じ始めていた。


終わらないでほしい。いつしかそう思い始めていた戦いは、唐突に終わった。


乱入者が現れたのだ。


「契約の時が来た。龍殺しの竜をもらい受ける」


そう言ったのは、龍だった。龍殺しの竜モードのアーサーより一回り大きな、紺碧の龍――インテリジェンスドラゴンだった。






時は数時間前にさかのぼる。


全く別の二つの場所で、それぞれいくつもの影がうごめいていた。


一つは巨躯の龍たち。


「あの子だわ。迎えに行ってあげて」

「あんな忌み子をなぜ。まだこだわるのですか」

「私の最後の子――生まれは私のおなかの中でなくても、彼は私の子。あの子の分身なのだから」

「――すべてはマザーのために」


もう一つは、人と機械。それと――キメラ。


「会長が動き出した。おそらくやつらもだ」

「仕事はするわ。なに一杯食べていいんでしょ?」

「右竜、彼女に協力してやってくれ」

「――」

「右竜、話したとおりのことがこれから起こる。俺たちに手段を選ぶ自由はないんだ」

「――わかった」


右竜の目には、彼の顔が映っていた。

機械部隊の隊長、桐谷の顔が。

おだやかで切実そうな口調とは裏腹に、その顔は悪魔のようににんまりと歪んでいた。


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