視線
天井を見るともなしに見つめるのであった。そのあいだを遮るように、笑んだ女の顔があったが、それにはさほど魅力を感じない。彼女が私にまたがっている故にも、興味がない。しなやかな己の肢体を惜しげもなく私の前で晒しているが、妖艶とは云いがたい。
女の手は私の首に伸びている。細く、白い腕の先、両のてのひらが私の首をつかんでいるのだ。女はじゃれつくようにして笑っているのに、私は何ら表情を変えず天井ばかりを見ている。少なくともこの現状に於いては、浪漫やエロチカといった雰囲気はない。或いは快楽だという者もいるのだろうが、私には寧ろそれよりずっと性質の悪いもののように感じられる。それらをただ情と呼んだり心と呼んだり、はたまた愛と呼んだりと、一言で片づけてしまおうとするには腹の立つほど物足りなさを覚える。
喉元へあてがわれた指先に、くっと力がはいるのを見つめていた。だが、不思議と苦しくはない。ただでさえ折れそうなくらいに細い指が、本当に折れてしまうのではないかと思うほど反っているというのに、私はそれに何の悶々とした気が起こらない。少し不快な気もする。しかし、ただそれだけのことなのだ。
だらしなく開いた私の口から、つと一滴の唾液がこぼれた。
女は手をはなそうとしない。笑みも絶やさない。
私はじっとして動かず、見るともなしに天井を見つめている。
その姿が一層、女を喜ばせた。
あぁ、殺意のないことが救いかも知れない――。
そうして私は、そのさまを傍で見つめている。